【急募】サンタ役代行のアルバイト

板垣鳳音

第1話 12月24日

 学生という立場の者は、少なからず金欠な人が多い。

 自分自身、大学が冬休みに入ったら、ただひたすらにアルバイトをして、お金を稼ぎたいと考えていた。スキー場のアルバイトは楽しそう、だとか、年末年始のホテルのアルバイトなんかもいいなと、毎日求人サイトを眺める日々だった。

 大学が冬休みに入る直前、いつものように良いアルバイトがないか探していると、ふと、SNSでこんなアルバイトが目に留まった。



【急募】サンタ役代行のアルバイト

・一晩のみ/高額/単発

・子ども対応なし

・指示厳守

・応募対象者は男性のみ

・指定されたルートをまわり、プレゼントを届けるだけの簡単な仕事!



 「なんだこれは。」

 とても怪しいアルバイト。近頃ニュースでよく耳にする、闇バイトの文字が頭をかすめる。しかし、どうしても、その魅力的な高時給に、今後の話のネタになりそうなアルバイト内容が興味を駆り立て、気がついたらすでに応募が完了していた。

 その日の夜には応募した相手からの連絡が入り、面接もなしに即採用が決定していた。事前説明はなく、二十四日午後二十二時には添付した所定の場所に来てほしいという内容のメールと、添付ファイルには、地図が書かれており、その中のとある公園に赤丸で印がつけられていた。


 当日、予定より早く公園へ向かう。指定された公園は、この地域にある公園の中でも規模が大きく、遊具も豊富にある。日中には、学校帰りの子供たち、散歩をする高齢者や、ベビーカーを押して歩く人でにぎわっている。

 雪は降っていないが、吐く息がとてつもなく白く、肌寒い夜であった。

 公園入口に着くと、中年の男性が大きめの白い紙袋を持って立っていた。公園へゆっくりと歩みを進めると、その男性がこちらに気がついて話しかけてきた。

 「サンタの代行のアルバイトの人かな?」

 「そうです。」

 俺が肯定すると、男性は手に持っていた紙袋を手渡してきた。中には、新品のサンタ服、複数のプレゼント袋、届け先の住所と苗字が書かれたリスト。

 男性は続けて注意事項を告げる。一つ、届け先住所の自宅へ着いたら、インターホンを鳴らさずに玄関に入ること、二つ、プレゼントは必ず「苗字を呼んでから」渡すこと。三つ、袋の中身を見ないこと。四つ、家の中に入らないこと。

 俺はひと通り注意事項を了承し、男性と別れると、公園のトイレで受け取ったサンタ服に着替え、配達をはじめた。


 届け先住所に書いてある家をまわりはじめると、どの家にも不気味な共通点があった。それは、玄関先に椅子が一脚置かれており、その椅子に子ども型の人形が座っている。

 俺は、玄関に入ると、家の奥から人が出てきた。人形の前で苗字を呼び、プレゼントを渡す。プレゼントを受け取った人は、小さく「ありがとうございます」と言い、また静かに家の奥へと戻っていった。

 誰も、プレゼントの中身を聞いたり見たりして確認することもなく、届けて喜ぶ様子もない。どの家でも、すべての行為が異様なほど形式的に行われているようだった。

 どの家にも置いてある人形は一体一体、妙にリアルで、目はガラスのような素材でできていたが、どことなく泣いて、濡れているように見える。

 人形はすべて、サイズも顔立ちもバラバラなのに、どれも今にも動き出しそうな姿勢をしている。

 最後の家へのプレゼントの配達を終えて、その場でアルバイトは終了となった。時刻を確認すると、もうすぐ日付が変わりそうであった。俺は、真夜中にサンタクロースの格好をして徘徊していたことが急に恥ずかしく思えてきて、急いで帰路に就く。

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