高速バス

鷓綟 万園

高速バス

真夜中に旅行から帰宅していた。高速バスに、もう一時間近く揺られて、眠気と疲れが酷く頭を痛ませていた。


一緒に旅行に行っていた友人から、先に着いたとの連絡が来た。私の都合で、別々のバスで帰っていたのだ。


まだ着きそうもないので、先に帰っていいよ、と送信してから、少し目を閉じていることにした。


もちろん眠れる訳ではないけれど、多少楽だったから、しばらくそうしていた。


ふいに、自分の座っている席の左側から、男性の咳払いが聞こえて目が覚めた。


あくびをしながら、なんとなく外の景色を眺める。


少し経ってから、ある事に気付き、また私は目を閉じた。何も聞こえていない風を装った。




私は窓側に座っていたから。




男性の咳払いを、他の誰も気にしていないようだった。


どのくらい時間が経ったのか、正直分からなかった。恐怖の中、目を開くこともできずじっとしているしかなかった私には、途方もない時間が経ったように感じた。


やっと止まったバスから降りた私は、乗り場にいる友人を見つけた。安心とともに、申し訳なさを感じた。帰っていてよかったのに。


「あ、やっときた。遅かったじゃん。」


「ごめん、結構渋滞してたみたいで。」


友人の声を聞いて、恐怖から抜け出した安心でどっと疲れがやってきたようだった。思わずため息をつく。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと怖いことがあってさ…」


そう言って彼女の顔を見た。


…なんだろう。どこか妙だ。


何か、違和感がある。表情が不自然なような。


「そういえばさ、」


彼女が口を開く。


笑みを浮かべている。


背後から冷たい風が吹いている。


「ここで降りてよかったの?」






後ろを振り返ると、私は知らない山道に居た。


風が吹いているのに、何の音もしなかった。


それから先の記憶はない。

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高速バス 鷓綟 万園 @SukasukaPonta

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