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助けられ無いものに下手に希望を見せ、やっぱり出来なかったという方が、私は残酷だし酷いと思う。私はそうやって人を殺したくない。

そう言った時の鏡花は相も変わらず残酷で、容赦のない線引きを行っていた。


全国に何人の精神病患者が居るのかは知らない。けれども決して少なくない数だとは思っている。人間関係、仕事の圧迫、家族との関係、其らが複合的に重なってそうなると思う。

けれどもその人達を見て思うのは、本質的に私は助けて上げることが出来ないという事である。

病院の予約をしてあげる。付き添っても上げる。毎朝同じ時間に『起きてる?』、『寝た?』という生存確認もしてあげる。けれども愚痴に付き合う気はない。弱音を聞く気もない。其れをしたら、私までもが転落すると分かっているから。貴方を助けるお医者の負担を上げてしまうと思っているから。

だから見捨てはしない。けれどもこれまでのような関係では居られないと思うし、それ故に残酷だと思われるかも知れない。余りにも合理に寄り過ぎているから。

けれども最悪なけっかを免れる為には、私だって腹を括る必要があると思っている。


「瑠衣はさ、諭羅が鬱病とか、双極性障害になったらどうする?」

ふと顔を上げた鏡花が俺を見てただ静かにそう言った。何時もの明るさはない。ただ研ぎ澄まされた人ぶりの刃がそこにあって、その切っ先が俺の方へと向けられていた。

真剣に聞いているのだ。俺がどういう対応をするのか。何を持って彼奴を救うのか。

「……何もしない。だが定期的に連絡は取る」

彼奴が俺達と同じ屋根の下に住んでいて、言葉さえ話せなくなるほど堕ちてしまったら、ただ黙って寄り添うだろう。話し掛けず、ただ食事を与え、人間ではない別の生き物の世話でもする様に、面倒を見るだろう。鏡花にして来たように。

だが現実問題、彼奴は外の世界に居て、俺達と常に行動を共にしている訳ではない。

「そうだね。あの子の性格的に、生身の人間を混乱に招き入れて、安心を得るようなメンヘラタイプの鬱は発動しない。もしそうなら、私は縁を切るしかない。

私が助けて上げられるのは、私の事を考えた上で病める人だけだよ。手助けはしてあげる。でも愚痴も弱音も私達の前で延々と吐くことはきっと許さない。AIに丸投げさせる」

そう言うと黙って目を閉ざした。黙祷でもする様に。

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