あなたの記憶、買い取ります

河内 謙吾

プロローグ

 国が、記憶を買い取る時代になった。


 記憶とは、その人が人生で見てきた景色、経験、感情──

 すべてを含んだ、たった一つの情報だ。


 いまや、それが貨幣の代わりになる。

 高く売れる記憶もあれば、誰にも値をつけられない記憶もある。


 誰もが一度は考える。

 「もう思い出したくもない記憶が、金になるなら──」と。


 その買い取りを担うのが、MIRA(Memory Integration & Resource Agency)だ。

 政府直属の記憶統合機関であり、国家が記憶を“資源”として管理するために設立された。


 建前はこうだ。

 ──「記憶を資源に、未来を豊かに。」


 だが、本当のところを知る者はいない。


 MIRAは、何のために、誰のために、記憶を集め続けているのか。


 そして──その先に、何が始まろうとしているのかを。




プロローグ 了

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