歌ウサギは恋をする

カラマリ

12月23日 歌ウサギは一段と惚れる

私、先輩に恋をしました。

それ以上でもそれ以下でもありません。



 12月23日。世間はクリスマス直前。町中あちこちに赤と緑の装飾が見られる。 日々の仕事のことなんて忘れて準備をしている人ばかりだ。

 そんな鮮やかな有彩色で作られた街を1人猛ダッシュする女の子がいた。


「やばいっ…!遅れる!」


 何かに遅れそうになっている彼女の名前は月見山やまなし夕冴ゆうひ。高校一年生だ。

 実は今日は軽音部のクリスマスライブがあり、それの集合時間に遅れそうになっているのだ。夕冴は一度家に定期を忘れて取りに帰って、その後最寄り駅で目の前で電車を逃し、仕方がないので次の電車を待つことにしたが、待ってる間にトイレに行っていると、さらに2本も電車を逃し、今窮地に追い込まれている。


「マジでサイアク、、、!」


 何なんですか?今日星占い12位中15位だったんですか?それぐらいじゃないと説明つかないくらい運悪いんですけど…?意味わからない。


夕冴は深く考える事をやめてとにかくもう一度走ろうとしたのだが、突然後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「夕冴、おはよう」


低音混じりのイケボが聞こえると同時に私の肩に手を添えたような感触がした。


「せ…せせ、先輩っ!?」


「どうしたんだよそんな急いで。転ぶぞ」


この集合時間ギリなのにも関わらずのんびり歩いている男の人は冬暮ふゆぐれ雪翔ゆきと先輩。私の所属する軽音部の副部長であり、私の大好きな先輩でもある。


「言ってる場合じゃないですよ先輩……!…もう…すぐはじっ…あうっ」


「…ほらこれやるから一旦落ち着けよ」


駅からずっと猛ダッシュして来て超息切れしている夕冴に、雪翔はさっきコンビニで買って来たというアクエリを手渡してきた。


えっ、いいんですか…!?ありがとうございます、、、じゃあ飲ませていただき…


「…じゃなくて!」


「あれ、いらなかった?ごめん」


「いや、違いますよ、もうすぐ私達集合時間に遅れそうなんですよ?早くいきましょう…!」


そう急かすも、雪翔は腕時計を見てただ頭を少しかいただけだった。夕冴は急ごうとしない雪翔に呆れていると、逆に呆れた顔で少し笑ってこう言った。


「何言ってんの。聞いてなかった?全体グループチャットで今日集合時間8時半じゃなくて9時半に変更って」


えっ、


夕冴が急いでスマホのグループチャットを確認すると、そこには確かに『"集合時間の変更"8:30➡️9:30 間違えないようにしましょう』と書かれていた。


あまりに自分がダサいのと恥ずかしさと猛ダッシュの疲れで一気に力が抜けた夕冴はその場にへたっとしゃがみ込んだ。


「…もうやだ…死にたい」


「ふふっ。やっぱドジよな月見山って」


 むっ。もういつも先輩私のことドジって呼んでくる…やめてよ、と言いたいところだが、自分でも自分の事をドジだなって思うことがよくあるから何も言い返せないよ…


「…じゃあ先輩は何してたんですかっ」


「俺?俺は普通に副部長だから早めに行って会場の設営とかでしないといけないから1時間前には来ておいと方がいいかなって」


 ちゃんとした理由があるんかい。先輩も間違え早く来すぎてたら面白かったのにぃ…じゃあただ私がドジっただけじゃないですか!


「それ飲みながらでいいから行こうぜ。よかったら一緒に設営手伝ってくれよ」


「…はい、わかりました」


でもどれだけイジられようと先輩からの誘いは流せない。むしろ全部聞きたい。だって大好きだから。ただそれだけ。…そう、聞いていたい。


 夕冴が雪翔のことを想っていると、雪翔がいきなり背中を軽く叩く。


「わっ!?」


「ま、せっかくだし今日の打ち合わせしながら向かおうよ」


〜!やばい、無理。顔カッコ良すぎて死ぬ。

嬉しさや緊張、さっきの恥ずかしさもあって震えたような声で返事をした。


「は、はい」



          ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「じゃあ俺と湯尾は照明とかの設置と調整するから冬暮たちは椅子とか並べといてくれ」


「りょ」「わかりました」


 設営の手伝いのためホールに来ると、部長である高岡たかおか 晴氷はるひ先輩と、もう1人の副部長である湯尾ゆのお 実冬みふゆ先輩がいて、4人で一緒に会場の椅子並べや照明の設置を行った。


先輩ばっかり、、、気まずいって、、、!こう言う時は先輩の事を見よう。落ち着けるはず。


 そしてふと夕冴が雪翔のほうに目を向けると、雪翔と実冬が仲良さそうに喋っているのが目に入った。


何話してるんだろう…?混ざりた…混ざれるわけないか。はっ、やばい、私今羨ましく思ってた!?


 雪翔のことが大好きなだけあって、夕冴は雪翔が他の女の子と喋っていると心配になったり、羨ましく思うことがある。つまり嫉妬だ。

 邪魔しちゃいけないと思い1人黙々と椅子並べをしている夕冴のもとに部長の高岡先輩がやってきて、声をかけてきた。


「おはよう、月見山。お前冬暮と来るなんて珍しいな。なんかあった?」


「えっ!?あ、いやたまたま行きしなに会って、先輩に『一緒に行こうって』と言われたので」


「ふーん、冬暮がねぇ…」


部長はよくわからないことを呟いた。冬暮が…?


「あの、、、何ですか?」


「何でもないよ。これ会議室の鍵だから、会議室まで行って、そこにある照明取ってきてくれないか?」


色々気になったが、夕冴は一言了解ですと返して、今は一旦その場を離れることにした。


えっと、、、会議室は〜、、、何処だっけ?

部長〜…場所くらい教えて下さいよ!私設営とか初めてなんですけど?どうしよう?


探さなきゃと思っていた矢先、夕冴の目の前に会議室の文字があった。


真横でした。もう私ダメすぎる。誰か助けて?




「じゃあ最後の合わせするか」


設営が終わった夕冴達は、夕冴と雪翔に加え、今来た自分のバンドのメンバーである1年生の小松こまつ 芽瑠斗めるとと2年生の花堂かどう 孤白こはくたちと一緒に、本番前最後の合わせをすることになった。


大好きな人と同じバンド、最高。


 そう、私は雪翔先輩と同じバンドなんです。私がなぜ先輩とおんなじバンドにいるかと言うと、うちの軽音部は基本同じ学年で組むことになっています。

 ですが、私達のバンドは例外で、私達1年生が入部するタイミングで、雪翔先輩のバンドのメンバーのうち1人が問題を起こして退学、もう1人が部活を辞めてしまったので、ほぼ同時期に2人辞めてしまい、人が足りなくなっていたので、同じクラスの芽瑠斗と一緒に2人に加わることになったのです。


 そんな4人は学年は違うけど、学年を超えて仲良くしているみたいだ。


 そして迎えた本番。朝の出来事のせいか、雪翔の事を意識してしまうせいで何箇所かミスしてしまった。もったいなすぎる。

 だけど、いつも通りベースで音を響かせながら、雪翔先輩の歌声に惚れていた。





 本番が終わり、クリスマスライブの会場の片付けが終わると、夕冴は真っ先に雪翔を探した。夕冴の、クリスマスに一緒に出かけたいから声をもっとかけたい、という欲が先走って、もはや怪しいの域まで行くように周りを見渡していた。

 しばらく見渡していると、雪翔が後ろの扉から出ていくのが見えた。それを見逃さず、夕冴も急いで追いかける。

 雪翔を追いかけていた夕冴だが、そこでテニス部らしき女の子と喋りながら帰っているところを見つけた。随分と仲が良さそうだ。

…いいなぁ…

 また夕冴の嫉妬が発生している。あんな仲良さそうに話してるところに割り込む勇気は流石にない。仕方なく夕冴は諦めて逆方向へと足を向けた。2回ほど雪翔は夕冴の方を振り返ったが、夕冴は気づいていなかったという。


 家に帰った夕冴はすぐにベットに飛び込んだ。今日の朝のことがずっと忘れられない。耐えれる気がしない。クリスマスも明後日。夕冴は覚悟を決めた。


「…絶対に明日は告白するんだ。頑張れ私」















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

歌ウサギは恋をする カラマリ @moderate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画