神の記した世界の理

迷想三昧

とある文書

 それは『卵』であった。


 悠久の時を経て卵は育つ。


 卵はいつしか育ち切り、孵化の時を迎えた。


 世界が誕生し、時と共に際限なく広がっていく。


 やがて、他の世界と接触した。


 この邂逅あるいは衝突といえる現象の余波として、新たな概念や理、次元や宇宙といったものが新たに生じる。


 新たな卵が生まれ、フラクタル論・一般システム論的なサイクルとなる。


 そうして数多の世界は接触、干渉、融合、消滅を繰り返す。


 その中で、時には意思ともいえるものが発生することがある。


 意思を持った世界は増殖し、やがて寄り集まり個を保ったまま新たな意思を持つ。


 集団の意思がときには奪い合い、ときには協力する。


 それはまさに人の営みである。


 全ての世界が順調に広がるわけではない。


 他との接触を避け縮小、変形するもの。逃げるように移動するもの。


 その中には新たに殻を作り再び卵の形態となるものも現れる。


 今のこの世界はそういった外界からの遮断という手段を取った世界の一つである。


 殻の内部において新たな世界が生まれるが意思が発生することはない。


 生まれた瞬間に、卵世界の意思(エグジスタンス)によって外界よりコピーされた意思が貼り付けられるのだ。


 卵の内部において淘汰、拡張が繰り返され、卵は成長している。


 いずれ成長しきった卵は孵化することだろう。


 どんな怪物が生まれるのだろうか。


 内部存在であるこの世界に何が起きるのだろうか。


 全ては定かではないが、私が観測する限りでは300年程先の未来で起きることだろう。



  ――――――――――――――――――――――――――



 読み始めた時には創世記かに思える文章。

 それは約300年前、世界の理に触れて神に至り異界へ渡ったとされる人物、哲人シオーミの報告書だった。

 事実、彼の人物が神となった痕跡は、現在でも世界のいたるところに残されている。


 科学の発展により、魔法が廃れて久しく、スライム世界起源説が主流となった時代。

 発見された当初はその意味を理解しようと研究されたこともあったが、報告書の存在は次第に忘れ去られていった。


 どこかで、殻の内側から軋むような音が鳴った。

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