第5話 寂しいよ

 ―――さくらSide





 次の日の昼休み。


 本日は進路希望調査の締め切り日なのだが、委員長が風邪で休みだったので、代わりに私が出していない人の回収を先生に頼まれた。


 出してない最後の一人の分を回収しに、人気の少ない特別教室棟の更にその奥。


 今は使われておらず、立ち入り禁止になっている小さな旧校舎エリアに繋がる渡り廊下。

 その近くの小さな教室の前に立ち止まる。


 コンコンコン、とドアを叩く。返事が返ってきたので中に入った。


「諸星君、いる?」

「はい。……ああ、阿澄崎さんか」


 諸星君は少し怪訝な顔でこちらを見やる。

 先日の件で警戒されているのだろう。


「また結城さんの件? 言っとくけど、俺のスタンスは変わらないよ」

「そうじゃないの。進路希望のプリント、提出してないの諸星君だけだよ」


 忘れてた、と諸星君は頭をかきながら笑う。

 こういう表情を見ると、他の男子と変わらない。


「教室戻ったら、すぐに出すよ」

「昼休みの間に、先生に出さなきゃいけないから探してたの。大変だったんだよ? 諸星君どこにいるかわからないから、見かけた人に聞きだすの」

「そこまでして探さなくても。まぁ出さなかった俺が悪いんだけどさ」


 やれやれ仕方がないな、と諸星君は立ち上がり私のもとに来た。


「もう書いてはいるんだ。すぐに出すよ。教室に戻ろう」

「そうしてもらえると助かるよ。ありがとう」


 二人で空き教室を出て、我々のクラスに向かって歩き出す。


「この前はごめんね。その、余計なことしちゃって」

「いいさ。こちらこそ事故の時、嫌なものを見せた。人が轢かれるのなんて、見ていて気持ちのいいものじゃないだろうに」

「そんなこと気にしなくていいよ。諸星君は褒められるべきことをやったんだから。ただその……一つ聞いてもいい?」

「なにかな」

「どうしてそこまで人との関わりを嫌がるの?」


 諸星君の足がピタッと止まる。


 余計なことを聞いてしまったかな。


 諸星君は少し考えてから口を開いた。


「阿澄崎さんはさ。小学校の時、友達は多かった?」

「え? ……うん。みんなと仲良くしてたと思うけど」

「だろうね。でも、そのみんなとは、今でも付き合いがあるかい?」

「えーっと、特に仲のよかった何人かとは、連絡を取るくらいかな」

「でも、時間を重ねる内、頻度は減ってきてるんじゃないかな」

「うーん、確かに、そう、なの、かな?」


 言われてみれば、そんな気がする。

 最後に彼女達と連絡を取ったのは、いつだっただろうか。


「どんなに仲良くなったとしても、いずれその関係に終わりは来る。人との繋がりなんていつ、どこで、どんな形で終わるかなんてわからないんだ。最悪な終わり方をすることだってある。いずれにしろ結局終わるんだ。だったらいっそ、関係なんて作らなくてもいいじゃないか」


 そう言い放ち、諸星君は再び歩き出した。


 これが自分の考えだ、そんな気持ちを表すかのように、先程より速い足取りで歩みを進める。


 ……察するに、過去に何か嫌なことがあったのだろう。

 人間関係に疲れることが彼にあったのだろう。

 だから、人間関係を作らないようになった。

 

 でもその考え方はあまりにも……


「でも……それじゃあきっと寂しいよ。長くは続かないと思う」

「そうかもね。多分、その感覚は間違っていない」


 俯きながら自嘲する様な表情で、諸星君は続ける。


「でもね、そう感じない人もいるんだ。君が孤独を苦痛に感じるように、人との繋がりを苦に思う奴だっているのさ。だから、俺をわからなくたっていい。君も、結城さんも。俺のことは放っておいて、お互い自分にあった生き方をしようじゃないか」


 会話が終わり、教室までたどり着いた。


 諸星君が自分の机の中にあるファイルから、一枚のプリントを取り出して私に手渡す。


「はいこれ」


 渡されたプリントを見ると、希望する職業を書ける欄に警察官、消防士と書かれていた。


 優しそうな表情をする彼には、過酷でハードな仕事に就くようなイメージは湧かないが、結城さんの件を経て、命がけで誰かを守る彼に対して説得力のある進路にも見えた。


「……あまりじろじろと見られると、恥ずかしいんだけどな」


 諸星君は視線を逸らしながら頭をかいてみせる。

 愛想笑いを浮かべて私はごまかした。


「あはは、ごめんね。でも確かに受け取ったから」

「ああ、それじゃあ」


 そう言って、諸星君は昼食を摂る為に特別教室棟へ戻っていった。


 彼の一面を少し知ることができた私だが、これ以上できることは何もない。


 この情報を結城さんに渡すべきかと考えたが、また余計なお節介をしてしまうのではないかという葛藤に阻まれ、断念する。


 そんな煮え切らない感情を抱えながら、集めたプリントを先生へ渡しに職員室へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月3日 07:06
2026年1月3日 12:06
2026年1月3日 19:06

美少女姉妹を交通事故から救ったら懐かれてしまったが、孤独主義者の俺はぼっちを貫く【残り物への青春許可証】 クワガタ信者 @kuwagata315

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画