転生して聖女になったら私を殺した犯人と二重人格になっていた!?
@miyumebou
プロローグ
私、
高校を卒業した私は、警察学校へと入り、婦警を目指した。警察になればきっと多くの犯罪者と相対する事になる。でも、彼らこそ話し合い分かり合える相手を最も必要とする人々なのだ。そんな彼らへ寄り添える警官になりたい、そこに嘘偽りは無かった。
警察学校を出て初めての現場、私の目の前には今、指名手配犯の
「あたしとした事が…… けっ、ヘタこいたな…… だけどこれでおあいこだ……」
倒れ際に明空が投げたナイフは私の首を見事に切り裂いていた。
初めての現場、初めてのパトロールで偶々見つけた指名手配犯。社会的地位を持たない人を利用し、幾つもの殺人教唆に関わったとされる凶悪犯だ。
「まだ…… 未練はあるが…… 死んでも呪ってやるからな……」
そう言い残すと明空は事切れた。
(駄目…… 私も意識が……)
こうして、私は今世を終えたのであった。
*
ああ、何とも哀れなことでしょう。生前の善き行い、そしてこれからもそれを続ける意志と未来、この女神イャザッタは確かに見届けていました。その清き魂に免じ、我が御心の行き届いた世界へ転生させて上げましょう。さあ、特別に将来を聖女として約束し、その清き心と行いをもって我が教えを広めるのです。聖女に必要な魔力、加護はすべて差し上げます。我が力を持って異教徒共を塵一つ残らぬほど滅び尽くすのです。
(どこからか声が聞こえる…… どこか壮大で優しさを感じる……。お母さん、確か子ども、それも、物心がついた頃の母に似た優しい声……)
さあ、純 甘香よ目覚めるのです。新たな人生を。
*
あの時、死んだと思っていた私は別世界にいた。この事を自覚したのはおよそ3歳くらい、物心がついた時である。
前世である純甘香としての記憶を鮮明に持ちながら生活をするのは不思議な感覚がした。
今世での名前はアフラ・フォーグマ、両親の所在は不明。記憶のない頃に教会前に捨てられ、そこで孤児として育てられた。
前世では頭は良くも悪くも無いほどであったが四則演算や簡単なモノなら関数も扱えたことから、この世界の宗教であるツァラス教の本拠地「ティカン教皇区」へ移され、そこで神学を学ぶこととなった。
イャザッタ様のお膝元の学園では世界中から優秀な聖職者の卵が集まるが、私は中でも飛び抜けて魔力が多いらしく、成績も優秀であったことから首席で卒業をすることになった。
明日はその卒業式、毎年13月末に行われる卒業式にて首席で卒業した生徒には聖女として東夷の地まで宣教を個人で行える特権と名誉が付与される。私は幸運にもその名誉に預かられたのだ。
教会付属の寮舎は、静まり返っていた。明日の卒業式を控えてか、寮内の灯りも早めに消えていた。私は部屋で持ち物をまとめ終えると、最後に机の上に開かれた聖典へと視線を落とした。そこにはイャザッタの慈愛と裁き、そして信徒への導きが厳かに記されている。
「この素晴らしい教えを果たして広められるでしょうか……」
確かに聖典で語られている内容は素晴らしい。しかし、異文化というものに無頓着な描写が所々見られる。
(話し合えば良いのに……)
聖典の中でイャザッタの裁きとして不浄なる輩が大量に死ぬ場面が良く描写される。
信仰に疑問はない。だけども、私にそういった人たちへ聖典のような振る舞いが出来るかは不安があった。
「うん、大丈夫。私ならやれる……」
そう自分に言い聞かせ、ベッドに潜り込んだ。硬めの枕に頭を預け、目を閉じた途端、まぶたの裏に微かな影が揺れる。
(明日は卒業式だし、気疲れしたのかな……)
そう思い込むようにして寝ようとする。だが、意識が途切れる直前に確かにその声は聞こえたのである。
「所詮、どこまで行っても人間はわかり合えず、信用できないモノだ」
*
卒業式当日の朝、私はいつもより少しだけ早く目を覚ました。窓の外では柔らかな陽光が石造りの回廊を照らし、どこか神聖な雰囲気をまとっていた。ティカン教皇区での学び舎に別れを告げる日、それは私にとって、いや「アフラ・フォーグマ」にとって新たな使命の始まりでもあった。
着替えを済ませると、私は小さな鏡台の前に座り、ふと自分の瞳を見つめた。淡い碧色の瞳の奥に、どこかで見たことのある自分のものではない影が写っている様なきがして、私は思わず首を傾げる。
そう思って立ち上がると、胸の奥に小さなざわめきが走った。脈打つ鼓動が一瞬だけ不規則になった気がしたのだ。
卒業式は厳粛なものであった。ツァラス教の高位聖職者たちが見守る中、私は聖堂の中心へと歩み出た。白銀の聖衣を身にまとい、私は壇上に立つ。周囲の拍手の中、教皇代理が聖なる巻物を私の額へと掲げ、宣言した。
「本日をもって、アフラ・フォーグマを聖女として認める。イャザッタの名において、彼女は東夷の地へと旅立ち、我らの教えを広めるであろう。」
歓声の中、私は聖女として証を受け取り、静かに一礼した。
(あ、あれ……目眩が……)
壇上から降りる時、不意に目眩が私を襲った。聖女に任命され、使命も授かった。式典こそ終わってはいないもののメインの部分を過ぎ、緊張が解れたからだろうか。なんとか自分の席に戻り、堪えながら式典の締めの言葉に耳を傾ける。
(違う……。この感覚、前に……)
耐えきれず私は席から倒れた。そして、倒れる瞬間、どういう訳か思い出したのは前世で私が死んだ瞬間、殺した人物である明空 麻友の邪悪な笑みであった。
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