ボクが悪役令嬢ダダダダダ‼ Reload‼ Bang‼
柴又又
第1話
「うーわっ。マジヤバくね……。マジでエンフェトリーテじゃん」
子供の頃に夢中になったゲームがある。
やり込み要素の多いローグライクゲームが好きだった。
ランダムなアイテムの出る宝箱、ダンジョンでアイテムや装備を掘り、強くなってまたダンジョンへと挑む。ただその繰り返しのゲームが異様に好きだった。強くなっては初めから、強くなっては始めから――永遠に終わらなければいいのと、強くなり過ぎるたびに何時も思っていた。
本来はシナリオゲーなのだけれど、ひたすらにダンジョンを攻略するだけの要素を、シナリオを無視して慣行していた。
ただそれだけのゲームに夢中になって嵌っていたのだ。
シナリオも一応はクリアしたけれど、シナリオに似合わず作られたダンジョン要素があまりにも面白かった。
ボクと同じようにそうしてこのゲームに夢中になった人は多い。
それを知っているのはこのゲームの実況配信をしている人が少なくとも存在していたからだ。
大人になり、そんなことも忘れていたある日。
そのゲームがリメイクされたのを知った。
職場と自宅との往復の日々、重ねられた年、彼女いない歴イコール年齢のボクは、何気なく昔を思い出し、そのゲームを手に取ったのだった。
現実逃避したかったのもある。上司からの重い言葉。同僚女性からの高圧的な態度。仕事として接して欲しいのに仕事として接して貰えない現実。それらから一時でも逃げたかったのかもしれない。
(懐かしいなー。後にも先にもこんなに夢中になったゲームは他に三本ぐらいしかない。意外とあるじゃまいか)
自分で乗りツッコみしてしまうくらいには寂しい人間だボクは。
社会人になり気付いたのは千円の重さ。
このソフトを買う事により失う金額と貯金額。どうせやらないかもしれないと言うムダ金を考慮しても、このゲームを買う事を選んでいた。
自宅へと帰り、お風呂で汗を流して寝るまでの二時間程度――。
VR機器を点灯させ、カメラを機動する。
モーションセンサーを体に装着――ゲームソフトを機材に読み込ませヘッドセットを被る。
「うわっ。懐かしい」
表示されたゲームにそう声を漏らしてしまった。
このゲームの基盤は悪役令嬢になりヒロインを貶めて王子と結ばれるゲームだ。え? なんて? ってだから悪役令嬢になって王子と結ばれるゲームだ。
でも別に悪役令嬢じゃなくてもいいし王子になってもいい。
背景は現代チックな中世っぽい。でも敵は和風と言う一風変わったゲームだ。
ヒロインを貶めて王子と結ばれてもいいし、ヒロインになって王子と結ばれてもいい。悪役令嬢や悪役令息になり王子やヒロインと結ばれてもいい。
まぁ、ボクはシナリオにあまり興味がなかったけれど。
女性を甚振る趣味とか他人に意地悪する趣味もない。正統派で攻めるのもちょっとね。王子様と恋愛するとかちょっとわけわかんないし、結ばれると確定しているヒロインのルートを辿るのも何だか虚しい気がして。それよりも小さな女性が大きな武器を振るうとか、華奢で弱そうで綺麗な女性が実は強いとか。そっちの方が好きでしょ? 少なくともボクは好きだ。
ヒロインが嫌な人設定なら悪役令嬢にもなり切れたのかもしれない。でもヒロインは何処まで行っても良い人で、悪役令嬢のシナリオに添えるかと言えば否だった。むしろヒロインが好きまである。ヒロインは少しぽっちゃりしていて、前髪で目を隠している。みんなからお母さんだと言われていた。
王子や複数いる攻略対象もみんな魅力的なキャラで、ボクは直視するのが苦手だった。
悪役令嬢のグッドエンディングがヒロインと仲良くなり、王子に嫌われないよう注意を払いつつ双方の好感度をあげて行くしか辿り着く術が無いと知った時の攻略勢の失望と落胆と言ったらそれはもう阿鼻叫喚だった。悪役令嬢の最後の最後が結局王子と結ばれないルートだったからだ。
ヒロインを貶めるあらゆる手段が用意されているのに最後はそうなる。
このクソゲーシナリオにやる価値なしとまで謳われたが、最後の最後に作者の意図のようなものを感じて、少なくともボクはその最後は好きだったよ。
初回特典とDLCはいいけれど追加アイテムは厳選した。
チートはやり過ぎると途端にやる気がなくなる。
無限アイテム倉庫とかはいいけれど、死亡無効とか敵の攻撃無効とかはやる気ががっつり消える。
どうあっても抗えない敵に抗いたい。みんなそうでしょ? ボクもそうだ。
子供の頃は低レベルでもプレイスキルと工夫でクリアするのが好きだった。
大人になったらレベルを上げまくって普通に物理で押し切るのが好きになった。
大人になると時間が過ぎるのが早いし、他の事にリソースをあまり割きたくないと矛盾が生じる。
仕事で疲れているのに、ゲームでも苦労したくない。
苦労を考えるとそれならばそもそもやらないってなる。
仕事と言う鞭に対してゲームに飴を欲してしまう。
リソースの問題もある。脳死で気持ち良くなりたい。考えるリソースを割きたくない。頭の中は仕事の管理で埋め尽くされているのにゲームにまで悩まされるのは辛いよ。頭の良い人なら違うのかもしれないけれど……このゲームのダンジョン要素への過去得た報酬系はそれらを期待で満たしてくれていた。
ダンジョンへ行けばランダムに宝箱やアイテムの配置、敵がおり、敵を倒したり宝箱を開けたりすればアイテムが手に入る。アイテムはダンジョンに沿った物でランクがあり、良いアイテムを得た時には脳汁がドバドバ出る。そしてまた敵を倒しアイテムを取り、また強くなってアイテムを取り敵を屠るループが発生する。ただそれだけの行為が異常に面白い。考えなくていい。強いアイテムは強いからだ。衣装にエッチな要素もあるしね。競売システムはさらにそれらを深くのめり込ませる。プレイヤー同士でアイテムの売買ができるのだ。
瞼を閉じて開けば――そこはすでにゲームの世界だった。
(うわぁっ。すごっ。ゲームの景色もここまで来たか)
あまりのリアルに現実との区別がつかないほどだった。
部屋の一室。ベッドから始まるのは変わらないんね。
今のVRはカメラで動作を読み込むからコントローラーを握る必要はない。
立ち上がり鏡を眺める――。
幼女可愛いよ。幼女。
鏡に映った幼女は普通に可愛かった。昨今はキャラクタービジュアルや年齢に小うるさい。過去は可能だった幼女のパンチラも、現代では不可能なのだろうな。
いや、別に幼女のパンチラを見たいわけじゃないんよ。不可能って話で。
カメラワークも大幅に制限されているだろう。こういうのマジいらんよー。ゲームで制限ってわけわからんちん。現実で十分制限しとるやがろい。ゲームの中でぐらい自由にさせちくりー。やり過ぎなくていいからさ。
最初のムーブは決まっている。
このゲームのデフォルト主人公であるエンフェトリーテは一応公爵家のご令嬢様だ。
だけど父親。公爵とは血が繋がっていない。
母親の不貞で生まれた子供だからだ。
だから父親との折り合いが悪く、接触もほとんどない。住んでいる館を管理している使用人達も、最低限のお世話しかしないので、愛に飢えている設定がある。
すでに別館に隔離されているしね。
義理の母親はいるけれど、別に意地悪はされないが、政略結婚なので普通に家庭に愛が無く、公爵との折り合いも良くないので酒浸りだ。
妹は一人いる。公爵と継母の正式な子供だけれど、両親の折り合いが悪いので構われず、しかし使用人達からは大事にされている。大事な跡継ぎだからだ。
妹は親の関心を引きたくて我儘放題に育ち、また両親の仲が悪いのはエンフェトリーテのせいだと思い込み、エンフェトリーテは妹から意地悪される。
親の様子と妹のこのムーブによりエンフェトリーテは性格の歪んだ子として育ってしまう。設定の話だけどね。
エンフェトリーテは王子と出会い、このイカレた環境から王子が救い出してくれると信じて婚約するわけだ。
王子がヒロインと仲良くすれば躍起になって邪魔をするし、自分より幸せそうなヒロインに嫉妬して許せない。
王子は面が良く八方美人で思わせぶり、女性を勘違いさせてたびたび問題を起こすけど、イケメン無罪だとモブ女界隈でも揶揄されている。
モブ女界隈とは抜け駆けすると叩かれるから縦一列に並び皆モブに徹することで平和を保としている界隈の事だ。
己の信じるカップリング以外は皆邪教、モブ女界隈は乱世なのだ。
いや、ボクは情報しか知らんけど。違ってたらごめんご。
最初は王子と出会うイベントがあるけど、ボクは王子に興味が無いからとっとと移動するだーよ。
(寝間着だけどそんなの知らねーぜ‼ やめられない止まらない。箪笥の中にナイフがあるはず、ありました。錆びたナイフをゲットだぜ。ひゃっはー‼ ついでに特典の経験値三倍リングもゲット。さんべぇだあああああ‼ いらねぇぜっ‼ こんなもん‼)
だがサンベェの指輪はいらなかった。
(悠久の指輪……これ初回購入特典だの。三つもある。いらねぇええええ‼ キーオブキー……。これは別に使ってもええか。ルーム召喚の足環は装着っと。レベルカウンター……は。別に縛りプレイじゃないし飲んでおくか)
レベルカウンターはキャラにレベルを付与するアイテムだ。ナノを取り込む事により体にレベルを付与する。付与によりレベル概念がキャラに生まれ、敵を倒すとレベルが上がるようになる。シナリオ一般人プレイするにはレベルはいらない。
悠久の指輪は浮気防止アイテム。装着した人間が一途になるーよ。悪役令嬢だけど王子にめちゃくちゃ愛されるプレイとかできるーよ。幼少期からつけるとヒロインをガン無視して悪役令嬢を口説く王子や他の攻略対象が見れますだよ。なんなら幼少期のヒロインに装着させて、王子をガン無視して口説いて来るヒロインが見れますだよ。
扉を蹴り破り、玄関までダッシュ。
(裸足? 靴なんてなかったああああ‼)
館の外、森の中を進み数十分、目印の木。懐かしい。ここからさらに森を移動し川を渡り定位置へ。
この初期イベントをやるかやらないかで難易度がだいぶ変わる。
ガサゴソと藪から現れたのはグレーの餓鬼(ガキ)だ。
(餓鬼だぁ‼ マジ餓鬼じゃん)
リアルで眺めるとなかなかに不細工だな。ゴリラの真似をするおいらとどっこいどっこい。いや、ゴリラに失礼なのはボクだ。
餓鬼とはこの世界におけるゴブリンである。お腹が大きくてでっぷりとした小鬼だ。
ナイフで襲い掛かると餓鬼は驚いて手に持っていた大きな杖を落としてしまった。
(これだああああああああ。この杖だあああああ。わーい)
レリックガジェット:ツインライトニングドラゴン。餓鬼により髑髏やら羽飾りが装着されているけれど杖だ。上部にあるボタンを押して――。
【エンゲージ:生体認証を可動します。あなたを所有者として登録します】
(呪文叫ぶの地味にはずかしーから叫ばないー)
トリガーを引けば杖から迸る雷で餓鬼が消し炭になる。なった。わーい。ズガゴンッて音も大きかった。
レーティングの関係であんまりグロイ演出は無いはずだ。消し炭だーよ。
(本当は叫びたいけどご近所迷惑なので叫ばないぜ‼ うーふーふー‼)
では次にこの餓鬼の巣へ行きます。
このイベント、実はここを逃すと難易度が跳ねあがる。
餓鬼族の諍(いさか)いと言うイベントなのだが、名前通り、二組の餓鬼族が争うイベントだ。
この杖は餓鬼族族長大餓鬼の杖ツインライトニングドラゴンで雷系魔術が迸るSSSランクの杖だ。餓鬼族族長大餓鬼ってなんぞやってボクだってなんぞやって思うよ。公式なんだお。
使って良し売るも良しの激レアアイテムで最序盤にのみ、この杖を餓鬼の下端が盗んで巣に持ち帰るイベントがあるので、そこを襲撃し横取りできる。
ちなみにこの杖はゲーム上では二本しか手に入らない。
ツインて名前にあるからね。仕方ないね。
この杖はこの餓鬼族の諍いでのみ手に入れられるアイテムで、のちに王家に奉納するイベントもあるのでここを逃すともう二度と手に入らない。大事な物扱いで献上してしまうので所持できない。ちなみに下端餓鬼は普通に逃げるので倒すのを失敗すると普通に逃げられるよ。
この世界のアイテムの中にはこのようなガジェットと呼ばれるアイテムが存在する。このガジェットと呼ばれるアイテムは通常のアイテムとは異なり、古代の遺物となっている。古代の遺物なのに現代よりも進んだ文明を伺わせ、実際に古代の文明の方が現代よりも進んでいる。このゲームで楽をしたいのならガジェット集めは必須。最高峰のアイテムがガジェットだと認識していい。
(よーし。やっちゃうぞー)
盗んだ餓鬼は敵対する餓鬼の下端――つまりこの盗んだ餓鬼が逃げようとした方向にもう一つの餓鬼の巣があり、その際奥にもう一本の杖、ツインドラゴンライトニングがある。
餓鬼族の巣はっけーん。
では杖を起動して入り口から只管中へと射ち込みます。
ドカーン。ドカーン。ドカーン。
(うひょー)
ツインライトニングドラゴンは二つで一つの杖だ。つまりこの巣の奥にある杖と対なわけだ。つまり入り口から雷を放つと最奥の杖と共鳴してプラズマフィールドを形成する。難しい話は良くわからないが、つまり手元の杖から発した雷が最奥の杖に反応し共鳴、雷が巣の中を縦横無尽に往復して継続ダメージを与え続けると言う地獄の現場と化す。つまり餓鬼の巣穴に放つだけで敵が倒せるのだ。すまんな。
これがあるかないかで初動が段違(だんち)だぁ。
DLCダンジョンとかは普通に考えてシナリオ攻略後なのである程度レベルがあがっている定義で進められる。しょっぱなからツッコんだらまず死にまくるから、それでもいいけれど最初はこれに頼るに限る。
手ごたえが無くなったから巣穴突入だ。
なんか足裏がべちゃべちゃするけど、そろそろ部屋の掃除しなきゃダメかもしれんね。
(うひょー‼)
敵が見えなくても進むごとにライトニングドラゴンを放つ。
普通に幼女だからね。一発食らったらティウンティウンしてしまう。
レベルカウンターを表示すると17になっていた。もう17だ。このレベルカウンターは網膜に投影されているので自分にしか見えない設定だ。レベルカウンター自体が古代アイテムでありガジェットだからだ。DLC要素だおね。通常ならこのレベルカウンターは街の雑貨屋にランダムで売りに出されるのを待たなければならない。レベルカウンター自体が把握されていないから滅多に出回らない。こんなのを初見で飲む人はいないよー。
そして一番大事な要素が、このレベルを反映させるには一晩寝なければダメって事。寝ている間に体がレベルに適応し作り替えられる仕組み。
この世界の人間に魔術は使えない。魔術のような不可思議な現象を起こせる武器や防具、アイテムは多数存在するけれど魔術は使えない。残念ながら。魔力と言う存在自体が無いのだ。
ライトニングドラゴンの唯一の弱点は手加減ができない事。敵の所持アイテムごと消し炭になる。いや、これガチだ。敵の所持アイテムごと消し炭になる。
人に向けて撃てば当然死ぬ。NPCでも死ぬ。
このゲーム、人を殺してもお金か牢屋で、だけどお金払えなくて牢屋でもすぐ出て来られちゃうからな。
二、三日で出て来られるのは公爵家の特権だおね。いや、人を殺してそれはどうなのかってお話だけどゲームだかんね。仕方ないね。
(うおおおおおお)
巣穴の中はアリの巣状に掘られており、縦穴もあるから注意しないと普通に落ちる。落ちたらどうなるって死ぬ。
木箱があったので開けてみる――鍵がかかっているならキーオブキーの出番だけれど、餓鬼は鍵をかけられるほど知能が無い。
キーオブキーは所謂マスターキーであらゆる鍵を条件や罠を無視して開けられる。
(わかってたけどゴミしかなーい)
餓鬼のお宝が何かって食料だ。
(小さなじゃがいもが山盛りなのと……うわっ。人の指が入っている)
餓鬼にとって人の指はスナックみたいなものらしい。公式設定だーよ。この指に稀に指輪などのアイテムが混ざっている。指輪の幾つかを回収。
(リアルになると結構グロイな)
即閉じ(そっとじ)案件だぞ。
実はこのゲームの舞台は日本だ。荒廃した未来の日本が舞台だ。そして餓鬼の正体は変異したサルやマントヒヒで。日本にマントヒヒっておかしいだろって話なのだけれど、動物園から逃げ出したマントヒヒが変異した姿が餓鬼だと設定にあるのだから仕方がない。
この世界のモンスターの正体はみんな変異した動物だ。
世界がこんな荒廃してしまったのは、ある科学者(ひより・エルムディア・立花)のせいなのだけど、一応裏ボスとしては存在する。DLC案件だおね。過去の遺物の方が優秀な意味はここにある。
この巣穴はそこまで深くない。部屋は六つで最後の部屋に餓鬼族長がいる。まぁもう消し炭だけれど。
餓鬼族長の装備も何もかもが消し炭だーよ。転がっていたツインライトニングドラゴンを拾う。
【アクティベート:所有者登録を完了致しました】
(うぉおおおおおおおおお‼ ライトニングドラゴン二刀流だあああああ‼ 最強‼ 二つが合わさり最強になる。割とガチ)
一応木箱はあった。でも餓鬼宝物ってやっぱり食料なんよね。
大量のジャガイモとコーン。
あと繁殖部屋があるけど、生きている人はいなかった。
骨などがあるから食べられちゃったのだろうな。ワンチャンおいらが殺したまである。ごめん。
(ではもう片方の餓鬼の巣も襲撃だあああああああよ‼ 蛮族? ボクが蛮族だあああ‼)
場所は大体覚えているから大丈夫。すごく大丈夫。
(うひょーい‼ 餓鬼は消毒だあああああ)
もう片方餓鬼の巣を襲撃する。
(なんか餓鬼の繁殖部屋に囚われた女の人がいるうううう。この設定って確かランダムなんだっけ?)
残念だけど回復アイテムは持ってないんよね。自力でどうにかしてね。ごめんね。餓鬼は殺しとくからね。比較的体力のありそうなNPCがちらほらいるから大丈夫でしょ。
ツインライトニングドラゴンを手に入れたからしばらくイベントは無いんよね。
お金稼いで装具(見えざる神の護り手)と指輪(見えざる悪魔の六本目の中指)が欲しい。
(つってもねー。金策ってどうやってやってたっけ? ライトニングドラゴンだと消し炭になっちゃうしなー。餓鬼の宝箱は食糧メインだからウマ味が無いんよ。指輪っつっても人の指付きだかんね)
強敵に挑んでもいいな。竜でも一撃で三割削れるからいけるかな。経験値がっぽがっぽだ。
「あの……助けて頂き、ありがとうございます」
(おーNPCが話しかけてきたんご。えがったねぇ。助かって。えがったえがった)
別に返事する必要はない。
「……私達は近くの街に向かう途中だった商人です。夫や子供は……申し訳ありませんが街まで連れて行って貰えませんか?」
(おけぽよ)
指で丸をつくるーよ。
こんなイベントがあったのか疑問が生じるけど些細なものだ。別に構わない。お礼をおくれ。銭や銭。
返事をする間もなく、女の人達はぞろぞろと後を付いて来た。
餓鬼は繁殖用に女性は生かすけど、大体感染症になって女の人も死んでしまう。残酷な設定だけれど、実際目にするのは設定だけなんよ。実際はこんな感じなのかもしれない。
早速街へ向かう――餓鬼は巣穴以外にも偵察部隊として外出している奴らがいるから見つけ次第ぶっころだぜ。消し炭だーよ。
雷が迸るたびに女の人達が小さな悲鳴を上げて蹲る。
細かい設定だと感心した。でもこれ大丈夫かな……。日本だと結構基準が厳しいんよね。発禁される前に買って良かったかも。
ロリコン関係じゃないし、所持しているだけで犯罪に問われたらたまらんもんもんもん。
「……あの、道が違います。こっちです。案内しましょうか?」
(おー便利になってる。案内してくれるんだ。おけぽよー)
女の人に続いて歩く――。意外と時間かかりそう。空が暗くなってきた。明日はお休みだからちょっと無理できるんよー。なんか楽しいから徹夜もオッケー。
それからしばらく歩くと街道へ――。
「今日はこの辺りで野宿しましょう」
(おけぽよ)
課金アイテムでボクは無限倉庫は購入しなかった。代わりに購入したのが異次元ルームだ。この異次元ルームは異次元に部屋を借りるサービスで、トイレやシャワー、ベッドなどがある。備え付けの棚にはアイテムが収納できるけれど、数に限りはある。無限倉庫と違って無限には収納できない。オプションで高級傷薬が十六個ついて来る。
このゲーム超以外だが万に一つの可能性を得て乙女ゲーと認識されているので清潔感の設定がある。
清潔感が無いと攻略対象の好感度が傍にいるだけで下がるし、逆に清潔感があれば傍にいるだけで好感度が上昇する。香水とか以外と大事。香水にもステータスを上げる効果があるからね。
ルーム召喚の足環でルームを召喚――扉を開く。
女の人達は驚いていたけれど、眺めているとおずおずと中へ入って行った。
(今晩はここで我慢してちょ)
中へ入ると女性達は驚きのモーションをして色々探っていた。モーション細かいな。これぐらいになると処理が重そうだけれど、サクサク動いている。
「シャワーがある‼ 使ってもいいですか⁉」
(どうぞどうぞ……ん? あれ、これで移動してもいんじゃね? 行くぞ行くぞ行くぞ‼)
ボクは外へと出てラインニングツインドラゴンを地面へと向ける。
(あれできっかなー)
NPCが近くにいると殺してしまう可能性があるので使えないけど、今なら使える気がする。
(ツインライトニングドラゴンを地面に向けて照射‼ うっひょー‼ できるじゃん‼)
自分で説明しよう。ツインライトニングドラゴンを物体に向けて照射すると体が吹き飛ぶのだ。低レベルだとダメージがあるから注意だぞ。だから地面に打ちっぱなしで飛んで移動できるのだ。やったぜ。
(うひょー‼ これたのしー‼ たかーい‼ タマヒョンだぁああ‼)
高い位置からだと遠くに殺伐した建物群が並んでいるのが窺えた。
鉄柵などで覆われた街だ。
(うわー……。世紀末だな)
コンクリート打ちっぱなしのビルが並んでいる。
そこに降り立つボク――門は閉まっていた。
ルーム召喚で扉を召喚――扉を開くと女の人がドサッと出て来た。
「あいたたっここは……」
(街についたでな。ほなたっしゃで)
部屋の中を見回して人がいないのを確認。確認大事。拉致すると普通に治安部隊に捕まる。
「ありがとうございます‼ ぜひお礼を‼」
(うーん。良く考えたけど、お礼っつってもショボいのよな。貰っても困るっちゅーか。帰ろ)
時間が溶ける溶ける。そろそろ眠くなってきた。ルームに引き籠るのもいいけれど、次回を考えて館の部屋で寝た方がいいか。
ツインドラゴンタイムで館へ帰る。
(やっぱ面白いなこのゲーム)
ランダム宝箱から得たアイテムで工夫しながら攻略するのが今から楽しみだ。
結構遠かったな。最初の街ならネームレスだ。宿屋パンジャンドラムが懐かしい。いきなり爆発するんよね。わろ。
「ふあーぁ」
今日は休みだから目覚ましは掛けなくても大丈夫でしょ。夜には起きるかな。
「おやすみー」
ヘッドギアを外すのも面倒で、館のベッドへ横になると、ボクはそのまま眠りについてしまった。
【アクティベート:対象の記憶と意識をギアより定着致しました。ようこそNo.2057832。ようこそ現実の世界へ。あなたの有意義な生活を、私、マザーは望んでいます。】
ボクが悪役令嬢ダダダダダ‼ Reload‼ Bang‼ 柴又又 @Neco8924Tyjhg
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