廃棄惑星に追放された俺、万能物質《マター》生産工場を手に入れて銀河最強の生産者になる

廣瀬誠人

廃棄惑星編

第1話 ゴミは射出機へ

 この星の北極点には、星の『肛門』がある。


 極めて下品な表現だが、帝国首都星セントラルの廃棄物射出ターミナルを言い表すのに、これほど適切な言葉はないだろう。


 帝国首都星セントラル


 銀河を統べる銀河帝国の総人口、1000兆人。


 その1割に当たる100兆人が、この「星」に一極集中して暮らしている。


 銀河の心臓部と呼ばれるこの星は、宇宙から見ても異常な輝きを放っている。


 一つの恒星丸ごとを覆い隠す天文学的建造物『ダイソン・スフィア』。


 直径2億キロを誇る巨大な都市だ。


 地表の全てが人工物で覆われ、100兆人が暮らす階層都市群がどこまでも続く。


 その輝かしい繁栄の代償として、この星は毎日、数千億トンもの排泄物を生み出し続けている。


 都市の底から汲み上げられた糞尿や一般家庭から排出される生活ゴミ。


 そして――触れるだけで生物を死に至らしめる、高レベル放射性廃棄物。


 それらを無人コンテナに詰め込み、使い捨ての超光速航行ハイパードライブエンジンを取り付け、10万光年彼方の銀河外縁部へ吐き出す巨大な穴。


 それがここだ。


「ズン、ズン、ズン、ズン……」


 腹の底に響く重低音が、絶え間なく続いていた。


 林立する数千基の電磁投射砲マスドライバーがゴミを射出している音だ。


 宇宙からこの星を見れば、宇宙の彼方へ向かって伸びるゴミの大河が見えるだろう。


「廃棄シーケンス開始…」


 無機質な機械音声と共に、俺の乗せられた円筒形の小さな『処刑ポッド』がベルトコンベアで押し出された。


 ガコン、という衝撃と共に、視界が開ける。


 前後左右、見渡す限り、同じ規格のコンテナが整列していた。


 後ろに控えているのは、星の中心にある恒星炉から取り出されたばかりの廃棄済制御棒が満載のコンテナだ。


 強烈な放射線を放っている。


 もしこのポッドの遮蔽壁に一ミリでも穴が開けば、俺は即座に急性放射線障害で死ぬだろう。


(ああ、そうか。俺はちっぽけな塵一つですらない。このゴミの濁流の一滴にすぎないのか)


 俺の名はクロウ。


 雇い主から与えられた、個体識別番号は0960番。


 帝国における最底辺、5等民だ。


 誰が呼んだか、蔑称のように定着した、ゴミを喰らうカラスという鳥になぞらえた、「クロウ」という名が、俺のすべてだった。


 俺がポッドに詰められ、銀河の彼方に飛ばされるに至った罪の罪状は、上級市民への不敬、および公有器物の損壊。


 もちろん、完全な冤罪だった。


「――聞こえているか、0960番」


 ポッド内のスピーカーから、ノイズ混じりの傲慢な声が響いた。


 コンソールのモニターに、優雅な椅子に腰掛けた男のホログラムが浮かび上がる。


 グライム・フォン・ローゼンバーグ公爵。


 帝国首都星セントラルの上層に住む2等民(貴族)であり、俺の元雇い主だ。


 その顔は美しい金色の金属の仮面で覆われ、全身を義体化し、瞳は高性能な多重レンズ義眼に置換されている。


「グライム様……!俺はやっていません!あのエアカーの制御チップが焼き切れたのは、あなたが正規の規格を無視して、違法な出力改造を施したからです!俺は警告したはずだ!」


「黙れ、汚らわしい猿が」


 グライムは退屈そうに欠伸を噛み殺した。


 彼ら貴族にとって、5等民は、人間ではなくただの家畜――いや、言葉を喋る生体部品に過ぎない。


「貴様の警告など聞いていない。事実は一つだ。私の愛車が故障し、私が不快な思いをした。その整備担当は貴様だった。……責任を取って消えるのが、部品としての道理だろう?」


「俺は部品じゃない!人間だ!」


「いいや、違うな。貴様ら5等民は、金がなく、見窄らしく、穢らわしい。身体を義体化することも、遺伝子を編集することもできない、定命の劣等種。……視界に入るだけで虫酸が走る」


 グライムが手元のワイングラスを傾ける。


 それで会話は終わりだった。


 彼にとって俺の命は、飲み干したワインの一滴ほどの価値もない。


 俺は拳を握りしめた。


「……殺すなら、ひと思いに殺せ。銃殺でもして、恒星炉に放り込めばいいだろう。なぜこんな、手の込んだ真似をする!」


 そう。


 俺を殺すだけなら、この場で銃殺して、星の中心にある恒星炉に放り込めば済む話だ。


 わざわざコストをかけてポッドに乗せ、宇宙へ捨てる理由が分からない。


 俺の問いに、グライムは嘲るような笑みを浮かべた。


「勘違いするなよ、猿。貴様を殺すのは容易い。だがな、我々正当な帝国臣民にとって、この星の中心にある恒星は『神』そのものだ。貴様のような穢れた下等生物の血で、神聖なる炉を汚すことは禁忌とされているのだよ」


「……神聖、だと?」


「そうだ。それに――、一瞬で楽に死なせてはつまらないだろう?」


 グライムの義眼が、レンズの焦点を合わせる様に動き、冷酷な光を放つ。


「即死は慈悲だ。貴様には勿体ない。これから始まる10万光年の旅路、狭い棺桶の中で死の恐怖に震え続け……最後は誰にも知られず、絶望の中でひしゃげて死ぬ。その長い苦しみこそが、貴様への罰だ」


 こいつは、狂っている。


 神聖だの禁忌だのと言いながら、本質はただの嗜虐趣味サディズムだ。


 俺が恐怖に歪む顔を想像して楽しんでいるのだ。


「判決は確定している。即時廃棄ドロップアウト。行き先は座標D-9、死の星エンド。10万光年の彼方なら、貴様の死臭も届くまい。……精々、放射能まみれになってリサイクルされるといい」


 プツン、と通信が切れた。


 同時に、ポッドが固定器具へ装填される音が響く。


 逃げ場はない。


 巨大な電磁コイルが唸りを上げ、空間が歪むほどのエネルギーが充填されていく。


電磁投射砲マスドライバー、射出シークエンス開始。ターゲット:座標D-9。電磁加速、最大』


超光速航行ハイパードライブエンジン、接続確認。チャージ率120%』


 機械的なカウントダウンが始まる。


 俺は歯を食いしばり、窓の外を見た。


 遥か頭上、階層の切れ間から、人工太陽の光が漏れている。


 1等民や2等民が住む、帝国の上層。


 奴らが『神』と崇める光の下は、悪意と欺瞞に満ちた地獄だった。


(ふざけるな……。ふざけるなよ、こんな世界!)


『――さらば、0960番』


 ドォンッ!!


 凄まじいGが全身を襲った。


 内臓が押し潰され、血液が逆流する。


 視界がホワイトアウトする寸前、ポッドに取り付けられた使い捨ての超光速航行ハイパードライブエンジンが起動した。


 星々が一瞬で線になり、世界が裏返るような感覚と共に、俺は10万光年の彼方へと弾き飛ばされた。


 ***


 地獄への旅路は、一瞬のようでもあり、永遠のようでもあった。


 意識が戻ったのは、激しいアラート音のせいだった。


『警告。超光速航行ハイパードライブ完了。座標到達。高度低下』


『大気圏突入シークエンス、エラー。着陸スラスター、応答なし』


『外部環境:高レベル放射線を確認。シールド残存率、低下中』


 ポッド内のモニターが赤く点滅し、警告音が鳴り響いている。


 窓の外は真っ赤な炎に包まれていた。


 大気圏突入の摩擦熱だ。


 帝国は、ゴミを軟着陸させる気など毛頭ない。


 ポッドに本来備わっているはずの着陸装置は当然取り外されている。


 このままでは、勢いのまま地表に激突して、トマトのように潰れて終わる。


「……くそッ、動け、俺の手!」


 俺はGに耐えながら、強引に足元のメンテナンスハッチを蹴り開けた。


 中から極彩色の配線コードと、安物の基板がこぼれ落ちる。


 俺には「特別な力」なんてない。


 貴族のような全身義体も無いし、スーパーコンピューターの電脳もない。


 あるのは、亡き祖父から叩き込まれた「機械の知識」だけだ。


 ――いいかクロウ。機械を作ったのは俺たち人間だ。必ず理屈ロジックがある。回路を見ろ。設計者の意図を読め。そうすれば、鉄屑だって踊らせることができる。


 俺の目は、複雑に絡み合った配線の束を、一瞬で「回路図」として認識していた。


 このポッドの構造はチープだ。


 メインCPUからの制御信号は死んでいるが、超光速航行ハイパードライブエンジンの余剰エネルギーを排熱するバイパスは生きている。


 本来はポッドを融解させて証拠隠滅するための自爆回路……こいつを逆噴射に使えないか?


「理論上は……いけるッ!」


 俺は隠し持っていた簡易工具を突き立て、震える手で回路をショートさせた。


 配線を物理的に引きちぎり、強引に繋ぎ変える。


 『自爆』の信号を、着陸寸前に偽装ハッキングする。


『警告。不正な操作を検知。システム、強制再起動……』


「うるせえ、言うことを聞けぇッ!」


 俺はコンソールを拳で殴りつけた。


 物理的な衝撃でエラーログを飛ばす。


 その瞬間、ポッドが分厚い鉛色の雲を抜けた。


 眼下に広がるのは、見渡す限りの鉄屑の大地。


 そして、緑色の蛍光色に光る有毒ガスと、強酸の雨に煙る灰色の世界。


 地面が迫る。


 死が見える。


 俺はタイミングを見計らい、コンデンサから引き抜いたケーブルを直結した。


 ドォォォォン!!


 ポッドの下部で小規模な爆発が連続して起き、その反動で落下速度が殺される。


 衝撃緩和ジェルが膨れ上がり、俺の体を包み込んだ。


 次の瞬間、天地がひっくり返るような衝撃。


 金属がひしゃげる音。


 ガラスが砕ける音。


 そして、世界は暗転した。


 ***


 目が覚めた時、最初に感じたのは「痛み」ではなく「音」だった。


 ビィィィィィィィ……!!


 腕時計型の放射線検知器ガイガーカウンターが、断末魔のような警告音を上げている。


 俺は咳き込みながら、ひしゃげたポッドから這い出した。


 目の前に広がる光景に、息を呑む。


 空は分厚い雲に覆われ、そこから絶えず「何か」が降ってきている。


 隕石ではない。


 帝国首都星セントラルから飛ばされてきた巨大なコンテナ群、廃棄された機械の破片だ。


 まるで、空が嘔吐しているようだった。


「うっ……!?」


 頬にポツリと雨粒が当たった瞬間、焼きごてを当てられたような激痛が走った。


 見れば、着ていた囚人服の袖が、ジュウジュウと音を立てて溶け始めている。


 酸性雨だ。


 それも、鉄すら溶かす超高濃度の。


 さらに悪いことに、身体に倦怠感がある。


 見えない死神――放射線だ。


 このあたりの放射線量はすでに致死レベルに達している。


「マジかよ……酸に溶かされて死ぬか、被曝で死ぬかどっちが先だ……?」


 俺は慌てて処刑ポッドの残骸の下に潜り込んだ。


 だが、ここも長くは持たない。


 ポッド内に戻ろうにも、ポッドはすでに壊れている。


 このままでは、あと数分で俺の体は死を迎えるだろう。


(どこだ……どこか、シェルターになる場所は……!)


 絶望的な視界の中で、ふと、奇妙なものが目に入った。


 崩れかけた放射性廃棄物の山の向こう。


 泥と油と汚染物質にまみれた茶色の世界で、そこだけ異質な輝きを放つ「銀色の壁」があった。


 強酸の雨を弾き、放射線の嵐の中でも腐食一つしていない、完璧な鏡面。


「……あそこなら!」


 俺は、ポッドの破片を傘代わりにして、意を決して走り出した。


 足元の泥濘に足を取られながら、酸の雨に肌を焼かれながら、必死に腕を振る。


 肺が焼けるように熱い。


 吸い込んだ空気に含まれる毒素が、身体を内側から蝕んでいく。


 痛い。


 苦しい。


 だが、止まれば死ぬ。


 死んでたまるか。


 グライムの思い通りになんて、させてたまるか!


 転がり込むようにしてたどり着いたのは、巨大な建造物の入り口だった。


 壁面は未知の合金で覆われており、神々しいほどの光沢を保っている。


 明らかに、現代の帝国技術体系とは違う。


 もっと古い、旧時代の遺跡だ。


 だが、入り口の重厚なゲートは閉ざされていた。


 そしてその足元には――おびただしい数の「異様な死体」が転がっていた。


「……ひっ!?」


 俺は息を呑んだ。


 転がっているのは、全身を義体化した、人間の成れ果てだ。


 風化した装甲の片隅に、俺は帝国の紋章を認めた。


 間違いない。こいつらは、かつてここを調査に来た帝国の兵士……。


 それも、放射能にも耐えられる最高級の義体を持ったエリート調査隊だ。


 だが、単に錆びついて朽ちただけではない。


 ひしゃげた装甲の断面は、明らかに何かに『食い千切られた』形跡を晒していた。


 彼らは皆、ゲートに向かって手を伸ばしたまま、機能を停止している。


 まるで、中に入れてくれと懇願するように。


 ゲートの脇にあるコンソールが、微かに明滅していた。


 画面には無数の赤いログが残っている。


 『Access Denied(拒否)』『Access Denied』『Access Denied』……。


 俺は震える手で、それに触れた。


 雨で溶けかけた皮膚から、血が滴り落ち、操作パネルに付着する。


『ピピッ――遺伝子情報、スキャン中……』


 無機質な機械音声が響いた。


 目の前の残骸たちも、こうやってスキャンされたのだろうか。


 全身を義体化し、遺伝子さえも書き換えて「進化」した彼らが開けられなかった扉を、ただの5等民である俺が開けられるはずがない。


 万事休すか。


 俺が膝をつきかけた、その時だった。


『――遺伝子配列、照合完了』


 音声のトーンが変わった。


 先程までの事務的な響きではない。


 どこか、温かみのある声色。


『遺伝子適合率100%。カテゴリー:純粋人類ピュアヒューマン


 ゲートの中央から、青白い光のラインが走り、重厚なロックが外れる音が響いた。


 プシューッ、と空気が抜ける音と共に、巨大な扉が左右にスライドしていく。


『認証、承認。――おかえりなさいませ、工場長マスター


「……は?」


 呆気にとられる俺を招き入れるように、扉の奥から清浄な空気が流れ出してきた。


 俺は転がるように中へ入った。


 直後、背後で再びゲートが閉じる。


 酸の雨の音も、放射線検知器ガイガーカウンターの警告音も消え、完全な静寂が訪れた。


 そこは、広大なホールだった。


 壁も床も、鏡のように磨き上げられた銀色。


 天井には柔らかな照明が灯り、埃一つ落ちていない。


 外の地獄が嘘のような、清潔で静謐な空間。


 中央には、巨大な円柱状のタンクと、複雑な操作コンソールが鎮座している。


工場長マスター……って、俺のことか?」


 俺は恐る恐るコンソールに近づいた。


 画面には、このような文字列が表示されている。


 【万能物質マター生産工場:システム・スタンバイ】


 【インベントリ:空】【投入口:開放中】


万能物質マター……?なんだそれは」


 言葉の意味を考えている余裕はなかった。


 緊張が解けたせいか、急激な身体の痛みと空腹と喉の渇きが襲ってきたのだ。


 そういえば、追放される前から何も食べていない。


 被曝した身体が、エネルギーを渇望して悲鳴を上げている。


 だが、ここにあるのは機械だけだ……。


 俺の視線が、コンソールの端にあるメニューリストに止まった。


 『生産可能リスト:基礎生活物資』


 その一番上に、【治療キット】【水】【有機合成食料】の文字がある。


「作れるのか……?ここで」


 だが、機械を動かすには材料がいる。


 『インベントリ:空』の表示が点みに点滅している。


 投入口らしきハッチが開いているが、何を入ればいい?


 近くに落ちていた古びた看板には簡潔にこうあった。


 『質量を持つ物質であれば、種類を問わず。有害物質・放射性物質も原子分解により無害化が可能』


 俺は自分の身体を見た。


 ボロボロになった囚人服。


 肩から下げていた識別プレート。


 そして、外から持ち込んでしまった、放射能に汚染された処刑ポッドの破片。


 普通なら触るのも躊躇われる毒物だ。


 だが、俺は迷わず、それらを手当たり次第に投入口へ放り込んだ。


「頼む……!毒でもなんでも食ってくれ!」


 俺は『生産開始』のエンターキーを叩いた。


 ブゥン、と低い駆動音が響く。


 投入口の中で、汚染されたゴミが一瞬で光の粒子へと分解された。


 モニターの数値が跳ね上がる。


【汚染除去、完了。リソース充填。マテリアル変換プロセス、開始】


 直後、出力口にあるトレイの上に、銀色の流体金属が滲み出した。


 それは生き物のようにうごめくと、一瞬で形を変え、色を変え――凝固した。


 コトリ、と音がする。


 そこにあったのは、清潔な治療キットとクリスタルガラスに入った透き通る水。


 そして、湯気を立てる厚切りステーキ肉だった。


「…………は?」


 幻覚かと思った。


 だが、漂ってくる匂いは本物だ。


 肉の様な超高級有機食品は、本来5等民の分際では味わえないが、鼻腔をくすぐる、香ばしい脂の香り。


 一度も食べた事がない俺ですら、直感でこれは本物の肉だと言っている。


 信じられない。


 さっきまで致死性の放射線を放っていたゴミが、これになったのか?


 俺はまず、生成された治療キットを太腿に突き立てた。


 ――シュウッ。


 軽い音と共に、爛れていた皮膚が光を帯び、みるみるうちに綺麗な肌へと再生していく。


「すげぇ……」


 完治したことを確認すると、俺は震える手でナイフとフォーク(なんと、これも同時に生成されていた!)を手に取った。


 滴る肉汁。


 立ち上る湯気。


 俺は迷わずその肉を切り分け、口へと運んだ。


「――っ」


 噛み締めた瞬間、濃厚な肉汁が口いっぱいに広がった。


 美味い。


 今まで生きてきた中で、間違いなく一番美味い。


 身体の細胞の一つ一つが、歓喜して再生していくのがわかる。


 気がつけば、俺は涙を流しながら貪り食っていた。


 皿まで舐める勢いで完食し、水を一気に飲み干して、ようやく一息つく。


「ゴミが……毒物が、ご馳走になった」


 俺は、空になった皿を見つめ、そして工場のモニターを見上げた。


 亡き祖父の言葉が蘇る。


『世の中にはゴミなんてねえ。使い道を知らない馬鹿がいるだけだ』


 この工場は、ゴミを原子レベルで分解し、あらゆる物質へ再構成できる夢のマシンだ。


 どんな猛毒だろうが、放射能まみれの廃棄物だろうが、ここでは「万能物質マター」に変わる。


 そして、この死の星エンドには、何がある?


 毎日数千億トン降り注ぐ、帝国のゴミがある。


 見渡す限りのスクラップの山がある。


 それに、俺をここまで運んできたポッドについていたアレ―― 使い捨てにされた『超光速航行ハイパードライブエンジン』の残骸が、この星の地表には無限に転がっているはずだ。


 つまり――。


「……ここは、ゴミ捨て場なんかじゃない」


 俺の唇が、自然と歪んだ。


 笑いがこみ上げてくる。


 絶望ではなく、歓喜の笑いが。


「ここは宝の山だ。この星の毒も、ゴミも、すべてが俺の資源になる」


 帝国は俺を捨てた。


 無能なゴミ屑だと罵って、この地獄へ突き落とした。


 だが、奴らは気づいていない。


 自分たちが捨てた「厄介なゴミ」こそが、最強のエネルギー源であり、それを扱える人間を、あろうことかその供給源のど真ん中に送り込んでしまったことに。


 俺はコンソールに手をつき、モニターに映る自分自身の顔を睨みつけた。


 汚れて、傷だらけの顔。


 だが、目は死んでいない。


「見てろよ、帝国」


 俺は宣言する。


「俺の名はクロウ。0960番でも、ゴミ屑でもない。この工場の主だ」


 俺は拳を握りしめる。


「俺はこの工場で、この星のゴミを食らい尽くす。そして、銀河で一番いいモノを作ってやる。ここを、お前らが羨むような最強の国にしてやる」


 俺の決意に応えるように、工場内に無数のライトが灯った。


 それはまるで、新しい王の誕生を祝福するようだった。


 こうして、廃棄惑星の王と、銀河最強の生産者の物語が幕を開けた。

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