恋人探し卵っちゃん!

桔梗 浬

不思議な卵っちゃん

「うーん……」


 悠太はテーブルの上に置いてある大きな卵を眺め、そう唸った。



※ ※ ※ 数時間前 ※ ※ ※



『SALE 誰か買ってください』


 その張り紙を店先で見つけたのは偶然だった。

 クリスマスが過ぎて売れ残ったオモチャなのだろう。大きな白い卵に金色のリボンが結ばれている。そこに大きな手書きの文字で『SALE 誰か買ってください』と張り紙が貼られていた。


 パッケージすら無いソレが気になったのは、姪っ子に恐竜の卵をねだられたばかりだったからかもしれない。確か1万円越えだとか言っていた。


「これは……恐竜の卵?」


 そっと持ち上げ、どこかにスイッチがないか見ていると、店員らしき初老の男が、おもむろに声をかけてきた。


「お客さま、失礼ですがおいくつですか?」

「え?」

「あ、いえ……失礼いたしました。そちら、向けのオモチャでして」

「は?」


 悠太はそっと卵を元の位置に戻した。

 のオモチャなんて、誰かに見られでもしたら困る。


「すみません。何だろうと思っただけで」

「今『怪しい』って思いましたよね。ははは、すみません。これは『恋人探し卵っちゃん』って言う物でしてね。取り扱いには年齢制限があるんですよ」


 益々怪しい。


「別に興味ないんで」

「いやいや、そんな事言わずに持って帰ってやってください」

「は? 年齢制限とか言ってませんでした?」

「大丈夫! お客様は子どもには見えません。うんうん大丈夫」


 じゃー聞いてくるなよ。と心の声をグッと堪え、悠太はその場を去ることに決めた。


「あぁ、ちょっとお待ちください! わかりました、せめて説明だけでも聞いて行ってください」

「…………」


 必死に引き留める店員に、悠太は根負けした形で「じゃぁ、ちょっとだけ」と説明を聞くことになってしまった。


「お客さま、オモチャには対象年齢っていうものがありますでしょ? 対象年齢4歳とか、6歳とか」


 悠太は軽く頷いた。そんな事は誰もが知ってる事だろう。


「これは対象年齢が大人、だからオモチャ」

「あー」



※ ※ ※ 現在 ※ ※ ※


 結局、店員に押し付けられ部屋に持って帰ってきてしまった謎の卵。

 トリセツを読む限り、うまく羽化すれば理想の恋人が誕生するらしい。


 −『恋人探し卵っちゃん』取り扱い説明書−

 ① 卵に名前をつけましょう。

 ② サイトにアクセスして、希望の恋人像アンケートに答えてください。細かく設定する事でより理想に近づける事ができます。

 ③ 卵が羽化するまでお世話しましょう。お世話の仕方で、誕生後の恋人の性格に変化があります。ラブラブ、ツンデレ、ヤンデレなど。

 ④ 卵から理想の恋人が誕生する瞬間に立ち会いましょう。初めて見たものを恋人だと認識するため、最初が肝心です。

 ⑤ 1ヶ月間大切にお世話しましょう。楽しい恋人との生活をお楽しみください。

 ※恋人は1ヶ月間で契約終了となります。延長希望の場合は月額費用をお支払いください。


「うーん。どう見ても怪しいよな」


 その時、パキッ、パキッと卵から音が聞こえてきた。

 

「え、えっ?」

「あ……」


 卵の中から人間の形をした物がゆっくりと顔を出したのだ。

 パチパチと悠太を見つめた瞳が美しく、悠太は息を呑んだ。

 その人物はゆっくりと卵から這い出ると、産まれたままの姿で「うーーん」と体を伸ばした。


「あんたが?」

「いや、あーそうです……ね」


 なんで、何もしていないのに産まれたんだ? と悠太は頭をフル回転させる。

 店員は一秒でも早く卵を誰かに譲りたかった様に思える。


「どんな仕組み?」


 悠太が色々考えている間も、誕生した人物はスクスクと育ち部屋の中を物色している。そして悠太の脱ぎ散らかした服の中から、大きめのシャツを羽織った。

 そしてくるりと振り向くと、ニコリと悠太に笑いかけた。


「悠太って言うんだ」


 その優しい声にドキリとする。

 馬の様に美しい筋肉、優しい笑顔。見た目は完璧だった。それだけ卵に愛情を注いだ人物がいるという事の証だ。一体誰が?


「愛してるよ、悠太。おいで」


 そう言うと、大きな手を悠太にそっと差し出した。


※ ※ ※



「ねぇあなた、ここに置いておいた私の卵……知らない?」




END

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恋人探し卵っちゃん! 桔梗 浬 @hareruya0126

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