ノエル
茶村 鈴香
ノエル
「今夜は大丈夫なの?」
言いながら
あなたは私の銀のピアスを
静かに外す
「無くしたら悲しいでしょ」と
千円均一の安物よ
でも確かにクリスマス用の
ちょっとはしゃいだモチーフ
あなたの長い髪が
私の肩に落ちる
少しだけ冷たくて
でも全然嫌ではなくて
「今夜は大丈夫なの?
帰らなくて」
そう大丈夫なの
夫は一昨日から1週間の出張中
まだ 食前酒しか飲んでない
「お腹空いた?先に食べる?」
ううん こんな時は空いてる方が
より貪欲になれるって私も知ってる
ゆっくりがいい
何にも
私を急がせない
あなたにはその余裕がある
あなたの髪は
背中に届くほど長い
“ビジネス中は結べば問題ない”
そういう会社を選べる人
クリスマス休暇どころか
出張を命じられる夫
その違いについては考えない
めぐり合わせと運と能力
年明けからね
パートタイムで仕事探すの
だから平日の夜に
ゆっくり会えなくなるかも
「それはだいぶつまらないね」
つまらなくもなさそうに
あなたは言う
ガールフレンドなら他にもいるでしょ
私は特別な存在ではないよね
今の私にとってはあなたが
取り替えのきかない
とてもとても特別な人
私が特別に思うべきなのは
指輪を交わした夫の筈
でもいつか彼は
生活を担うだけの存在になった
私にサンタクロースが来ても
土だらけの馬鈴薯を置いていかれる
いい子にしてなかったこの一年
あなたと会ってしまったから
サンタクロースに頼めない
欲しいものを やり直しの選択肢を
私は強く願ってしまう
サンタクロースに頼むとしたら
あなたの記憶を消して
普通の奥さんに戻してください
朝になったら
クリスマスキャロルを聴きながら
お茶を飲む
2人で飲む 最後のクリスマスティー
クリスマスブレンドは
一年分の果実の香りがする
終わりの言葉は告げない
告げなくてもあなたは私を忘れるから
ノエル 茶村 鈴香 @perumi
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