KOTODAMA(初稿版)
辻村奏汰
第1話
ポールマン・アンカーは不思議な教授だった。
我々人類にはない力を持っている。
葵尚人は、そんな教授に魅力を感じて、アメリカの大学の修士課程で先生の専門である人類行動学を専攻している。
朝に立ち寄った研究室で「葵君は、今日の昼食で仲良しの二人にピザを驕ることになるだろう」とポールマン教授が笑顔でいう。いくら何でもそんなことあり得ませんと笑い返して、教室に向かった。
午前の退屈な講義が終わり、同じ研究室のジャックと廊下を歩いていると、研究室仲間のアリスが声を掛けてきた。ゴールドのロングヘアが魅力的な女性だ。
「尚人、見て」と目を細くさせて文庫本サイズの紙を示す。「試験でAをとった。約束の昼食をごちそうしてね」
先生の言葉を思い出して「ピザが食べたいと言い出す?」という問いに「ご名答」と笑顔が返ってきた。
ポールマン教授の予言したことは百%に近い確率で現実になる。だが、本当の力はこんなものではない。かつて命を助けてもらった葵しか知らない力がある。
研究室にピザを配達してもらい、三人で食べた。
朝の出来事を打ち明けると、ジャックは「尚人は先生に気に入られているんだ。羨ましい」とちゃかす。
先生はテレビ出演で外出していた。我々にはない力を披露しているのだ。全世界にわたる視聴者の一部は超能力者といい、異なる一部はマジシャンといい、エンターテイナーともいわれている。ただし、人によっては、詐欺師、いかさま野郎などと非難する者もいた。彼の披露する力は皆を幸せな方向に導く。この先、どうすれば楽しいクリスマスを送れるのかという些細なことから、いつ、どこで皆を困らせる竜巻が発生するのかなどなど。だから、詐欺でもいかさまでもない。
それに、決して私利私欲のために力を使うことはなかった。
ある日先生が倒れて病院に運ばれた。「力を使って予言すると寿命が短くなっていく」といっていたのを葵は思い出した。このまま亡くなってしまうのではないだろうかと心配した。家族のいない先生を不憫に思った三人は見舞いに行った。
三人が看取る中、先生は「このままだと、十数年後には、人類が滅びるだろう。考えさせるチャンスを与えなければならない。君たちに一回だけ使える、実現できる言葉の力を与えよう。カオスを排除して世界を導いてくれ」と先生は一人一人と握手をした。
先生の手を握ったとき身体に何かが包まれる感覚があった。
「頼んだよ」いう言葉を残して、あっけなく息を引き取った。
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