「家」の寓話
しごならず
だからそうなる
なにがわからないかわからないから、なにがわからなくなったかがわからなくなった。
こうならなければこうならなかったのに、こうなったからこうなった。
ただそれだけのこと。
狐が居る。
その狐のもう一つの名は若さを表すもので、名の親は実りも望んだのかもしれないが、その意に反して大きな藪の様に育ってしまった。
窮地に逃げ道を知らぬ狐が付け爪を用いて夜の鷹を模し、遠く離れた家の虎を頼みに鳴いた。
「私はこの手で隣家の焚火から栗を拾い上げた。熱くなどない。」と。
虎は狐を少し諌めたが、その事は隠された。
栗は生焼けであったが、隣家の主に気付かれて戻すことは出来ない。
しかも、その狐の声を聞いた鶏もまた、蹴爪を以って爪とみなし、鷹を模して狐を讃えたのだから尚更である。
遣り場のない生焼けの栗は冷めることを待たぬまま、等しくない形で下賜された。
鶏は爪を隠した鷹に向かってこう叫んだ。
「お前達は食われるだけの鶏だ。」と。
鶏は虎が使う言葉で名を呼ばれ、自らを語る事も嫌い、己の家と言葉を殊更に尊いものとした。
鷹は雄々しく振る舞う鶏と狐に向かってこう叫んだ。
「お前達は謝って栗を戻せ。今すぐだ。」と。
鷹は隣家との諍いを恐れ、己の家の中で肩身を狭くした。
居心地の悪さと屈辱に耐え兼ねて少しずつ爪を露わにし、その先端を鶏と狐に向けている。
隣家の主は、住まいを同じくする者のうち狐だけに償いを求めるであろうか。
鶏の中に東天紅が居て、鳴く時は来るだろうか。
足下の鶏に爪を立てた鷹は何を思うだろうか。
名も無き者は物言わぬ者になるだろうか。
虎は狐の後ろを歩いてくれるだろうか。
耄碌した狐と夜目の効かぬ鶏を案内するのは肥え太った禿鷹。
食べるものから奪うものまで様々商うその中には、葬儀屋まで居るのかもしれない。
「家」の寓話 しごならず @kkh892413
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