きっと、嘘つきへの代償なのだろう

海老衣揚

エピローグ

 好きな人ができた。

 冴えない男というレッテルを掲げて、この人生を歩んできた。そこに不満はない。それは自分が一番理解している。現実なのだからと逃避して。服屋さんの姿見を前にしてぼやいていた。

 

 なぜそんな冴えない男が服屋さんにいるのかというと・・彼女の付き添い、そんな訳はない。妹の荷物持ちだ。対のいい付き人のように、こき使われている。ただそう思っているのは僕だけで妹は楽しそうに服を品定めしている。休日に兄を連れ出していることへの罪悪感などなく純粋にショッピングを謳歌している。


 顔立ちはそこそこ悪くないが身だしなみに気を遣わない僕は無精髭を生やし、髪もボサボサで肩ぐらいまで伸びている。対して妹はとても気を遣っており前述、述べたように顔立ちも悪くないのでたまに街でスカウトされるくらいだ。なので並んで歩く僕は肩身狭く、視線が痛いので正直苦手だ。だが、今でも兄妹で一緒にいるのは妹が今も昔も僕のことを慕ってくれているからだ。その点は内心、悪い気がしなく兄として嬉しいものだ。


 兄妹で買い物を楽しく謳歌していると店内に今流行りのアイドルの歌が流れ出した。


 「お兄ちゃんこの曲知ってる?」


 「・・・知らない」


 当然知る由もない。流行りなど僕からは最も縁遠いものなのだから。


 「えー、ほんとに?この曲学校でもみんな聴い

  てて今話題なんだよ」


 「高校生にだろ。おじさんには付いてけないに

  決まってるだろ」


 自分をおじさん扱いする。言っても二十三歳なので世間的にはそこまでおじさんではない。


 「お兄ちゃん、私とそこまで変わらないじゃん

  まだまだ遊び盛りのくせに」


 「高校生と比べられてもなぁ。あと遊び盛りっ

  ってそんな言葉どこで覚えたんだよ」


 食ってかかるように否定した。それに対して妹は少し俯き肩を落とした。その様子にびっくりして慌てて訂正しようとした。その様子に「ぷっ」っと妹が笑い出しからかわれていることに気づく。そんな意地悪な一面もある妹にいつも振り回される。だがそれが楽しく、かけがえのないものだ。僕はそれをこれからも守っていく。もう僕たちしかいないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

きっと、嘘つきへの代償なのだろう 海老衣揚 @430-515

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る