ぶらりアイドル、行く当てもなく。

沙水 亭

第1話 彼女との出会い

俺は坂本さかもと 良樹よしき、ごく普通の大学生一年生だ。


そんな普通の大学生はどこにいるかと言うと……


『みんな〜!今日も来てくれてありがと〜!!』


〚うおおおお!!〛


アイドルのライブ会場である。





事の経緯は……


「なぁ頼む!ペアじゃないと無理なんだ!」


こいつは俺の親友で平田ひらた 智大ともひろ、ドルオタ(アイドルオタク)で今回も推しのライブに行くそうなんだが……


「よく見て買えよ」


なぜかペアじゃないとダメなチケットを買ったらしい。


「これしか枠空いてなかったんだって〜!」


「うるさい授業中だぞ」


周りが見えてないのが玉にキズ。


「頼むよ〜」


「……しょうがねぇな、いつだよ」


「やったぜ!明日!」


「はぁ!?」


「そこ!うるさいよ!」


「「すみません!!」」








……で、現在に至る。


「う、うお〜」


「おいおい恥ずかしいのかい?童貞坊や〜」


「うるせぇ、お前もだろ」


「俺は恥ずかしくないし〜」


「言ってろ」


「っと、ライブ終わったな〜 いや〜やっぱ違いますわ〜」


なんの違いだよ……って言ったら長話に巻き込まれそうだからやめとこ。


「終わったなら俺は帰るぞ」


「おい……まさか握手会を忘れちゃあいないよな?」


「は?それも行くのか?」


「もちろんだろ!」


「嫌だよ!お前が一人で行け!」


「せっかくだしさ〜!な!な!?」


「っ……」






「わ〜来てくれてありがと〜」


「デュフフ……」


……これに並ぶのか?


「なんだその顔」


「……圧倒的嫌悪感だ」


「?」


ま、まぁどうせ握手っつっても数秒だ、さっさと終わらせよう。


「次の方〜」


「こんにちは〜」


「こんにちは」


こう、近くで見ると他の人とあんまり変わらないな……いや、一般人より可愛いんだけどさ。


「「……?」」


「あの、お客さん、握手」


「あっ、はい」


手を伸ばして待機してくれていたのに考え老けてしまった。


「お仕事は何してるんですか〜?」


合コンか!


「大学生です」


「わ〜!凄い!勉強頑張ってくださいね!」


元気だな……


「お時間で〜す」








「……終わったか?」


「おう!めちゃくちゃ可愛かったな〜!」


「そうだな」


「なんだよ〜ノリが悪いぜ〜?」


「そんなことねぇが?」


「帰りに牛丼奢ってやるからよ〜」


「……男に二言はねぇな?」


「もちろんよ!」


現地取ったり!







「で、何にする?」


帰りに某牛丼チェーン店にやってきた。


「牛丼特盛で」


「そんなに食うのか?」


「腹が減ったからな」


「そっか〜」


智大は慣れた手つきでタブレットを叩いて注文を確定させる。


「で、良樹」


「ん?」


「お前……最近寝れてるか?」


「は?当たり前だろ」


「なら良い」


「……なんだよ気持ちわりぃな」


「おい!気持ち悪いってなんだ!せっかく親友が心配してやってるのによ!」


「いや、事の経緯も分からない状態でいきなり寝れてるかって、気味悪ぃ」


「……それもそうか」


「で、なんでそんな事聞いてきたんだ?」


「お前最近テンション低いじゃん、だから」


「……そうか?」


「そうだよ!」


思い返せば……たしかに智大の誘いを適当に流してたな……


「……強いて言うなら」


「おう!親友の俺が解決してやるよ!」


「……最近単位がピンチだから……かな」


「……悪ぃ、俺でも無理だわ」


「だろうな……」


「それなら早く言ってくれよ〜、今日も無理やり誘うつもりはなかったのに」


「……ありがとよ」


すると牛丼が到着した。


「「いただきます」」









「ふ〜食った食った」


今日はもう寝てしまおう!


「さ〜て、鍵は〜」


あったあった。


俺は一人暮らしで、親は忙しくて仕送りしかしてこない、まぁ自由なんでそんなに苦はないがな。


「ただいま」


誰もいないアパートの一室に声をかける。


「さて、風呂風呂」







「ふぃ〜」


いい湯だな〜


「……」


そう言えば明日は休みだったな……久しぶりに買い物でも行くか。


仕送りのお金は余ってるし。




「ふぃ〜……」


風呂上がりにはやっぱりこれだよな!


パックのコーヒー牛乳!


「ん……ぷはぁ〜!」


満足感があるな!


ピンポーン!


「ん?インターホン?」


夜9時だぞ?





「は〜い」


「あの……」


女の人?それにボストンバッグ?


「1泊泊めてもらっていいですか?」


「え?」


防止でよく見えてなかったが………


「あ、あの……もしかして」


「え……?」


「アイドルの?」


「あ!」


その声!確かに今日見たアイドルの!しかも握手したあの!


「今日ライブに来てくれていた人ですよね!?」


「お、覚えていたのか……」


「もちろんです!だって握手会に立ち尽くしていた人は初めてでしたから!」


「その覚え方は……何というか……まぁとりあえず中へ」


「お邪魔します」






「で、なんでアイドルの人が俺のところに?」


「実は……私が住んでいたアパートが燃えちゃって」


「え?」


「昨日の事何ですけどね……」


「いやいや!大丈夫なんですか!?」


「私の部屋は幸いにも無事だったんですけど、流石に怖いから出てきました」


「で、他に住む宛は?」


「そのぉ〜……無くて」


「流石に計画性が……」


「うっ……昨日メンバーにも言われました」


「……で、俺のところで泊まりたいと?」


「はい!なんでもします!」


ん?今何でもって……じゃなくて!


「……軽率にそんな事言うもんじゃないですよ?」


「え?そうなんですか?」


「……男の部屋に泊まるってのも抵抗感はないんですか?」


「ありませんよ?」


本当に大丈夫か?この人……


「別に構いませんけど……」


「本当ですか!?」


「ただし!」


「はい!」


「今から通す部屋は掃除してない埃だらけの部屋なんで、覚悟してくださいね」


「はい!」







四部屋あるのだが、そのうち一つは何も使ってなかった、そのため都合は良いが。


「はい、ここです」


「思ったより……」


「埃っぽいですよね」


「いや、むしろマシかと」


そうなのか?


「まぁ好きに使ってください」


布団とか持ってくるか。







「確かここに……」


予備の布団があったはず……


「あった」





「よっと失礼しますよ〜」


「あっ!」


ん?何か見えた気がするが。


「よっこいしょ、はい布団……」


そこには灰色の下着姿のアイドルの姿が……


「し、失礼しました!」


な、なんで下着に!?


「あの〜」


「ほ、ホントにごめんなさい!」


「だ、大丈夫だから!気にしないで!」


と、言われてもなぁ……


「あの、お風呂……いいですか?」


「ど、どうぞ」






「……」


さて、どうしたものか、泊めるのは良いとしてもアイドルを泊めるって……


とりあえずテレビでも観よう。


テレビを点けると深夜番組をやっていた。


「あれ、いつの間に……」


時計を見れば23:50になっていた。


「……って、このゲスト」


今お風呂に入ってる……


結構売れっ子なんだな。


「あ、この番組」


「出てますね」


「いや〜……」


「何かありました?」


あまり浮かない顔だが。


「……実は私ストーカーされてて」


「え!?」


「しかもかなり過激なファンの人で……」


「うわ……面倒くさそう」


「もう毎日手紙が届くんですよ」


「毎日か〜」


「それも……その人に悪いんですけど気味が悪くて」


「普通に気持ち悪いですよ」


「……でも見てくれているのは嬉しいんです、あ!もちろんライブとかの事ですよ!?」


「う、うん」


「でも……他のメンバーにも被害が出たらと思うと」


「警察には?」


「言いました、でも厳重注意で」


まぁそうだろうな。


するとテレビに少し過激なシーンが映った。


「な、なるほど」


「そうなんです……それが嫌で」


「深夜番組って感じがするな」


ゴールデンタイムには映せんわな。


「あの……お兄さんのお仕事は?」


「大学生ですよ、〇〇大学」


「え!?」


「え?」


「私……同じ大学です」


「えぇ!?」


「それも……今在学中でして」


「な、なんだと!?」


「二年生です……」


「マジか……先輩じゃないか」


「あれ?そうなんですか?」


「一年生です」


「ふふ、じゃあ私の事は美咲みさき先輩って呼んでいいよ!」


「急に距離感……」


「あ、嫌だった?」


「いや?」


「ど、どっち?」


「NO」


「……どっち!?」


「全然平気って事ですよ」


「そ、そっか〜」


「あと俺は坂本良樹です」


「私は東山ひがしやま美咲です!アイドル名はミサキ!ヨロシク!」






「で、美咲先輩は明日行く当てはあるんですか?」


「ん〜っと……」


これもまた何も考えてないな。


「……別にしばらく居ても良いですよ」


「ホント!?」


「そのかわり!」


「はい!」


「家事の分担はしてもらいます」


「それはもちろん!」


まぁこの手の人は家事は苦手なのが鉄則、期待はしないでおこう。


「あ、ちなみに私家事苦手なんだけど……」


「知ってます」


「なんで知ってるの!?」


「なんとなくそんな感じがしたので」


「えぇ〜?君エスパー?」


「違いますよ」


「で、でも邪魔しない程度に頑張るね!」


「お願いします」


そんな話をしていると時間は深夜3時。


「もうそろそろ寝ないと」


「明日もアイドルの仕事が?」


「うん」


「なら早く寝ましょう」


「ごめんね、おやすみ」


「おやすみ」


アイドルとしばらく同居する事に……って冷静に考えるとかなりヤバいのでは?


…………もうこれ以上考えないようにしよう。

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