第2話 阿澄崎さくらは完璧である
――Sideさくら
「おはよー、さくら」
「おはよう、みなみ、髪型ちょっと変えた?」
「お、おはよう、阿澄崎さん!」
「おはよう、山田君。今日も朝練?」
「うぇー阿澄崎! 今日も激メロだぁっ!」
「あははは、ありがとう佐藤君」
完璧だ。
私、
容姿端麗。成績優秀。
誰からも尊ばれ、敬われ、頼られる人望。
聖人君子かのように振る舞われる所作。
おまけにこのプロポーション。すらっとした長い手足(当社比)に、くっきりと凹凸のある柔らかな肉体。
何とはあえて明言しないが、同年代と比較しても明らかに特盛のソレ。
誰からも当たり前のように愛される、完璧なスーパー女子高生。それが私なのである。
「今日もかわいいなぁ、阿澄崎さん」
「な、朝から見かけるだけで、俺は今日一日の眠気が吹っ飛ぶよ」
「今日も素敵だわぁ、阿澄崎さん」
ただ廊下を歩いているだけで、私の存在感は周囲の反応からにじみ出る。
ふふ。
ふふふふふふふふ。
ふはははははははははははは!!
そう! それよ! もっと頂戴! その称賛の声が、私の糧になる!
「おはようございます、阿澄崎さん」
「おはようございます、片岡先生。大きな荷物ですね。あ、手伝いましょうか?」
しかし、その自意識を表に出さない。態度にあらわさない。自分の完璧さをおごらない。
どんな人にも平等に接し、困っている人を助ける。
そうやって培ってきた信頼関係で敵を作らず、誰からも愛されるキャラクターを維持してきたのだ。
教師の手伝いを終え、今日も完璧な私のパーフェクトな一日が始まるのであった。
「阿澄崎さん、今ちょっといいかしら」
四時限目を終えた昼休み。
他クラスから、私のもとへ来訪者がやってくる。
私よりも少し身長が高く、私以上にすらりとしたプロポーションを持つ黒髪ロングの美少女。
「あ、結城さん! どうしたの?」
名は結城逢。
その少女は私以上に顔立ちが良く、文武両道な優等生。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花を体現したかのような儚げな外見。
ぶっちゃけ、関わり合う前は、少し対抗心も覚えていたまである。
実際、成績は学年一位であり、教師からの信頼も厚い。
おまけに男子からは高根の高根、そのまた高根の存在として、蝶のような花のような扱いを受けている。
完璧な私が、その実力を認め、危機感を抱かせるような逸材。
それが、この結城逢という少女である。
「ここだとその……人が多くて目立つから……場所を変えてもいいかしら」
「うん! もちろん大丈夫だよ。行こっか!」
教室を出る。彼女と廊下を歩いていると、周りからひそひそと話し声が聞こえる。
なにしろ学年、いや学校屈指の美少女として双璧をなす二人が、並んで一緒に歩いているのだ。
結城さんとは、学校ではあまり関わりがない。
そもそも、ある事件……というか事故によって関わることになる前は、お互い、全くと言っていいほど話す機会がなかったのだ。
その件が落ち着いたからといって、特別仲が良くなったわけではない。
時々、その後の経過を説明してもらうくらいだ。
人気の少ない特別教室棟の使われていない空き教室の一室を間借りさせてもらい、私たちは向かい合って席に着く。
お互い昼食の弁当を取り出して、食事をしながら本題に入った。
「それで、どういった用件なのかな? やっぱり諸星くんの件?」
「ええ、そのことなんだけど」
二か月前、クラスメイトが車にはねられた。
帰宅途中に偶然困っていた結城さんの荷物を拾い上げた矢先、彼女の妹が車に轢かれそうになったのを諸星君という少年がかばい、はねられた。
その現場に居合わせた私は、即座に救急車を呼び、結城さん達と共に病院へ向かった。
その後、諸星君が目を覚ますまで、彼女が足繁く通い続けることも、世話係を受け持ったことも知っている。
「どうしてかわからないのだけれど、私、諸星君に嫌われたみたいで……」
「へ?」
何をしでかしたのかは知らないが、これほどの美少女なら大抵のことでは男子に嫌われないだろう。
状況が全く解らないことには、手の打ちようがない。
「えっと、詳しく聞かせてくれる?」
「ええ。ええと――」
話はこうだ。
彼女が諸星君のお世話をすると告げた。
そのことに諸星君は驚き「そんなつもりで助けたのではない、そこまでしてもらうのは申し訳ない」と遠慮した。
しかし、結城さんがどこまでも食い下がった結果、諸星君は根負けし、少しの間だけ世話になるという話になった。
その後、甲斐甲斐しく世話をし、しばらくはうまくやっていたのだが、いつからか遠回しにそんな関係を終わらせたいかのような態度を取られるようになったそうだ。
最終的には――
『もう、ここには来なくていい。いい加減俺に構うのはやめてくれ。俺に恩を感じてくれているのはわかるが、俺の為を思うのならもう来ないでほしい。正直、いい迷惑なんだ』
と言い放たれてしまった、とのこと。
結城さんもそこまで言われてしまったら、無理に通うことはできなくなり、それきり諸星君とは会えていないらしい。
「ひどいね。散々お世話してもらいながら、用が済んだら突き放すようなこと言うなんて」
「でも、元々私が無理を言った、というのもあるわ……もしかしたら、私が何か諸星君の気を損ねるようなことをしてしまったのかもしれないし……」
「優しいんだね結城さん。…だとしても、なんだろう、こう、言い方ってものがあると思うなぁ」
私のフォローも虚しく、しゅんと体を小さくするように落ち込む結城さん。
うーん、悔しいけどやっぱ可愛いのよねこの子。
認めたくはないけど、私よりほんのちょっぴり。
「うーん、諸星君ねぇ……」
諸星仁海、クラスメイトの男子だ。
目元まで伸ばした前髪の奥には、いつもニコニコと柔和な笑みを浮かべていた記憶がある。
同年代の男子と比べると、随分大人びてるように見えた。
人当たりもよく、頼まれたことに対して嫌な顔せずに承る。
教師からの信頼は厚いが、友達と楽しく過ごしているところは、あまり見たことがない。
孤立しているとまではいかないが、恵まれた友人関係は築けていないように見える。
私も何度か話したことはあるが、事務的なことがほとんどで、大して会話をした記憶がない。
とはいえ、性格が悪いタイプには見えないので、いまいち彼の言動には違和感があった。
――そう、私は彼に違和感を覚えている。
「話は分かったよ。それで、結城さんはどうしたいのかな。結城さんは筋を通してると思うし、誠心誠意やれることをやったのなら、もう義理は果たしているんじゃないかな? 責任とかは相手の運転手が取るだろうし、これ以上何かをする必要はないと思うけど……」
「それでも……私は……できることなら、もう一度ちゃんと会って話がしたいわ。もし、私に至らないことがあったのなら、諸星君を傷つけてしまうことをしてしまったのなら、謝りたい。私にとって諸星君は大切な妹を救ってくれた人なの。こんな終わり方で疎遠になんてなりたくないわ」
結城さんは、先ほどの様子とは打って変わって、決意と覚悟を秘めた表情をしていた。
「そっか……そうだよね」
まっすぐな子だ。もし、私が彼女の立場なら、同じように立ち向かうことができただろうか。
私なりに誰からも愛されるように振る舞ってきたし、誰かに嫌われるようなヘマはしないように立ち回ってきた。
それでも私のことを嫌う人間が出てきたとしたら、私はきっと深く関ろうとはしないだろう。
もちろん、嫌われたからと言って他の人と違うような態度を取るつもりはない。
ただ、適当に愛想笑いをしてその場をしのぎ、不必要に関わることはしないだろう。
「でもどうすればいいかわからないの……このまま話しかけていいものかって……また同じように突き放されて終わりなんじゃないかって……」
「……よし! わかった。私に任せて!」
我ながら、お人よし根性ここに極まれりね。
だけど構わない。
困っている人を見過ごせない、そんな私が好き。
そういう生き方を選んで、ここまで来たのだから。
「今日、帰りにでも諸星君のお見舞いに行ってみる。まずは、私から話をしてみるよ」
「確か数日前に退院してるはずよ。多分、今週中には登校してくると思うわ」
「あ、そうなんだ。じゃあ学校に来てから二人で話してみよう」
「ごめんなさい、私のわがままに付き合わせてしまって」
「ううん、なんもだよ! 私だってあの場に居合わせていたんだし、諸星くんのこともちょっと心配だからね!」
こうして、私は結城逢と諸星仁海の仲介を務めることになった。
やれやれ。なんだか複雑そうでめんどくさそうだけど、仲違いしてる人達の仲裁なんて今に始まった事でもない。
いつも通り、うまいこと事を収めてあげる。
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