まどろみの中で…

@yukingking

第1話

ぼんやりと目が覚める。

と言っても目は開かない。意識だけが目覚めてる。そしてこの状況を改めて確認する。


「あっ…私、まだ手術中だわ」


私はステージ2の乳ガンだ。

右乳房の皮膚は残し中身の乳腺組織を全摘後、背中の筋肉と脂肪を使って乳房を再建する。乳房のボリューム感を出すために太ももの脂肪吸引&注入も行った。


意識が目覚めたのは太ももの脂肪吸引中だ。

9時間に及ぶ手術の中盤戦だった。


まずは声が聞こえて来た。何だかとても賑やかだ。誰かが勢いよく指示を出す。それに誰かが応える。

最初、活気のあるレストランの厨房の夢をみてるのかと思ったがどうやら違う。

聞き慣れた声。執刀医の形成外科医の声だ。


何を話しているかは思い出せないがかなり現場は真剣で緊張感溢れている印象だ。


次に左内太ももに感覚が走る。

痛みは無いが、内ももの皮膚の中を上下にガシガシと何かで脂肪をかき出されてる感覚だ。

下半身がっちり体型の私。脂肪は売るほどある。行け行け!もっと脂肪かき出してくれ!と形成外科医を応援してみる。


私の下半身の脂肪がガシガシとかき出されてる間に、ふと興味が湧く。


「私、この状況で指動かせるのかな…?」


急に自分の意思で左手の指を動かせるのか試したくなった。


まさに麻酔vs意識。


ここから私の意識は左手に全集中だ。

目は開かないが目線は左手指先を見つめている。普段の調子で動かそうとするが指は動かない。目も開けられない。


何だか悔しい…こうなったら何が何でも指動かしてやる!と変な闘争心が湧く。


遠くからアプローチしようと意識を左肩へ向けてみる。段々と意識が皮膚から筋肉、そして肩の骨の奥に向いていく。骨をゆっくりと辿って左指に向けて意識を少しずつ移動していく。


下半身は外科医達がガシガシ脂肪吸引をしている最中、手術室で私ただ1人、左手指に全集中。今思えば何ともカオスな光景だ。


動かせそうな気がする。意識は左手指先にまで到達してる。手応えはあるんだけど…あと少し!いや…これもう動いてるんじゃないか??動いてるんじゃ……


………京野さん!聞こえますか?


目が覚めた。どうやら途中でまた意識を失ったらしい。手術台では無くベッドの上にいた。手術が終わったようだ。


「病室に移動しますね」


私を乗せたベッドは私が入院している病室へ主治医、看護師と共に移動を始めた。


移動中のベッドの中で私の左手の指は勝ち誇ったようにピクピクと動いていた。

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