二歩目を踏み出す今日の良き日に

作島者将

二歩目を踏み出す今日の良き日に

「なにしてるの?」

「え?」

「いっしょにあそぼ?」


 懐かしい、あれからもう15年経っているんだな。


「たーっち!!つぎはソウちゃんがオニだよ!!」

「あ、やったなー!!」


 僕には幼馴染がいる。


「いたいよ~~~~」

「もー、ソウちゃんはナキムシだな~」

「トモリちゃんは、なかないの?」

「ころんだくらいじゃ、なかないよ」


 3歳のころ、公園のジャングルジムで僕たちは出会った。


「よーちえん、おなじだねー!!」


 もちろん、地区が同じだから幼稚園も同じだった。


 おままごとのように思うだろう。こんなの、恋と呼ばぬ人もいるだろう。

 でも、誰が何と言おうと、これが僕の初恋だ。


「皆さん、ご入学おめでとうございます」


 時が経つのは早いもので、すぐに小学校に入学した。


「はいはーい、2人とも寄って寄って~!!はい、チーズ!!」


 小学校では互いにクラスが分かれてしまったから、休日にちょっと遊ぶ程度の仲になった。


「ともりちゃん……いますか!?」

「おや、ソウちゃんじゃない。今呼んでくるわね~」

「ん、どうしたの~」

「あ、あぁ、あそぼ?」

「お、いいよ~」


 恥じらいを感じるようになったのは小学5年生ぐらいからだった。


 ただの友達なのに、僕には別に好きな人がいたはずなのに……

 どうしてこんなにも緊張するのだろうか。


「ソウちゃん、ソウちゃん?」

「あぁ!!どうしたの?」

「私達、来週から中学生だって」

「あぁ、そうじゃん」


 中学生になれば、制服を着て、みんなが大人になっていく時期だ。


「ごめんね~、私のお母さん過保護だからさ~登下校付き合ってもらうことになっちゃった」

「別に気にしてないよ」


 僕たちは中学の登下校を共にする。


「おいおい、お前、梁(やな)田(だ)灯(とも)理(り)とどんな関係なんだよ」

「と、友達だよ」

「いやいや、いつも一緒に帰ってるだろ!!」

「だから友達だって!!」

「でも私の初恋はソウちゃんだよ?」

「ちょっ!!ともりちゃん話を紛らわしくしないで!!」


 というか、僕たち、あの頃両想いだったんだ。


「でもだめだよ、今のソウちゃんはエミちゃんが好きなんだから」

「ともりちゃん、あまり大声で言わないで!!」


 あーあ、なんで別の人の事なんか好きになったんだか。


「ソウちゃん、麦津さんの新曲聞いた!?」

「うん!!聴いたよ!!やっぱりあのダークな感じがさー」


 運命の人なんてのは、気付かない物なのだそう。


「ごめん、ともりちゃん、その、このまま外野に冷やかされてたら、お互いの恋愛に支障が出るかもしれないし、一緒に登下校するのやめない?」

「……そう、だね」


 中学1年の終わり、僕たちは別登校になった。


「あ、おは……」


 なぜだろう、言えない。

 いつもしていた挨拶ができない。


 登下校の時も、何も言わずに追い抜くし、追い抜かれるし、信号で隣になったら気まずい。


 なんであんなこと言っちゃったかなー。


 疎遠になって、もう5年か。

 僕は今年から県外の大学に入学して寮暮らしになった。

 家が離れて、ますます顔を見る機会がなくなった。


「ともりちゃん、もう僕に興味なんかないだろうな」


 あれからの5年間で2回恋人ができた。

 好きな人も何度かできた。


 で、気付いたよ。

 失恋するたびにともりちゃんとの記憶が蘇るんだ。

 僕が好きになった人の特徴も、文字で並べればともりちゃんに近い人ばかりだ。


 無意識だったんだな。

 僕はあなたが好きだったみたいだ。


 ともりちゃんのSNSにはいつもアイドルの写真やアニメのイケメンキャラの写真が上がっている。


 投稿しないだけで、もう彼氏がいるかもしれない。

 僕が今メッセージを送ったら不自然かもしれない。失礼かもしれない。迷惑かもしれない。


 だけど、ここで区切りをつけておかないと、僕はきっと未来に進めない。


 202X年12月24日、クリスマスイブ

 雨天に土が泥濘む今日の良き日に、僕は2歩目を踏み出すことにする。


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日立 宗一ひたち そういちからメッセージが届きました。

『久しぶり、元気?』

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