――、あるいはこれは、卵の世界のPrologue

直三二郭

――、あるいはこれは、卵の世界のPrologue

—1―


「あの卵の実験は〜、今日だよ~」


 ノルンの間延びしいた声で僕、フィンは目を覚ました。

 いや、厳密には声ではない。起きたのはノルンの体重で、だ。ノルンは昔から僕が眠っているのを見かけると、乗る。全身で。



「ノルン、お互いにもうすぐ大人なんだから、もうこんな事しないって、お父上に言われてるでしょ」

「もうすぐ大人〜、つまりまだ子供〜。だからやってもい~いん~です~」



 そう言いながら僕の体に馬乗りのまま、体を上下に揺らす。楽しそうに。何が楽しいんだか。

 僕とノルンの位置が逆なら、大変な事になるだろうな。子供の頃からの付き合いだから、許されているけど。

 そう思いながら上半身を起こして、ノルンを床に置いた。そうしないとベッドからは起きれないから。



「着替えるから、ノルンは外に出てて」

「ひさしぶりに〜、フィン兄の成長を確認するので~、ここにいま~す」

「じゃあ僕もノルンの着替える姿を見て、成長を確認してもいいんだ?」

「家の両親に〜、挨拶をした後だったらね~。あ、私はもうしてるから~」

「……とにかく、出ていきなさい!」

「や〜い、フィン兄の意気地なし〜。男ならガツンとしないと〜」



 怒ったふりをしてそう言うと、楽しそうにノルンは部屋を出て行った。

 僕が十五で、ノルンは十四。成人は十六だ。だから成人らしい振る舞いになってもおかしくないのに、あの子はむしろ年より下に見える振る舞いをしている。

 一応この子は、この地の姫だというのに。






—2―


 ここ、マスニティア地方の領主がノルンの父親で、ノルンの今の姓名はノルン・マルティニアになる。僕も同じでフィン・マスニティアだが、別に兄と妹ではない。又従兄弟またいとこだ。

 両親が幼い時に戦争で命を落とし、どちらにも兄弟がいなかったので、当時は領主だった祖父に引き取られた。その祖父も亡くなると、予定通りに領主は父親の従兄弟がなり、領主は祖父から変わっても僕を引き取ったままにしてくれている。

 ありがたい話だ。

 だから領主であるノルンの両親に、娘をくださいなんて言えるはずがない。ノルンが本当に言っているとしたら、子供の冗談と本気にしていないだけだろう。

 それにノルンは五男三女の末っ子て、全員が猫可愛がりしている。ひょっとしたら、ノルンの将来を心配するほうがいいのかもしれないな、うん。



「終わった~、入るよ~」



 着替えるが終わるのとほぼ同時に、ノルンがドアを開ける。やっぱりちゃんと嫁に行けるか、心配だ。



「……ちゃんと許可を取らないと、入ったらダメだろ」

「大丈夫〜、こんな事するのは〜、フィン兄だけだから〜」

「僕でもしたらダメだってば」

「いいんです~。それよりご飯まだでしょ〜。私はもう食べたから〜、早く食べてね~」



 そう言いながら、楽しそうに僕の腕を掴む。

 何を言っても無駄か。そう思い一旦は諦めて、素直にご飯を食べる事にする。父親は娘に説教ができないので、姉のどちらかに後で頼もう。

 そう思い、ノルンに掴まれたまま食堂へと行く。領主の家族と、親戚とはいえ僕は食べる場所が違う。そこはちゃんとしておかなければならない。

 ノルンがちゃんと理解してくれたのは二年前で、それまでは一緒に食べていたんだけどね。






—3―


「しかしノルン、今日は朝食を食べたのが早すぎない?」



 食堂に行きパンとベーコンを乗せた皿を貰うと、そう言いながらテーブルに着いた。座る事でようやく、ノルンは腕を放してくれる。

 本当は、ノルンを呼び捨てにするのはダメな事だ。でもノルンが領主に言って、僕がノルン以外の呼び方はダメと決めてしまった。

 成人するまでは、ノルンのワガママにつき合ってくれ。領主にそう言われたら、成人したら家臣籍に移る身としては従うしかない。



「実験を見に行くから~、フィン兄を起こすために〜、早く食べました~」

「いや、朝に言ってなかったけど、行かないよ? 興味が無いし、訓練あるし」

「私に事情があるから〜、行くからね〜。だからフィン兄も行かないと〜」

「何で?」

「デートを兼ねているから〜」



 そう言われて僕は何も言わず、パンを半分ほど口に入れる。パンが口に入っている間は、何も話さなくていいから。

 この場合どう言って断ったら、納得してくれるのだろうか。そう考えていると口からパンが無くなり、今度はベーコンを食べる。

 そうして無言でいるとノルンは満面を笑みを変えず、僕にどうする事も出来ない情報を与えてくれた。



「フィン兄は訓練を休んで〜、私の護衛が今日の仕事で〜す。だから一緒に実験場に行きま~す。私の準備はできてるから〜、フィン兄の準備ができれば出発し〜んこ〜う!」

「……!」



 ノルンの理不尽な命令には、ベーコンを飲み込む音で答えた。

 これぐらいなら領主なら、彼女のワガママと言うほどでもない。実験の見学人が一人増えるだけで、一応護衛に一人を出すなら、立場を理解している親戚に任せるに決まっている。



「これが〜、命令書〜」



 本物の、領主のサインが書いてある。

 完璧パーフェクトだ、ノルン。これで考えていた今日の予定は全て潰れた。

 まあ予定と言っても訓練だけで、大体毎日ノルンに邪魔をされているんだけど。






—4―


 実験とは、僕たちは卵の内側に住んでいる。大雑把に言えばそう言う実験で、でももちろん本当に卵に住んでいるわけじゃない。

 この世界は卵の形の姿、そういう事だ。

 真上を見たら太陽があり、どこにいてもそれは変わらない。そして太陽が暗くなるのも、どこにいても同じ時間らしい。

 何で卵の形なのか、別に丸でもよくないか?

 その説に対しては、北極きたきょく南極みなみきょくが寒い事で説明ができるらしい。太陽が卵の真ん中にいるとしたら、両極は少しだけ離れている。だから寒くなるとノルンに言われて、僕は反論が出来なくて納得するしか無かった。

 別に反論なんてする気は無いけど。

 ……そう、全部ノルンに聞かされた事だ。そしてノルンが聞いたのは、ガルンと言う人物だ。

 ガルンはそれを証明するために、今は使っていない土地を使わせてほしい。そう言ったらしい。

 そして土地を使って、穴を掘る事をするそうだ。こお世界が卵の形なら、殻がある。殻の向こうに行けば、ここが卵の形だと証明できるんだとか。

 正直これは、良くわからない話だ。

 しかし今は何も使っていない土地の使用料を払うと言われたら、為政者としては考える所だろう。

 何でもガルンは戦争に参加して、それで結構な額のお金を貯めたそうだ。

 お金を払って地元の人間を使い、実験場を整備する。……それとまあ、色々やったのだろう、きっと。

 とにかくガルンの実験場は正式に認められ、今日ついに実行されるというわけだ。






—5―


「ノーティスお兄様、お待たせいたしました」



 喋り方が普通なのは、他にも人がいるからだ。あの言い方をノルンがするのは、もう、僕しかいない時だけ。

 実験場の一部は客席が作られて、さらに一番豪華な席にはノルンの兄で領主の長男、ノーティス様が座っていた。

 ガルンの実験には一番に賛成していたらしい。だから来ていない領主に変わって、ここに来ているのだろう。



「おう、こっちだ。座れ座れ。フィンも、本職の俺の護衛がいるんだ、お前も座れ。素人が立っていても邪魔になるだけだからな」

「はい」



 もちろん逆らわず、ノルンの横に座る。他に空いた椅子が無かった、兄は妹の為に仕組んだのだろう。



「もうすぐあの穴の中で〜、爆発が起こって〜、殻が破れるんだって〜」



 ノルンに小声でそう言われて、その穴を見る。小さいのは、ずいぶん遠いからだろう。



「爆発するからな、俺達は遠くにいないと危ないだろ」



 僕の顔だけで、何を考えたか分かったのだろう。さすがは次期領主。

 その声に大げさに頷いていると、一人の男が立ち上がり、ノーティス様に声をかける。



「それでは閣下、私は近くまで行って最終チェックをします。それで問題なければ、通信機で連絡しますので、実行をお願いいたします。……お嬢様も、これにて」



 そう言って歩いて行ったが、あれがガルンか。

 しかし、閣下って……。



「あいつは俺の元部下なんだよ、だから今でも閣下と言ってしまうんだ」

「なるほど。だからこんな事が出来るんですね」

「そう、別に袖の下を貰ったわけじゃない。部下の頼みは元がついても、叶えてやらないとな」

「そ、そんな事は考えても——」

「気にするな、お前の年でそんな事は考えないだろ。言われたのは他の人からだ、親父にも」

「それは……」



 僕が困ると、それを見てノーティス様は笑う。

 そして僕達二人を見て、ノルンは拗ねていた。



「私の頭の上で二人で、ふ〜た〜り〜で、何のために連れて来たか、分かっているのでしょうか、お兄様?」



 そう言われて、兄は肩をすくめた。



「すまんすまん、後は好きにしていいぞ」



 そう言って、穴を凝視するノーティス様。こちらを見ないようにか?

 そう思っていると、ノルンがとんでもない事を言う。



「じゃあ〜、私達が結婚する方法を教えま~す」






—6―


 誰と、誰が結婚だ?

 そう考えたが、もちろん誰の事を言っていたかはわかっている。この状況では僕とノルンの事に決まっている。

 僕もそこまで、鈍感ではない。



「僕たちが結婚できるわけないでしょ」

「したくないの〜?」

「……そう言う事じゃなくて——」

「したくないとは〜、言ってないもんね〜」



 家臣になる僕に、領主は娘を嫁に行かせるわけがない。両親がいない、一人きりの僕の所になんて。



「……年頃の娘にしたくないって言ったら、失礼だからね」

「結婚できるようになったら〜、何ていうのかな〜?」」



 話をずらそうとするが、ずらせない。

 ……痛い所をつかれた。結婚したくないなんて、言えるはずがないのに。



『問題はありません、閣下。予定通りなお願いします』

「あ、分かった。じゃあカウント始めろ!」

「了解しました! 爆発、千二百秒前! この間に速やかに退避を!」



 ノーティス様の声も誰の声も、ノルンの声以外は僕にはあまり聞こえない。嘘をつけなくて、ノルンの顔も見れないから。



「どっちか言ってくれたら〜、あきらめがつくんだけどな〜」

「……言えるわけ、ないじゃないか……」



 それだけが、かろうじて言えた。カウントの音を聞きながら。



「爆発して、しばらくしたらあの大岩が動いて穴をふさぐからな。向こうに行くんじゃないぞ」

「言って、くれないんだ……」



 ノルンの、声が変わった。



『閣下、今まで大変お世話になりました』

「気にするな、元でもお前の上司だからな、俺は。それよりガルン、早く戻って来い。カウントダウンは始まっているからな」

『他の者は全て退避せております。私は責任者ということにして、下がっておりません。……ここで、お別れでございます』

「ガルン……、どういうことだ?」



 何か、実験場の空気が変わってきてない?



「ノルン、今ちょっとそういう事を話せる空気じゃなくなってない?」

「またそう言って〜、またごまかすんだ〜?」

「いや、今のノーティス様達の話、聞こえなかった? そっちが近いよね?」

『私は故郷へ帰りたいのです! この殻の裏の、我が世界へと!』



 ほら、凄い変な空気。ノーティス様の表情も深刻な顔になってるし。



「お前はその為に俺を利用して、民衆をも犠牲にしようとしているのか!」

「カウント六百!」



 立ち上がって、通信機に大声で物騒な事を言っている! あと数を言ってる人、冷静すぎない!?



『いえ、巻き込まないように退避させてますし、この世界を離れますからもうお金は要らないので、全部使いましたから。賃金の割が良かったと思いますよ?』

「あ、そうなのか。じゃあ何でそう言っているんだ?」



 座った。なんだこれ?



『ですから、最後の挨拶です。もう会えませんから。あと、穴が周りの物を吸い込もうとしますが、そこまで離れていれば問題ありません。少ししたら自動で巨岩が動いて穴を塞ぐようにしていますので、しばらくは近づかなければ、問題無いはずです』

「分かった。……戦場では最後の挨拶が出来るのも稀な事。ガルン、達者でな!」

『ありがとうございます、ノーティス閣下』

「カウント百!」



 何かが起きそうとして、何も起きなかった。しかし数を言ってる人、本当に冷静だな。



「そ〜れ」



 そしてノルンが、穴の方へと走った。






—7―


『ノルン!』



 僕とノーティス様が同時に叫び、同時に立ち上がる。もちろんノルンを捕まえる為に。

 しかしノーティス様が立ち上がった瞬間に、護衛の人達が飛びかかる。もちろん領主後継者を捕まえる為に。

 領主の長男と、末っ子の三女。立場が明らかに違うから、護衛がそうするのは当然だろう。



「僕が行きますから!」

「……フィン! 戻って来いよ、俺は賛成派だからな! 力になるから、ドサクサに紛れて駆け落ちするんじゃないぞ!」



 捕まれたまま、この人は何を言っているのだろうか?

 立ち上がる分だけ離れていたが、しばらく走れば手が届くぐらいの距離になる。するとノルンは振り向いて、僕に飛び込んで来た。



「つ〜かま〜えた〜」

「……それは僕のセリフだよ、全く。何を考えているんだか」

「……ここなら~、何を言ってもいいからね~」



 確かにここには誰もいない、こっそりと近くにいた護衛も。二人以外はいないから、何を言っても誰にも聞こえない。



「僕に、何を言わせたいの?」

「本当のフィンの、気持ち」



 ノルンの口調がこうなる時には、僕は逆らえない。ノルンは真剣に喋っているから。



「ノルンの事は、大好きだよ。昔から。……でも立場が――」



 僕の声を遮って、ノルンは言う。得意気に笑いながら。



「フィン兄がその気なら~、も〜んだ〜いな〜し! どうせ私は三女の末っ子で~、可愛いがられてるから~、お父さんも私を遠くにかせるのは嫌だから~。ちょっと手柄を立てたら~、フィン兄は私が手に、は〜い〜り〜ま〜す〜?」

「いやそんなわけ——」

「成人する二年後までに~、お父さんを説得するから〜。お兄ちゃんお姉ちゃんと~、無理矢理に~でも〜」



 昔からノルン笑顔は、場所は関係無く僕を虜にしている。まいったな、ノルンは本気なんだ。

 じゃあ頑張らないと。

 そうしたら、ノルンが誰かのモノになるのを見ずにすむし、それどころか僕のモノになるから。それも彼女の自分の意志で。

 そう思うと、もう我慢できない。

 掴んでいた手を放して、そっとノルンの顔に手を当てた。



「本当に、そんな事をするの?」

「もうお兄ちゃんは買収か~んりょ~う!」



 それで、賛成派なのね。長男で跡取りの人は。



「じゃあ、その証拠は?」

「証拠~? 何がいいかな~?」

「わかってるくせに」



 僕がそう言うと、ノルンは笑って目を閉じた。

 僕が覚悟を決めた瞬間。



『カウントゼロ! 爆破!』



 何故かその声が聞こえて、穴の中が爆発した。






—8―


 さすがの爆音に僕達は二人とも目を開けて、穴があった所を見た。



「……忘れてた。穴から離れないと!」

「じゃあこれ~、縄で二人を括って~。離れないように~」

「わかったから、ノルンも走って!」



 穴から離れようと走りながら、言われた通りに縄を体で結ぶ。後、手と手も結んだ。



「……あ~、穴に引っ張られて~、宙に浮きそう~。本当に穴には~、卵の殻があったんだ~ね~」

「何でそんなに余裕が有るの、ノルンは⁉」

「フィン兄が一緒だ~から~。……この縄は、一生取らないから」

「いや、取るからね。お風呂とか、トイレとかは!」

「一緒に入る~?」

「結婚したらね!」

「…………え?」



 走りながら僕は、一体何を言ったのだろうか?

 何故かノルンの顔が真っ赤になり、僕の体で見えないように隠す。いいから走ってくれないかなあ⁉



「駄目だ、僕も浮いてきた。穴に近い分引っ張る力が強いんだ!」

「あ、巨岩が動き出して~るけど~?」

「塞ぐまで、踏ん張れば……!」



 大地の草も掴むが、簡単に千切れていく。このままじゃあ……」



「多分このままじゃ~、穴と巨岩がぶ~つか~る時に巻き込まれ~て……、ぺっちゃんこ?」

「それはやだなあ!」

「じゃあ~……、あっち!」



 すでに宙に浮いているが、僕に掴まって何とか向こうに行っていないノルンが、穴の方を指さした。

 それが何を意味するのかは、すぐに分かった。時間がない、しかし実行する為に、これは言っておかないと。



「ノーティスお義兄にいさん! ノルンは僕が! 幸せにします!」



 昔、僕の年が一桁の頃は、おにいさんと、そう呼んでいた。しかしこれは意味が違う事は、義兄にも伝わったようだ。



「帰ったら親父から殴られるのは! 覚悟しておけよ! 義弟おとうとよ!」

「子供が出来たら~、帰るのは遅くなるか~もね~?」

「それは戻ってから!」



 そして僕達は巨岩がぶつかる前に、穴へと入っていく。

 卵の殻を越えるために。






—9―


 一番危険なのは、穴を塞ごうとする巨岩に巻き込まれる事だ。穴より岩はかなり大きい。地面と巨岩の間に入ってしまったら、間違いなくオダブツだ。

 しかしあの状況ではそうなる可能性が高い。だからそうならないように、先に穴に飛び込んだのだ。

 穴の底に何があるかは、ガルンとノーティス様の通信で聞こえていた。卵の殻の外にも、人が住んでいる世界が在るという事は。



「そ~れで~、どうしようか~?」



 周りには土しかない、洞窟の中。何故か僕たち二人はそこにいた。

 洞窟から出ると暗く、夜になっている。なんとなく空を見ると、何故か小さい光がたくさんあり、さらに大きい太陽もある。

 太陽があるのに、夜?

 それだけでもここが卵の殻の向こうの世界の、証拠だった。



「ガルンを探そう。……この世界でお互いに知っているのは、それぐらいだし」



 正確にはノルンだけが、お互いに知り合いなんだけど。



「そうだ~ね。ガルンなら一度卵の殻の中に行ってい~るか~ら、教えても~らえ~ば帰れるね~」



 それには同意する。するんだけど……。



「ノルン、もうちょっとこう、さすがに緊張感とか……。ガルンがどこにいるかは分からないし、知らない場所に来たっているのに……」

「フィン兄が~……。フィンが一緒だから、何とかなるから」



 急にそう言われたら、もう僕には何も言えない。本当に困らせてくれる人だ、この娘は。

 僕の、お嫁さんは。



「ノルン、その証拠は?」



 僕がそう言うと、ノルンは目を瞑った。まだ僕たちは、を重ねてない。

 だからちゃんと帰れるを、僕とノルンは重ねた。






—10―


 書いてみたこれの後は、まあ色々あったよ。たくさん歩いた、たくさん考えて。意外な事に戦う事は、あんまり無かったな。

 戦うのは最後の手段。最初に学んだ事は、それだった。

 ……僕たちが帰れたかって? 

 それは僕達が今どこにいるかを知っていれば、答えなんかいらないだろ?

 旅していた時には書いていなかったから、君に勧められて今からでも、何があったか、紀行録? を書こうと思ったんだけど、意外と大変だ、これは。

 とりあえず今日はもう終わって、出かけないと。今から予定があるんだ。妻と一緒に、子供を迎えにね。

 この続きは……、どうしようか? これを呼んだ、次第かもね。

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