場外乱闘(超一流企業に入社した不良社会人)
下田馬之助
第1章〝生い立ち〟から得た教訓
「まずいな。どうすっかな・・・。」
大学卒業前年の平成4年2月、秋吉俊平は、いよいよ始まる就職活動を前に、所謂、Fラン(四流大学)と言われる大学にスポーツ推薦で拾って貰う〝形〟で入学も、在学期間、その恩も当然の如く忘れ、体育会での活動も適当にやり過ごし、かと言って勉強もろくにせず愚弄な学生生活を過ごしていた中、就職課主催のセミナーに〝何となく〟他の学生の流れに乗る形で参加。そのセミナー講師に言われるがまま過去22年の人生を振り返ると、自分の頭の中を漠然と駆け巡るのは、
〝ヤバい・・・〟という雑念と危機感のみであった。
俊平は、ごく平凡なサラリーマン家庭の次男として育ち、勉強なんか基本せず、神奈川県の某市で少年時代を過ごす。何故か幼少時より足だけは速く、自ずとスポーツを得意とする中、昭和世代である、多少運動神経の良い奴は、当時唯一無二の〝人気スポーツ〟であった誰しもが憧れる野球に熱中。地元のリトルリーグに入団後、監督、コーチからの〝殴る蹴る〟の指導に耐えつつ、4軍迄ある厳しい競争にもトップ出世し、当然の如く両親の期待が膨らむも、小学5年時の練習中に外野フライをキャッチする際、チームメンバーと激突、相手が骨折という大怪我を負ってから、歯車が狂いだした。追々知ることとなる当時は誰も知ることの無い〝イップス〟となり、野球を挫折。親の子に対する期待を見事に裏切って以降、根っからの不良性が目覚める形となり、野球での挫折の腹いせを担任の若い女教師に〝反抗〟という形で八つ当たりするといった、小学生にして既に〝不良〟のレッテルを見事に貼られた生活を送ることとなった。
そんな中、〝捨てる紙あれば拾う神あり・・・・〟ではないが、中学校入学時の担任の教師が陸上競技部の担任で、前年には県中学駅伝で5位の成績を収める強者であることを、教科書と一緒に配布され体育の資料本で知った。
小学校の教諭からの〝引継ぎ〟もあったのであろう、〝不良〟の俊平には入学当初より良く目を掛けてくれていたからなのか? 体育の授業で足の速さを知ってか?熱心に陸上競技部への入部を勧誘され、俊平自身もその自信から、必然的に陸上競技を始めた。野球と違い技術等はほぼ関係の無い単純なスポーツ。〝イップス〟とも無縁のこの原始的なスポーツに俊平は必然的にのめり込んだ。高校進学時においては、一部を除き未だ大半の私学は〝県立より下〟と見られる時代、県立高校の陸上部指導者からの勧誘もあり、勉強もそこそこに自身の偏差値では入学が適わない実力以上の高校へ進学。順調に高校生活を送るも、3年時の〝神戸インターハイ〟へあと一歩となる南関東大会決勝でまさかの敗退・・。希望する大学への進学も断念し、〝悔やまれる敗戦を引きづる〟形で、世間一般で言う〝Fラン〟大学に進学したのだった。以降、大学卒業迄、勉学には〝一切〟勤しむことも無く学生生活を送ることとなり、気付けば、ただ何となく漠然と就職活動というスタートラインに立たされている自分に気付くのである。
思い返せば俊平が小学校6年の時、同級生の女の子に〝偽善者〟と呼ばれ、その時は意味が解らず聞き流していたが、時が経つに連れてその言葉の意味を理解する中、
「中々 〝的〟を得てんな・・。」
と感心しつつ、未だその強烈に太った同級生のパンパンに張った顔面を、特別な意味も無く鮮明に覚えているのである。結局のところ一生付き纏うFラン大学というレッテルのボロ看板を首から引っ提げて生き抜かなければならない〝重い十字架〟を背負わされた運命の中、真面目に人生の勝負をしたところでプロレスで言う、ロープに投げ飛ばされ思いっ切りドロップキックを喰らい、今は亡きジャンボ鶴田のようにピクッ、ピクッと失神している自分しか思いつかないのが現実であった。降り掛かる逃げようのない絶望感を抱きつつも、
「はぁー、親にも負担掛け悪いからやるか・・・。」
スポーツを通し、何度ともなる挫折を味わってきたせいか、〝ヤケクソ的〟度胸だけはそれなりにに鍛えていたので、
「やるだけやろう・・・。」
思い返せば中2の秋、夕方、TVドラマ「ふぞろいの林檎たち」の最終回の再放送を何となく見ていて、同じくFラン大学の主人公二人が、就職面接の会場で、会社側の手違いで・・・との採用担当者の説明後、『今から呼ばれる大学の方は別の会場に・・・』
一流大学の学生は次々とその場を立ち、綺麗な別室に通されるシーンをガン見。
「社会は厳しい・・・。」
俊平も既にそのTV主人公二人と同じ世代となり、結局、同じFラン大学というハンディ(十字架)を背負っているのだ。今後、就活、入社後の会社で面前に忽然かつ連続的に現れるであろう一流大学出のエリートを相手に闘う(そもそも闘うステージに上がれるのか?)試練を背負わされていることに気付く。
セミナーでの講師の絶叫に近い説明を聞きつつ、冷静に考える中、俊平は幼少時から兄の影響もあり欠かさず見ていた毎週金曜日20時からの新日本プロレス中継、土曜日18時からの全日本プロレス中継でのヒール(悪役)選手の闘い方を思い出すのである。
実力に劣るヒールレスラーは、そう、プロレスで言うリング上ではなく、リング外、即ち場外乱闘で〝その差〟を埋め、レフリーの目を盗んでは反則技を連発し、あわよくば勝利をモノにする姿を思い出すのである。
就職活動を目前に控える中、俊平は〝場外乱闘〟の必要性と有効性を自覚、認識する。この〝何となく〟参加した就職セミナーを通し、今までの22年間を振り返り得た回答が〝それ〟であった。
〝つまらん〟セミナーを途中退席し、ヒールレスラー同様、ルール度外視、凶器を隠し持ち、場外での闘いを基本とする就職活動に挑むのである。
場外乱闘(超一流企業に入社した不良社会人) 下田馬之助 @f0466231226
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