サンタクロースは三田くん?

つかさ

第1話 サンタクロースは三田くん?(前編)

 12月24日。


クリスマスイブであり、世間では恋人たちが最も盛り上がる日とも言われている。


 だけど、高校3年になるオレ、三田翔さんだ かけるにとっては1年の中で最もダルい日だ。


なぜかというと、まあ……話せば長いんだけど、オレの家系は代々サンタクロースの一族で、日本エリアを担当してる。


だから、秋なるとクリスマスイブに向けて、家族みんなクリスマスに向けてバタバタし始める。


兄ちゃんも、姉ちゃんも、もちろんオレも。


 クリスマスの曲が流れ始める時期が来ると、いよいよ憂鬱さがピークになる。


だって、24日の夜は一晩中プレゼントを配り続けなければいけない。


しかも、わざわざ赤と白のサンタクロースの衣装を着て、ふわふわなつけ髭までつける。


オレの黒い髪に白い髭は、どう見ても合ってない。もはやコスプレにしか見えない。


 それに、サンタ家業の事は誰にも言ってはいけない決まりになっている。


だから、恋人とクリスマスイブを過ごしたこともない。


本当に毎年、毎年、嫌になる。


オレだって好きな人とクリスマスイブを過ごして、特大のプレゼントが欲しい。


 



 「翔ー?今日クリスマスイブだけど、お前夜なんか用事ある?」


 ホームルームが終わってすぐに、同じクラスであり、俺の密かな想い人である三好奏多みよし かなたが話しかけてきた。


奏多はパッと見た感じは、不機嫌そうで近寄り難い奴って感じだ。


背が高いのに、何となく気怠げな感じを醸し出すから、大体の人は見下げられた状態で奏多から喋りかけられると威圧感を感じると思う。


まあ、鼻筋は通ってて、男前の部類なんだけど、それを活かしきれない残念な野郎だ。


「んー夜は用事あるかなぁ……」


 毎年の決まり文句のように、遊びに誘われないようにと答える。


「用事ってなに。彼女もいないんだからデートはないはずだろ」


「うっせーな。彼女いないは余計だわ。それにデートじゃなくても大事な用事があんだよ!」


 無神経な言葉に対して、適当に言い返した。


「じゃあ、用事終わったら俺んち来ねえ?」


「え……なんで」


「チビどもがお前と一緒にクリスマスパーティーしたいんだと」


「オレ?」


「そう。楽しそうだろ?来るなら泊まっていけばいいし」


「いや、だから……」


 行けるものなら行きたい。


奏多の家でクリスマスパーティーをして、それでお泊まりだと?そんなもの、完全に恋人のデートじゃねえか。


「……24日、オレのばあちゃんが100歳の誕生日で」


「えっ!それはめでたすぎる。絶対お祝いしなきゃじゃん」


「……うん。だから、ごめん」


 オレは自分史上、最大の嘘をついてしまった。


でも奏多は「チビどもにもお祝いの気持ち送っとけって言っとくわ」と言って、あっさり信じてくれた。


 オレは「次の日にでもクリスマスプレゼント、交換できるように用意しとくよ」と、奏多との夢のクリスマスデートの未練を口にした。




 深夜になり、毎年恒例のサンタクロースの衣装を着て、口髭をつける。


わざわざ深夜に配るんだから、こんな衣装着なくてもいいんじゃないかと思う。


それに大昔と違って、街中は夜中でも明かりがあるんだから、目立つだけだろとも思う。


「よっし、行くか」


 自分のプレゼントを配るエリアを確認し、トナカイロボットを起動させる。


ウィーンと起動音がした後に、配りに行くエリアをロボットの背面にあるタッチパネルから選ぶ。


本物のトナカイはというと、じぃちゃん達が乗っている。


オレたち見習いみたいなのは、じぃちゃん達よりも配る数も少なくて、いろんなサポートが受けられるロボットを使わせてもらっている。


 ピコンっと音が聞こえ、タッチパネルを見るとターゲットスポットが示されていた。


「え、これ奏多の家じゃん」


 そういえば、奏多には小さな弟が2人いる。


去年まで別の担当エリアだったから、プレゼントを配りに行く機会があることをすっかり忘れていた。


 どんな寝顔をしてるのだろう、とソワソワする。


眉間に皺を寄せて眠っていたら、伸ばしてから帰ってやろう。


そんな事を考えながら、オレはプレゼントが詰め込まれた袋を持って真っ暗な空に向かって出かけた。


 サンタクロースセットには防寒、防視、防音の機能が備わっているとはいえ、12月の真夜中は寒い。


特に、空の高いところまで上がると顔が寒い。


 1つプレゼントを配ると、すぐに2つ目のプレゼントを別の子どもに配る。


そして、3つ、4つと繰り返すうちに、かなり時間が経っていた。


「うぅ〜。さみーな、やっぱ」


 長時間プレゼントを配り続けていると、さすがのトナカイロボットも冷え冷えになっている。


「そしてっ、やっと……最後!」


 今年の翔サンタクロースの小さなご褒美として、プレゼントを配りに行く家の最後を奏多の家にしていた。


時間はもう午前3時を過ぎている。


奏多はきっと夢の中だ。


 二階建ての奏多の家の上空に着くと、トナカイロボットを滞空モードに切り替える。


ちらりと窓を見ると、奏多がベッドで眠っているのが見えた。


「さて。ラスト1つ、行きますか」


 最後の最後に好きな人の家にプレゼントを渡しに行けるなら、今年は悪くないクリスマスイブだったなと、しみじみ思いながら2階の窓に手をかける。


そーっと鍵を回し、いつものように防音、防視モードで家に入る。


このモードになると、幽霊みたいなものだから誰かに触れたり、物を移動させたりできない。


ただ、プレゼントを置くしかできない。


(はぁ。個人的に奏多にもプレゼントを持って来れたら良かったのになぁ)


 プレゼントは子どもだけという決まりだから仕方がないが、せっかくここまで来たんだから……という気持ちになってしまう。


(弟くんたちの部屋はどこかなっと)


「ん……かける……」


「は?」


「翔……」


 奏多がオレの名前を呼ぶ声がする。


(え、寝言でオレの名前呼んでる?かわいい奴だ……な……)


 呑気にそんなことを考えて振り返ってみると、寝ぼけた顔をした奏多がベッドから上半身を起こしていた。


「あれ?翔がなんでここに」


 寝ぼけているにしては、ちゃんとオレの方を向いているような気がする。


(は?え、なになに。寝言?)


 防音、防視モードの不具合が起きたのだろうか。


モードのスイッチを見てみると、不具合どころか、そもそも防音も防止もどちらのモードも入っていない。


(やばいやばいやばい)


 急に頭の中がぐわんぐわんと混乱の音を立て始めた。


ここでサンタクロースのオレを奏多に見られる訳にはいかない。


家族に怒られるどころか、一族の大問題となってしまう。


「うわっ」


 一刻も早く防視モードのスイッチを押そうとした瞬間、奏多に腕を掴まれ、勢いよく引っ張られた。


「翔のサンタの格好だ……」


 オレを強く抱きしめた奏多は、ベッドに寝転がってしまっている。


無抵抗なまま両腕をがっしりと拘束されてしまったオレは身動きができそうにない。


それどころか、好きな人である奏多に突然こんな風に抱きしめられて、頭がおかしくなりそうだ。


「あー、やっぱかわいい」


「奏多、何言って……」


「サンタの格好すげー似合ってる。……翔自身がプレゼントか。最高……」


 奏多は寝ぼけているのか、起きているのか分からない。


だけど、奏多の一言一句に心臓がドキドキと音を立てている。


何度も何度も頭の中で空想した展開上回る信じられない展開だ。


それにオレの冷えた身体に伝わってくる奏多の体温が心地よい。


力が抜けて、このまま蕩けてしまいそうになる。


「…………奏多。信じられないと思うけど。オレ、実は奏多のことが好きだよ」


 奏多が寝ぼけて聞いていなさそうならと、積もらせた恋心を打ち明けた。


「えっ?あれ……?」


 耳元で奏多の驚く声がした。


「は?待って。え、なに、本物の翔?」


 奏多がこれでもかというくらい目を大きく見開いて、オレの顔を両手で掴んだ。


「んぇっ、えっ……と、まっへ。ちょ……」


 オレは顔を両手で挟まれてしまって、上手く口が動かせない。


それよりも奏多は眠っていたんじゃないのか。


これはまずい。


大ピンチだ。

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