第2話 学園へ行こう



 大陸中を席巻した『自由恋愛』の波は、この国にもゆるやかに流れ着いて、貴族も生まれた時から婚約者が決まっているとかは無くなった。

 ただ王族は(主に混乱を避けるために)、学園入学前に婚約者が決まっているのが普通だった。


 しかし来年には学園入学予定の二人の王子は、未だ婚約者が決まっていなかった。


「いつまでも、エリザベスにこだわってないで、早く婚約者を決めなよ。皆気を揉んでるぞ」

「う~ん、エリザベス以外に怖くない女の子がいないんだ……」


 三ヵ月違いの弟の冷静な指摘に、兄は気弱に返した。

 常にギラギラした令嬢たちの視線に、さらされている彼を知っているので、気持ちは分かるが……


「もールーファスがそんな事を言ってるから、私の縁談もまとまらないのよ」

「えっ……」


 王太子殿下は目を丸くしているが、そうなのだ。


「私は公爵家の跡取りで、見た目だって悪くないじゃない?」


 豪華な蜂蜜色の巻き毛。瞳なんて紫よ!

 顔だって今でも美女のお母様似。


「家には、山のように縁談が来てると思ってたのよ」

「違うの?」

「お父様に確認したら違ったわ。おかしいと思って学園で噂を集めたら、私の婚約者になったら、王太子殿下に恨まれる、って皆逃げてるのよ」

「えー!」

「だからヒューバードの言う通り、早く婚約者決めてね」


 実をいえば敬遠されているのは、男子生徒だけではない。

 女子は女子で、エリザベスを王太子妃になれない令嬢として、マウントを取ってくるか、王子二人と親しい令嬢として嫉妬し、悪口や嫌がらせを仕掛けてくる。

 その他の女子学生は様子見だ。

 何と言ってもエリザベスは王妃にはなれない。とすると、今、彼女に嫌がらせをしている令嬢の誰かが王妃になる可能性が高いからだ。


『未来の王妃』の心証を悪くしたくないのは分かるが、『未来の公爵』の心証を気にしないのがエリザベスには不思議だった。

 リーンハルト公爵家は、王家の親戚。

 時には王権さえ揺るがす権威を持っているというのに。


 ……ともあれ、一つ下の2人は、来年には同じ学校に入って来る。

 それまでに婚約者を決めてもらわないと、正直『学園生活はスリルが満点!』という戯曲のヒロインになってしまう。


「ごめんね、エリザベス……」

「まぁね、私はいいのよ。何だかんだ言っても結局噂や家の事だけ問題にされて、私って人間を見てくれた結果じゃないから」


 だがこのままだと、私に婿が来ない。

 これは、やはり……


「何、考えてるの?」


 聡いヒューバードがのぞきこんできた。


「留学でもしようかな、と」

「「え!?」」

「お父様の妹、叔母様がお隣のレイモンド皇国に嫁いでいるでしょ? 事情を話したら、ほとぼりが冷めるまでこちらに留学しないか、って」

「行くの……?」


 切なそうな青い目を向けられて、心がズキズキ痛んできたが、今のままなら明るい未来が見えない。


「でも、それもいいかもね」

「ヒューバード!」

「だってこのままルーファスの婚約者が決まらないと、僕の婚約者も決まらない。そうなると令嬢達の争いが過熱するのは目に見えてるよ。それで迷惑するのは、他の生徒であり、エリザベスだ」


 私の立場を察してくれたヒューバードに、思わず感動する。

 いつの間にか、立派になって……前世年齢があるせいか、一つ違いなのに殆どお母さんの心境である。


「有難う、ヒューバード!」

「うん、エリザベス。僕もいっしょに行くからね」

「「えぇ!?」」 

「僕だって被害者だよ?」


 確かに。

 令嬢の中には最初から第二王子狙いの子もいるし、どっちでもいい!なんて言うのもたくさんいる。

 ……だけど、それじゃあ


「二人とも……僕を捨てるの?」


 ルーファスが、地獄の底から響くような声を出した。

 

「二人がいなくなったら、僕は、僕は……」


 怖い想像をめぐらしたのか、ルーファスの目が虚ろになってきた。

 私はあわてて、ルーファスの頭を抱く。


「私とヒューバードが、ルーファスを捨てる訳ないでしょう!」


 ヒューバードが面白くなさそうな顔でルーファスに近づき、私の腕を自分の背にも回す。


「そうだよ、ルーファス」

「……本当?」


 まだ、信じていない、疑い深そうな兄の問いかけに、弟は悪魔のごとく甘く囁いた。


「本当だよ、ルーファスも一緒に来ればいいのさ」






――――――――――――――――――――atogaki



…弟はヤンデレ、兄は腹黒。

…SAN値の釣り合いの取れた異母兄弟。


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