保健室の吏途先生

宮田

保健室の吏途先生

「ねぇ、吏途(りと)ちゃん。」

「先生にちゃん付けすんなって、何よ?」


養護教諭の

狭間 吏途(はざま りと)と

永吉 満(ながよし みちる)生徒が話していた。


「吏途ちゃんはさ、恋ってした事ある?」

「さぁな、あった様な、なかった様な。」


狭間はパソコンに向かいながらも何処か興味

無さげに答える。


それを面白く無さそうに満はムッとすると

「あーあー、」という声と共に椅子の背もたれに

身体を預ける。


「吏途ちゃんはモテる?」

「さぁー、」


「じゃあ、最近告白された?」

「んー、」


《上手く、誤魔化してやがる…》


上手くひらりはらりと交わしながら何も答えて

くれなくて断念した様に満は「はぁー、」と

狭間の使っているデスクに項垂れる様に突っ伏す


「まぁでも、気になる子はいるかな?」

「え?!誰?!」


飛び起きるようにして狭間に食いつく様に

ガバッと近づく。


「さぁ?誰でしょうね?永吉サン。」


ふふっと微笑む様にしてツンっと満の額を小突く。


「ぇ、そ、それって、」


少し期待している様に狭間を見つめる。

その瞳は何処か揺れて見える。


「ぷはっ、あはははっ!はー…、嘘だよ。

お前から見たら先生はおじさんだぞ〜お前が

大人になった時には先生は年寄りだ。」


ケラケラと笑いながらも楽しそうに満との一時を

何となく過ごしつつパソコンを叩く。


そんな事をいいながらも保健室でダラダラして

談笑して過ごしていると、ハッとしたように

満は狭間を見つめる。


「吏途ちゃん今度の卒業式って午後まで学校

いたりする?」


「あー、?卒業式だぁ?

うーん居るけど、多分?なんで急に卒業式、」


すると、被せるよう満が言った。


「放課後!放課後、3年5組の教室に来てください」


満はそう言うと、鞄を肩にかけて保健室のドアの

方に歩いて行くと振り返りながら手を振り


「またね!狭間先生…!」


この時、珍しく満が苗字で狭間を呼んだ時だった

《ガラガラ…》

ドアが閉まりシーンとした空気の保健室。


「……はぁ、彼奴は…、」

デスクに突っ伏すようにしてため息をつきながら


《…誤魔化す身にもなれよな、》


そう心で思いながら参っている狭間でした。

それから驚く程に早く間に時間は過ぎていきます。


「あ!吏途ちゃん!おはよー!」

「はよー。」


「吏途ちゃん今日も来たよ!」

「はいはい、物好きだなほんとにお前は」


「吏途ちゃん!」

「はーい。何ですか 満サン。」


そんな他愛も無い日常が過ぎ去り、

卒業式の日の放課後。


「おーい、満サーン?…帰ったのか?」


誰もいない3年5組の教室、満の机の上に一枚の

手紙があるのに気づき手に取るとそこには

満から、狭間へのお手紙がありました。


「回りくどいことをするよ、本当に。」


そう言いながらも近くにあった席をひくと

腰をかけて手紙を開きます。



拝啓、狭間先生へ。

私ね狭間先生が好きでした。でもね、きっと私は

先生の狭間先生が好きだから、狭間先生と居る

放課後の時間も、狭間先生とたまたま会って

話したりした休日もいい思い出です。

狭間先生と過ごした思い出を忘れないよ。

狭間先生、3年間ありがとう!

大好きでした。

今は、さようならを言いたいんだ。

きっとまた絶対会えるもんね。

大事な思い出が詰まった3年間だったよ。

ありがとう。満より。


「馬鹿だな…」


そう言うと顔を手紙から逸らして外を見る、

少し早い桜がヒラヒラと舞っていて夕暮れ時の

空を照らしています。


「卒業おめでとう、満サン。」

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保健室の吏途先生 宮田 @miya_o3

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