御徒町

@ticktackorange

0.

彼と彼女は、小学校の頃から互いを知っていた。

同じ地域に住み、同じ通学路を使っていた。彼女は一学年上で、常に一歩先にいた。成績も、背の高さも、次に進むタイミングも。


中学受験をしてから、二人は同じ経路の電車に乗るようになった。朝と夕方、同じ車両にいることがあった。会話は多くなかったが、顔を上げればそこにいる、という距離だった。特別な出来事は起きなかった。ただ、時間だけが並走していた。


高校生の頃、一度だけ繋がりかけたことがある。

家の前の公園だった。夜で、人はいなかった。最後までいかなかった。場所が悪かったのか、二人とも子どもだったのか、理由は分からない。

代わりに、約束だけが残った。次に会ったとき、もしまだ互いを好きでいられたら、その続きをする。


大学に入って、二人は大人になった。

酒を飲み、金を稼ぎ、時間の使い方を覚えた。セックスも、それぞれ別の相手と経験した。互いにその事実を知っていた。話題にすることはなかった。

大学三年の夏、家の前の公園で再び会った。彼女は「一人暮らししてたらな」と言った。彼は曖昧に笑った。

何も起きなかった。隔たりはショーツ一枚分だったが、それ以上近づくことはなかった。


社会人になってから、彼は都内のIT企業で働いた。朝から夜までパソコンの前にいた。生活は安定し、時間は減った。

三年目の夏、彼女から連絡が来た。結婚する。最後になるから、顔が見たい。

彼は祝福の言葉を選ばなかった。空いている時間だけを返した。


翌日の夜、秋葉原で会った。

改札の外で、彼女は立って待っていた。特別な表情はしていなかった。年相応に落ち着いて見えた。

たわいもない話をした。仕事のこと、暑さのこと。未来の話は出なかった。


ヨドバシカメラに寄った。彼女はイヤホンを選んだ。理由は言わなかった。会計を済ませ、袋を受け取った。

外に出て、歩いた。どちらからともなく御徒町の方向へ向かった。


ラブホテルに入った。

手続きは淡々としていた。部屋は普通だった。

服が減り、時間が進んだ。


これは、約束の続きだった。


行為は長くなかった。互いに慣れていた。初めて知ることは何もなかった。

終わったあと、彼女はベッドの端に座った。スマートフォンを取り出し、写真を一枚見せた。白いドレスを着た彼女が写っていた。

彼は何も言わなかった。


これで終わる。


ホテルを出たあと、二人は並んで歩かなかった。

御徒町の駅前で、彼女は立ち止まり、画面を一度だけ確認した。

言葉は交わさなかった。必要なことは、すでに終わっていた。


改札の前で、彼女は軽く会釈をした。

彼も同じように頭を下げた。


それぞれが別のホームへ向かった。

電車が動き出しても、窓の外に特別なものはなかった。


途中で降りる理由は、もうない。

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