恋のたまご ((カクヨムコンテスト11【短編】 お題『卵』)

姑兎 -koto-

第1話 恋の卵

目の前に卵が一つ。

心の中に貴方が一人。


これは、初めての恋の証。


*-*


私の生まれ育った某銀河の第三惑星は、雌雄同体だったのでつがいになる必要が無かった。

他の個体への想いと一緒に卵が育ち、育ち切れば新たな命が生まれる。

それは、愛だの恋だのという想いではなく『しゅ』への想いのようなものだった。



そんな我が星は、今、存亡の危機に瀕している。

成熟しすぎた星は徐々に力を失い荒野と化し、成熟し過ぎた社会の個を重んじる風潮が生命の誕生を鈍らせ、どの角度から検証しても滅びしかない未来。

自力では如何ともしがたいと結論付けた我々は、現状を打破すべく、希望を求め異星調査を始めた。



第一期異星調査員に選ばれた私は、スライムボディーを手に入れ色々な星に派遣された。

異星人に擬態し色々な文化を学ぶことは興味深く有意義ではあったけれど、それでも『想い』が芽生えることは無く、諦めかけた頃。


私は、あの星に降り立った。


恋に落ちるのに理由は無いというけれど。

本当に、彼のどこが好きだったのか説明できない。

敢えて言うなら、魂が触れあった感覚。

最初は小さな芥子粒程度だった想いは、徐々に大きくなり、いつの間にか小さな卵になっていた。


そして、私は、禁忌を犯す。

所謂『異星人のお持ち帰り』は厳禁。

でも、初めて愛した人と離れがたい想いが抑制出来ずに、連れ帰ってしまったのだ。


審問の結果は、正体がバレないよう厳重に管理すること。

万が一、気付かれたら、即帰還だった。

番にならない我が星の特例扱いになったのは、貴重な卵があったからだろう。

実験ケースとして扱われたのかもしれない。



隔離施設での彼と二人の生活は、今まで感じたことが無い暖かいものだった。

半ば催眠状態にあるとはいえ、彼は、心から私を信じ愛してくれた。

全て、上手く行っていたのに……。


その日、私は油断していた。

私の正体を知った彼は「え?」っと小さな声を漏らした後、催眠が解けてしまいTHE END。


*-*


帰還した彼は、今頃、どうしているだろう。

私の事を覚えているだろうか。


卵が孵ったら、一度、こっそり会いに行こう。

我々に両親という概念は無いけれど。

この子を父親に会わせるために……。


ー完ー


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