カップル配信者、異世界で頑張る!~幼馴染と仲良く冒険しているだけなのに、なぜか美少女配信者からイラつかれる~
富浦
プロローグ
薄暗い森の中。俺達は茂みの陰に身を潜め、息を殺していた。
湿った土の匂いに、血と肉の生臭さが混じっている。
茂みの向こうをそっと覗くと、そこには大きな鬼達がいた。深い緑色の鬼だ。昔話に出てくる鬼に似ているが、顔つきは大きな牙を生やした獣人のようだ。
地面には食い散らかした動物の死骸が転がっている。ついさっきまで食事中だったんだろう。
食事の最中じゃなくて良かった。俺や琴音はともかく、アリサさんはきっと卒倒してた。
「全部で六体。琴音……いけるか?」
「ちょっと大きいけど、大丈夫でしょ」
俺の問いかけに、幼馴染の琴音がうなずく。
琴音のぱっちりと大きい目がすうっと細められ、凛とした戦闘モードに切り替わった。
「いやいや! あれはどう見たって無理よ!」
目をむいて声を上げたのは、少し年上のアリサさん。オーバーリアクション過ぎて金髪ツインテールが激しく揺れている。ついでに声も大きすぎだ。なんで息を殺して隠れてるのか、理解しているのか? 配信映えを狙っていると言うより、きっと素の性格だと思う。
俺は呆れつつも苦笑し、腰を上げて静かに茂みから手を伸ばした。
鬼達が気づく前に、先手を打つしかない!
「輝き燃えたる火の精霊よ。我に集いて力を示せ!」
突き出した手の先に炎が現れ、回転しながら膨らんでいく。
「ファイアーボール!」
バレーボールほどになった火球が、緑鬼に向かって突き進み、着弾と同時に爆発四散。轟音と共に緑鬼の上半身が吹き飛んだ。
「嘘でしょ!」
アリサさんの声が裏返った。漫画みたいなリアクションだな。さすが人気配信者。
残った緑鬼の数は五体。目を凝らすと鑑定スキルが発動し、緑鬼の頭上にヴァルオグ・レベル7やレベル8と表示された。
琴音もファイアーボールを放ち一体仕留めていた。
アリサさんもやけくそ気味にファイアーボールを放つが、ヴァルオグの胸を焼いただけだった。それでもヴァルオグはひるんだので問題なし。 奇襲成功だ!
「琴音!」
「
俺は茂みから飛び出し、走りながら剣を抜き、ヴァルオグ達目掛けて突き進む。
「はぁぁあっ!」
「てやあぁあっ!」
「ちょっと待ってぇ!」
奇襲なのに声を上げてどうする!? って思うけど、わざわざ声を上げて突っ込んだのは、ライブ配信中だからだ。ちょっとはかっこよく映ってるかな?
俺は動揺しているヴァルオグの左わき腹を、走り抜けながら切り裂き、振り向きざまに剣を上段に構える。
「スラッシュ!」
剣を振り下ろす瞬間、スキルが発動して剣が淡く光る。そしてそのまま分厚い筋肉ごと骨を断ち斬り、ヴァルオグは断末魔を上げ、前のめりに倒れて絶命した。
「ライジング・カット!」
琴音がダンッと踏み込み、剣を斬り上げながらスキルを発動させる。
斬り上げに特化した斬撃スキルが、ヴァルオグを斬り裂き、返す剣で止めを刺した。
これで残り二体だ!
「ファイアー・ボール!」
アリサさんが茂みから二発目の火球を放ち、ヴァルオグの一体に直撃させた。しかし威力が弱い。
「なんで倒れないのよ! こ、琴音ちゃん!」
「任せて!」
琴音が向かったので、俺はもう一体のヴァルオグに左手を突き出した。
「風の精霊よ。我が意に従い雷光となれ! ライトニング・ボルト!」
轟音と共に空気が震え、青白い稲妻が宙を走り、一瞬にしてヴァルオグを包み込んだ。
「ぐおおおっ!」
放っておいても死にそうだけど、琴音とアリサさんが気になる。
「クレセント・カット!」
斬撃のスキルで止めを刺して、琴音の方を向く。
「スラッシュ!」
心配するまでのもなく、琴音がヴァルオグに止めを刺していた。
「アリサさん大丈夫!?」
「大丈夫じゃない! 何で格上のモンスターとばっかり戦うのよ! 普通同レベルか格下を狙うでしょ!? っていうかトレジャーハントイベントなのよ!? もうちょっとレベルが低そうな場所にしようよ!」
「これくらい普通に倒せるよ?」
「普通じゃない! と言うかなんで同じレベルなのに、こんなに魔法の威力が違うのよ! 高校生なのになんであんなに動けるの!?」
「えっと……私と秀ちゃんは子供の頃から剣術を習ってたんだ」
「じゃあ魔法は? 何で私と威力が全然違うの!?」
「霊感が強いんだよ。たぶん」
「意味わかんない! 夜中こっそりレベル上げしてたでしょ!? ステータス見せて!」
「落ち着けって。ほら」
俺はメニュー画面を空中に出現させ、ステータスを表示させると、アリサさんの方へ向けた。
「どれどれ……え? 何でレベル同じなのに、ステータスがこんなに違うの……バグってない? それともチートスキルでも持ってるの!?」
「チートじゃないよ。元々運動してたら、その分ステータスにプラスされてるみたい。秀ちゃんとステータスを見せ合いっこしたら、結構ばらつきあったよ」
「昨日と今日、ちょっと早起きしてトレーニングしたんだ。レベルを上げなくても、走りこんだり、筋トレしたら、その分ステータスに反映されるみたいだぞ」
「早起きって……良く起きれるわね」
「アリサさんは遅くまでライブ配信してたけど、俺達はそこまで遅くなかったから」
「だとしてもこんな数値ありえないわ!」
アリサさんが頭を激しく振り回しながら叫んだ。凄いオーバーリアクションだけど、配信を意識してやってるのかな? 俺も見習わないと。そう思って俺達の周りを飛んでる妖精を見る。
彼女らの目がカメラであり、耳がマイクだ。
ダメだ。目が合っても、気の利いたセリフが出てこない。
「……トレーニングかぁ。みんな一緒にダイエットって配信するのもありかな? 早朝ってのがネックだけど……。通勤通学前にランニングって、ありえないか。いっそのこと、トレーニングの日を作ってもいいかな」
アリサさんは凄いな。さっきも別に本気でキレてるわけじゃない。配信を意識してのセリフだ。まだ出会ったばかりだけど、それくらいなんとなくわかる気がする。異世界転移する前に、アリサさんの配信を見ていたからかな?
俺達は今、異世界転移して、このゲームのようなファンタジー世界にいる。
ゲームのようにレベルやスキルがあるけど、命のやり取りは現実そのものだ。
どうしてこんな世界にいるのか──それを説明するには、数日前にさかのぼることになる。
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