俺にだけ無意識えちおねムーブしてくるハーフアップおっとり美人家庭教師(♂)との超ド健全授業:妹が隣の部屋にいるのに……
貴葵 音々子🌸カクヨムコン10短編賞
第1話
~めちゃくちゃ雑な導入~
このお話は健全な高校一年生男子の白井マシロくんがハーフアップおっとり美人家庭教師(♂)であるアオイお兄さんの無意識えちおねムーブに翻弄される超ド健全ラブコメライトBLである――!
前話はこちら。
①https://kakuyomu.jp/works/822139840594329398
◆◇◆
「アオイさん、ここの問題って……」
「んー? どれどれ……」
ローテーブルに広げた問題集とにらめっこしていた俺の右肩に、ふわりとしたものが当たる。アオイさんが羽織ったもこもこ素材のカーディガンだ。リユースショップで安売りしてたらしく、たぶん男女兼用のやつ。うっすらピンクがかったブラウンの甘い色味が、おっとりしたアオイさんにすごく似合っている。割れちゃいそうなほど薄い肩からずり落ちそうになってるのもあざとい。勘弁してくれ。
アオイさんって、前世はふわふわな生き物だったんじゃないかな。この前テレビで特集されてたアンゴラウサギみたいな。
そんなアホな思考回路に陥るくらい、俺の脳は焼き切れる寸前だった。
ベッドと机を置いたらソファなんて置けないくらい狭い部屋だ。自然と身体的距離は近くなる。
俺がつまずいた問題を覗き込むのに、前世アンゴラウサギな(決定事項)ふわふわアオイさんがぎゅっと身を寄せた。クッションの上であぐらをかいた足に彼の膝が当たって、耳元にはくせ毛の明るいふわふわハーフアップがふわふわしてくる。おかしい、アオイさんは成人済みの男子大学生のはずなのに。冬の女子高生だってこんなにふわふわしてないぞ。
「あー、これはね、一個前にやった数式を応用するんだよ。たしか教科書だと……」
問題集から少し離れた場所に広げられた教科書へ手を伸ばそうと、アオイさんが俺に密着したまま身を乗り出す。
すると伸ばした方の肩から、とうとうもこもこカーディガンがずり落ちてしまった。オーバーサイズ気味なせいでガードの緩いボーダーシャツの首元から、浮いた鎖骨ががっつり見える。なんなら角度的に腕の付け根まで見えそうだ。ヤバい。ガン見してる俺の視線に気づかないのもヤバい。この調子で普通に電車とか乗って生活してるんだよなこの人。ヤバいでしょ。こんな無防備な人がその辺を歩いてるとかまずいよ。世の中がおかしなことになっちゃうよ!
「ほら、ここのページの――」
「アオイさん」
「? どうかした、マシロくん?」
高校生になってからぐんと身長が伸びて一八〇センチ近くなった俺よりも小柄なアオイさん。
至近距離密着+上目遣い+小首かしげのコンボで理性をボコ殴ってくる獰猛なアンゴラウサギに、俺は怖気づきそうになってしまう。
だけど負けない。あぐらをかいていた足を正座に変えて、きゅるんと不思議そうな顔をしたアオイさんに向き直った。
「――失礼します!」
「わぁっ!?」
カッと目を見開いて、ものすごい速さでもこもこカーディガンのボタンを残らず閉めていく。ボタン閉め世界選手権があったら入賞できそうなスピードだ。外すのはありそうだけど、閉めるのってあるのか……?
「えっ、え……? マシロくん……?」
「ふぅ、これでよしっ!」
あっという間に首元まできっちりボタンが締まった。困惑気味なアオイさんをよそに、俺は達成感でいっぱいだ。これで世の中の平穏と秩序は保たれた!
そんなことをしていたら、カーペットに放っていたアオイさんのスマホからアラームが鳴った。壁掛けの時計を見ると、針は二十一時を指している。
「今日はここまでだね。お疲れさま」
「はい、ありがとうございました!」
勉強はそんなに好きじゃないけど、アオイさんといると時間が経つのが早い。
少し名残惜しい気持ちになりながら、俺は筆記用具を片付け始める。
アオイさん、今日はアレ、やらないのかな。
ちらりと送った視線に気づいたアオイさんが嫋やかに目を細める。全てを見透かしてるみたいな微笑みだ。俺が期待しているのなんて、とっくにバレている。
「マシロくん、僕に何か言いたいことあるんじゃない?」
「えっと、その……今日もまた、いいですか……?」
「ふふっ。マシロくんってば、さてはハマっちゃったんだね?」
少し意地の悪い感じで言われて、俺はカッと頬が熱くなった。図星だからだ。勉強終わりにアオイさんとする遊びにすっかり魅了されてしまっている。
「真っ赤になっちゃって、ほんとかわいー……。ん~、でも今日はモモカちゃんがいるでしょ? 勉強の邪魔したら悪いし……」
焦らされてる。表面上困ったように言ってるけど、絶対にそう。俺にねだらせたいんだ、この人。
でもアオイさんが言うように、塾が休みの妹はまだ隣の部屋で勉強している時間だ。高校受験の追い込みをしているモモカがそばにいるのにアレをするのは、たしかにちょっと気が引ける。
それでも、アオイさんとする行為には抗いがたい魅力があった。
「アオイさんが大きい声を出さなきゃ大丈夫ですよ」
「いつも声出すのはマシロくんなのに」
「~~っ、我慢するから! 一回だけ! ね、お願い!」
顔の前で手のひらをパンッと合わせて懇願する。
あまりに必死すぎたのか、アオイさんはクスクスと小さく笑って肩を震わせると、自分のトートバッグを引き寄せた。
「実は僕もね、マシロくんがシたいだろうなと思って、ちゃんと準備してきたんだよ」
バッグの中から目的の物を取り出して妖艶に微笑むアオイさん。
なんだよ、そっちだって最初からその気だったんじゃん。
俺も高まる期待でくらくらしながらベッドに移動して、準備を始める。
「一回で終われたらいいね」
挑発するように言われて、俺は生唾を飲み込んだ。
終われる自信は、正直ない。
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