星を拾う夜

@Kyosuke_06

二人だけの夜, 記憶の標本 🌟


​鳥取砂丘の夜は、世界の終わりか、あるいは始まりのように静かだ。


​「ここで星を拾うと、願いが叶うんだって」


​隣で歩く湊(みなと)が、冗談めかして言った。街の明かりが届かないこの場所では、空はただの背景ではなく、降り注ぐ光の海だった。足元に広がる砂丘の傾斜は、暗闇の中で巨大な生き物の背中のように見えた。


​二人は砂の上に座り込んだ。昼間の熱をわずかに残した砂が、心地よく体を包み込む。見上げると、天の川がくっきりと空を横切っていた。


​「拾えそうにないくらい、たくさんあるね!」


​陽菜(ひな)が笑うと、湊はポケットから小さなガラスの瓶を取り出した。中には何も入っていない。


​「形には残らなくてもいい。

今、君と一緒にこの景色を見ているという記憶を、この瓶に詰めて帰るんだ」


​風が吹き抜け、砂がさらさらと音を立てた。星の光に照らされた二人の影が、一瞬だけ重なった。


広大な砂漠のようなこの場所で、二人の小さな時間は、どの星よりも眩しく輝いていた。


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