IMAGICA.1-05 攻略ポイント

 各種のゴブリンたちを討伐しながら獣道を突き進んでいくと、最後の攻略ポイントがいよいよ目前に迫ってきた。

 気づけば、ステージ1のマップもほとんど未踏の場所がなくなってしまっている。この『ゴブリンの森』には断崖や底なし沼なども配置されており、それを迂回しなければ各所の攻略ポイントを巡ることもできなかったため、最終的にはマップ上のほとんどの区域を踏破しなければならないようだった。


(ま、もっと要領よく攻略することはできそうだったけど、僕はもともと方向オンチだからなあ)


 だけどべつだん、急いでもしかたがない。ゴールの先にあるという『第一の町』というものには興味をひかれなくもなかったが、ネムリにはのんびり進むのが性にあっていた。


(『鍵の欠片』を全部集めたら、ゴール地点がマップ上に表示されるって言ってたよな。どうせまたゴブリンたちがどっさり待ちかまえてるんだろうから、気を引きしめてかからないと)


 最初の攻略ポイントでは、合計20体のゴブリンが波状攻撃を仕掛けてきたのだ。

 二番目の攻略ポイントでは、その半数がアーマード・ゴブリンであった。


(ってことは、次は10体のアーマード・ゴブリンと、10体のゴブリン・シャーマンかな? ゴブリン・シャーマンがそれだけいたら、さすがに手ごわそうだ)


 そこでネムリは、ひとつの事実にはたと思いあたった。

 ネムリは適当な順番で攻略ポイントを巡っていたのに、モンスターの難易度はきちんと段階を踏んで上昇していたのだ。最初の攻略ポイントにアーマード・ゴブリンやゴブリン・シャーマンなどが潜んでいたら、おそらくネムリもすべての『HP』を失っていたはずであった。


(それじゃあ、プレイヤーの進行具合によって各ポイントの難易度が調整されるのか。なかなかの親切設計だな)


 しかしネムリはわざわざコハクタクを呼び出してまで、それを確認する気持ちにはなれなかった。

 何はどうあれ、ネムリは順調に攻略を進めることができているのである。今は現実世界で目覚ましアラームが鳴る前にステージ1を攻略したいという気持ちでいっぱいであった。


(さあ、このあたりが攻略ポイントだぞ)


 ネムリがそのように考えたとき、正面の大樹の陰からアーマード・ゴブリンたちがわらわらと現れた。

 その数は、五名だ。ネムリは『モーニングスター』を握りしめて、それと相対した。


 と――頭上の茂みが、ガサリと鳴る。

 反射的にそちらを振り返ると、梢の陰にゴブリン・シャーマンの姿があった。


 ネムリは躊躇せず、地面を蹴る。

 ゴブリン・シャーマンが『炎の弾』を発動させる前に、ネムリは攻撃をヒットさせることができた。

『88pt』というダメージポイントの表示とともに、ゴブリン・シャーマンの肉体は黒い塵と化す。


 そのまま枝の上に飛び乗ったネムリは地上のアーマード・ゴブリンを狙うべく、視線を巡らせた。

 すると、三メートルほど離れた別の木の上に、二体のゴブリン・シャーマンが出現していた。


(くそ、まだいたのか!)


 ネムリは自分の俊敏性を信じて、そちらに飛びかかった。

 ゴブリン・シャーマンたちの掲げた杖の先が、ぼうっと赤く輝き始める。

 一体は、先制で仕留めることができた。

 しかしその間に、もう一体のほうが『炎の弾』を放出してきた。


 至近距離であったため、ネムリは顔面にそれをくらってしまう。

 顔全体がびりびりと痺れて、『45pt』のダメージポイントが脳裏に閃いた。

 なおかつ、ネムリはその衝撃で木の上から墜落してしまった。


 待ちかまえていたアーマード・ゴブリンたちが、奇声をあげて襲いかかってくる。

 ネムリは地べたにひっくり返ったまま『モーニングスター』を振り回して、敵の斬撃を弾き返した。


(動きの遅いアーマード・ゴブリンで助かった。普通のゴブリンだったら、二、三発はくらってたな)


 防御のついでで一体のアーマード・ゴブリンを打ち倒し、とんぼを切って間合いを取る。現実世界では決して実現できないような、軽やかなる身のこなしだ。


 残り四体のアーマード・ゴブリンたちが、のろのろと押し寄せてくる。

 そして頭上からは、炎の弾丸が襲いかかってきた。

 それをかわしたネムリは、迷わず木の上のゴブリン・シャーマンに狙いをつける。

 魔法防御力が低く、遠距離攻撃もできないネムリには、このゴブリン・シャーマンこそが一番の難敵であったのだ。


 ネムリが『モーニングスター』を一閃させると、ゴブリン・シャーマンはあっけなく消滅した。

「ふう」と息をついてから、ネムリは地上のアーマード・ゴブリンたちに飛びかかる。


 俊敏さに欠けるアーマード・ゴブリンたちは、ネムリの敵ではなかった。

 しかし、残る四体を掃討しても、バトル終了のアナウンスが流れることはなかった。


(やっぱり、この一団が攻略ポイントの門番なんだな)


 ガサリ、ガサリ、と頭上から不吉な音色が響く。

 そちらに目をやったネムリは、思わず驚きの声をあげてしまった。

 左右の樹木の枝の上に、三体ずつのゴブリン・シャーマンが出現していたのだ。


(予想の範囲内とはいえ、ちょっと厳しいぞ)


 ともあれ、先制攻撃のチャンスをみすみす失うわけにはいかない。

 ネムリはまず右側の木の上へと跳躍した。

 それは五メートルぐらいの高みであったが、ネムリには難なく飛び移ることができた。


 一体のゴブリン・シャーマンを、それで撃退する。

 すると、同じ木の上に陣取っていた二体が同時に『炎の弾』を繰り出してきた。

 ネムリは慌てず、さらなる高みに跳躍してそれを回避する。


 すると今度は、向かいの木の上から三体のゴブリン・シャーマンが『炎の弾』を放出してきた。

 ネムリは身をよじったが、一発は腹にくらい、もう一発は右肩をかすめてしまう。『54pt』『15pt』のダメージポイントが浮かんで消えた。


「アイテム、『ポーション』を使用!」


『50pt』だけ、それで回復することができた。

 そうして手近なゴブリン・シャーマンのもとに降下しつつ、今度はスキルを発動させる。


「スキル、『六道の舞』!」


『モーニングスター』が、ぼうっと白い輝きを帯びる。それでゴブリン・シャーマンを叩きのめすと、『89pt』のダメージポイントとともに同じ数字がネムリの頭の中にも浮かびあがった。

 与えたダメージだけ自分が回復できるなら、これで『HP』はほぼ全回復のはずだ。


 枝の上に降り立ったネムリは、危なげなく最後の一体を討伐する。

 そうして向かいの樹木を振り返ると、三発の『炎の弾』が飛来してきた。

 ネムリは地面に飛び降りることでそれを回避して、その勢いのまま、向かいの樹木へと跳躍する。


 最初の一体は、先制で撃退することができた。

 枝に飛び乗ったネムリはいつでも逃げられるように身構えながら、残りの二体と相対する。


 すると、奇妙なことが起きた。

 手前にいた一体が木の杖を振りかざして、飛びかかってきたのだ。

 もう一体はその背後で首飾りをまさぐりながら、何やらごにょごにょとうめき声をあげている。


 ネムリは小首を傾げつつ、飛びかかってきたゴブリン・シャーマンを一撃で消滅させた。

 至近距離での肉弾戦なら、今さらゴブリンに遅れを取るネムリではなかった。


 最後のゴブリン・シャーマンはネムリをにらみすえながら、まだ首飾りをまさぐっている。

 すると、その杖の先がぼんやりと赤く輝き始めた。

 しかし、なかなか『炎の弾』が放たれる様子はない。


(もしかしたら、二発撃ったらしばらくは魔法を使えないのかな?)


 ちょっと拍子抜けした気分で、ネムリはそのゴブリン・シャーマンの頭にも『モーニングスター』を叩きつける。攻撃魔法を発動させる前に、そのゴブリン・シャーマンも消滅した。


(何だ、だったら先制攻撃にこだわる必要はなかったな。二発撃たせてから、じっくり料理すればよかったんだ)


 ネムリは、地面に降り立った。

 すると、横合いの茂みから第三陣が姿を現した。

 五体のアーマード・ゴブリンと、その背後に控えた一体のゴブリン・シャーマンである。


(よし。これできっちり、20体だな)


 しかし今回のアーマード・ゴブリンは、妙に巨大な盾を掲げていた。

 ネムリが『モーニングスター』を繰り出してもそれで防御するばかりで、なかなか反撃に転じてこようとしない。五体のアーマード・ゴブリンは防御に徹しながら、じりじりとネムリに詰め寄ってきた。


(こいつは、もしかして――)


 いったん距離を取ろうとしたネムリのもとに、炎の弾丸が飛来してくる。

 ネムリは何とかそれを回避してみせたが、その先から戦斧が振りおろされてきた。

 鈍い衝撃とともに、『35pt』のダメージポイントが閃く。

 アーマード・ゴブリンたちは、面頬の下で笑っているようだった。


(なるほどね。二種のモンスターの連携攻撃か)


 あらためて、ネムリは後方に飛びすさった。

 しかし、ゴブリン・シャーマンは『炎の弾』を発動しようとはせずに、アーマード・ゴブリンたちに守られながらじりじりと接近してくる。


(しかたない。一発はくらう覚悟で、正面突破するか)


 回復アイテムはすでに尽きてしまっていたが、少なくともこの場ですべての『HP』を失うことはないだろう。乱れてもいない呼吸を整えてから、ネムリはアーマード・ゴブリンたちに突進した。


 アーマード・ゴブリンたちは、また防御に徹している。

 巨大な盾にいくら『モーニングスター』を撃ち込んでも、ダメージポイントは表示されない。

 しかしそれでも、俊敏性においてはネムリのほうが圧倒的にまさっているのだ。ネムリは何とか盾の隙間に『モーニングスター』の先端部をねじこみ、一体のアーマード・ゴブリンを討伐することができた。


 そして、霧散する黒い塵をかき分けるようにして、『炎の弾』が繰り出されてくる。

 ネムリがすかさず身を伏せると、足もとに横殴りで長剣が振るわれてきた。

 ネムリは『モーニングスター』で、その斬撃を弾き返す。


 一発はくらう覚悟であったが、その一発も防御することができた。

 となれば、後はネムリのものである。ネムリはおもいきり跳躍してアーマード・ゴブリンたちの頭上を飛びこえると、首飾りをまさぐっていたゴブリン・シャーマンの頭を『モーニングスター』で粉砕した。


 さらにその勢いのまま後方を振り返り、無防備であったアーマード・ゴブリンの背中にも『モーニングスター』を叩きつける。

 残りの三体は咆哮をあげながら、ネムリに襲いかかってきた。

 しかし、ゴブリン・シャーマンさえ片付けてしまえば、動きの遅いアーマード・ゴブリンはネムリの敵ではなかった。


 十秒もかからずに、討伐は完了する。

 すると、脳内にアナウンスが響きわたった。


『経験値90、ゴールド40を獲得しました』

『特別アイテム「鍵の欠片」を獲得しました』


 ウィンドウのマップ上には、これまで存在しなかった赤いマークが浮かびあがっている。最後の『鍵の欠片』を獲得したことによって、ステージ1のゴール地点が開示されたのだった。

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