催眠アプリを、使われる方。
衣太@第37回ファンタジア大賞ほか
第1話
「……おかしい」
最近、俺の様子がおかしい。いやここは普通だれそれの様子がおかしいとか、ヒロインとか幼馴染とか、そういうのを当てはめるべきだと思う。
でも違う。おかしいのは俺なのだ。俺がおかしいんだ。だって――
「なぁ葛木、昨日どこ行ってたんだ?」
今朝登校してすぐ、後ろの席の柏田にそう聞かれた。
「昨日? ……いや、家帰ってゲームして寝ただけだけど」
「ライトライン乗ってたじゃん」
「ライトライン? ……俺が?」
「え、うん」
柏田の言うライトラインというのは、市内を走ってる路面電車だ。
元は大して需要がないであろうと鳴り物入りで運行が開始された路面電車は、今やサラリーマンや学生の足だけでなく、駅に行くとかスーパーに行くとか飲み会といった日常使いまでされている、住民の重要な足の一つとなっている。
――とはいえ、俺がそれに乗ることはない。金がかかるからだ。
男子高校生たるもの、自転車一つで県くらい超えてみせるものだ。
「いやチャリ通だし……」
「だから聞いてんだって。記憶喪失か?」
「喪失してねーよ。人違いだろ」
「いや間違えねーだろそのタッパはよ……」
「…………人違いだろ、マジで」
俺を見上げるようにして、柏田は溜息を吐く。
柏田が机にもたれるようにしているというのもあるが、普通はここまで視線が上に向くことはない。だが、俺の身長が189cmあれば別の話だ。
「マジで覚えてない?」
「……ゲームしてた時の記憶は正直全然ねーけど、夢遊病になったつもりは、ない」
「じゃあマジで見間違いだったのかなぁ……」
なんて、会話は終わる。
――だが、異変はそれだけでは終わらなかった。
「葛木くん、昨日何してたの?」
昼飯を買いに売店に向かう道すがら、クラスの女子――権藤に話しかけられる。
「またそれか。ゲームしてただけだよ」
流石に本日2度目となると飽きる。俺のそっくりさんは、一体どこで何をしてたんだ?
「ゲーム? ……オリオン通りで、会長と?」
権藤は、俺が何を言ってるかも分からないといった顔で首を傾げる。
会長? 会長というのは、恐らくこの学校の生徒会長、野間みどり先輩のことだろう。俺は生徒会書記なので、そりゃ面識はある。
とはいえ、漫画とかの生徒会のように強権を持ってるわけでもないし、学校の自治をしてるわけでもない。選挙で選ばれるのは会長一人だけで、会長が残りの役員を全部任命するシステムだし、やってることは学校行事の進行とか、部活動の取りまとめくらい。つまるとこ、生徒会の仕事とは先生がやるほどでもない雑用だ。
「いや会長とゲームしたこととかないけど……、何の話だ?」
「え、会長と買い物に行ってたとかじゃないの?」
「行ってない。行ったことない」
「……うーん?」
権藤が何か言いたそうな顔をするが、しかし「まぁいっか」と頷くと離れて行った。
「……なんなんだ、マジで」
答えが分かったのは、もうしばらく後のこと。
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