“ね”の物語
あいみ
ねずみのはなし
むかしむかし。ずーっとむかしのことです。
かみさまは言いました。
「新年の朝に、わたしのところにあいさつきた、1番から12番までの順番をつけて、1年交代で、その年を任せてあげましょう」
それを聞いた、それぞれの動物のおさは、若い動物たちを、かみさまのもとに行くようにめいじました。
うしさんは足がおそいので、前日の夕方に出発していました。
朝、太陽がのぼりきる前。
それぞれの動物が、かみさまのもとに、走りだします。
体のちいさなねずみさん。
おさに言われて、いちもくさんにかけだします。
「うしさん、うしさん」
前日に出発したうしさん。
とっくに先頭を、追い抜かれていました。
すっかりあきらめていたうしさんに、ねずみさんが声をかけます。
「こっちだよ」
ねずみさんは、かみさまのもとに行く、近道を知っていたのです。
「どうして、教えてくれるんだい?」
うしさんは、聞きました。
どの動物も、われさきにと、ほかの動物には目もくれません。
なのになぜ、ねずみさんはうしさんに、近道を教えてあげるのか。
うしさんは警戒しています。
ねずみさんは、言いました。
「うしさんが、1番になったら。きっとみんな、おどろくよ、そしたらきっと、うしさんのことを、バカにする動物はいなくなる」
そうなのです。うしさんは、足がおそいことから、ほかの動物に、いつもバカにされて、笑われていました。
「さぁ、はやく。ここを行けば、うしさんが、1番だ」
うしさんは、ねずみさんの言葉を信じました。
ねずみさんを頭の上にのせて、かみさまのもとに向かいます。
「さぁ、うしさん。かみさまの、おやしきについたよ」
近道は、ほんとうに近道でした。
ふりむいても、まだほかの動物はいません。
2匹が1番のり。
「ねずみさん。ありがとう」
うしさんは、お礼を言いました。
「いいんだよ。さぁ、はやくいって」
うしさんは、くびをフイッとふりました。
頭に乗っていた、ねずみさんがとばされて、なんと!1番にゴールしました。
続いて、うしさんがゴール。
ねずみさんは、なにがおきたのかわかりません。
「ねずみさん。ほんとうに、ありがとう。きみのやさしさは、とてもうれしかったよ」
空のように、晴れ晴れとした顔でらうしさんは、言いました。
バカにされるだけの人生で、うし仲間以外に、こんなにやさしくされたのは初めて。
1番じゃなくていいのです。
うしさんは、ねずみさんのきもちが、うれしかったから。
心がぽかぽかしたのです。
太陽に照らされているかのように、あたたかくて、こんなにも自分のことを考えてくれた、ねずみさんに、恩返しをしたくなりました。
立派なものをもらったのに、うしさんには、返せるものがありません。
うしさんは、考えました。
この気持ちは、どうやったら伝わるのか。
そして、思いついたのです。
年の始まりは、ねずみさんであるべきだと。
これは、恩返し。
近道を教えてくれた、お礼ではありません。
「よくきたね。さ、これをうけとって」
かみさまは、光る石をくれました。
ほかの動物たちがくるまで、やしきの中で待っているようにと、言いました。
2匹は、くびをよこにふります。
ほかの動物を、ここでまつと言います。
すこしおくれて、動物たちの姿が、見えはじめました。
最初はとらさん。
その後ろには、うさぎさん。
りゅうさんが、空を飛んできます。
へびさんが、草の根からあらわれました。
風をきって、うまさんが走ってきます。
ひつじさんは、汗をかきながら到着。
おさるさんと、いぬさんは、ぼろぼろでした。
途中で、けんかをしたようです。
ですが、仲直りをしたのか2匹は、ならんで走っています。
2匹仲良くゴール……ではありませんでした。
2匹のあいだを、にわとりさんが走ってきます。
ものすごいスピードです。
にわとりさんは毎日。朝を知らせるのが役目。
ほかの動物よりも、でおくれていました。
にわとりさんの、いきおいにおされて、おさるさんの足が先についてしまいました。
その次に、にわとりさん、いぬさん。
とんでもないことを、してしまったと、にわとりさんは、2匹に謝りました。
でも、2匹はま怒りません。
これは、競走。12番までに、到着しなければならないのです。
最後に、いのししさん。山から一直線に、ここまで走ってきました。
さぁさぁ、これで。12匹の動物が、そろいました。
動物たちは、かみさまのあとをついていき、やしきの中に入っていきます。
ねずみさんは……ただじっと、そこから動きません。
だれかを待っているようです。
「ねこさん。どうしてこないんだい」
ねこさんは、足がはやいです。
お祭りが、大好きです。
この集まりに、参加しないわけがありません。
「ねずみさん。どうしたんだい。はやく、いこう」
うしさんに、声をかけられました。
ねずみさんは、何度もふりかえります。
ですが、そこにねこさんの姿は見えません。
新年を迎えて今日は、宴会が開かれます。
12匹の動物と、かみさまでおこなわれる、特別な宴会。
それは、たのしい宴会。
ねずみさんだけが、かなしい顔をしていたことに、だれも気付きませんでした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます