気合い入れたら物理で怪異をぶん殴れた話
あまつか
電車内での噂話
ねぇ、電車内でみんなスマホ見てるじゃん?
それか本読んでたり新聞読んでたり、あとは外見てる人もいるかな。
何もすることなかったら寝てる人もいるじゃん。
電車内キョロキョロする人って少なくない?
……
他の人を窺ってるみたいだから失礼? マナーでじっとしてる?
それもあるけど……
実はみんな知ってるんだよ。
え? 何をって?
見ちゃいけないものが電車の中にいるって……
だから見ないようにしてるんだって……
そんな安っぽい都市伝説を隣の高校生と思われる子達が嬉々として話している。
朝の眩しい日差しを浴びてきらきらとしている高校生。その隣には仕事の疲れも癒せず背中を丸めて立っている私。
ガタンゴトンと音を立てて走る電車の中に弾むような彼女たちの会話は続いている。
「それでね、終電一本前に来る電車がヤバいんだって」
「知ってる。なんかすっごい空いてる電車が来るんでしょ? それに乗っちゃうとさっき言ってたやつが実はたくさん乗ってるって」
「そうそう! それでそいつらと目が合っちゃうとダメなんだって。憑りつかれちゃうとか……」
憑りつかれるから何だと言うのだろう。それ以上のことは彼女たちの口からは聞こえてこない。
「目が合って憑りつかれないようにみんなスマホ見たり寝たふりするんだって」
「そうなんだ。目が合わなかったらいいんだ」
結構、緩い条件なんだな。見ないだけでいいならわざわざ混んでて誰だか分からない人と身を押し当てながら乗る満員電車より快適かもしれないなんて考えていた。
「でもさ、そんな電車が何であるんだろうね?」
当然の疑問だ。ヤバい奴が乗っているのに誰か乗るかもしれない時間に走らせる理由なんてあるんだろうか。
「ネットに書いてあったのはさ…… 『溢れちゃった人』が乗るらしいよ」
「溢れた?」
「そう! 毎日毎日、不安とか愚痴とか言いたいこと言わないで我慢しちゃう人いるじゃん? そういう人の溜めに溜めたものが心から溢れちゃったら、その電車が迎えに来るんだって。その溢れちゃったものを回収するためにスカスカの電車が来るらしいよ」
ふーんともう一人の子が返事をしている。
溢れちゃった人、か。
それを聞いていた私は思わず深いため息を漏らした。これから始まる今日の仕事を思い気分が重くなったからだ。
嫌味な上司、何かにつけて陰口を叩くお局社員。そんなのがいる職場に行かなくてはいけない。
日々ため込んでいる嫌な思いが、私の心からそろそろ溢れそうな気がしている。そんな電車があるならいっその事、全部持って行ってくれないだろうか。
そんな自虐的な思いがふっと脳裏をかすめていった。
隣で弾む楽しい会話に対して暗く沈む私の気持ちも関係なく電車は目的の駅に到着した。降りればすぐに会社に着いてしまう。
さあ、生きる糧を得るための対価を支払いに行こう。
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