人戦凶人

沢田美

第0話 記憶を失くした天涯孤独の少年

「凶人(きょうじん)」――その言葉が社会の空気を変えた起点は、意外にも、都市部の産婦人科の明るすぎる照明の下だった。


「おめでとうございます、元気な男の子ですよ――」


 助産師の声が、途中で凍りついた。

 生まれ落ちた赤ん坊の片目は、黒いインクで塗り潰されたように光を返さない。首元には、誰かに強く締め上げられた痕のような痣(あざ)。

 母親は我が子を抱こうと手を伸ばした。だが医師は、無言でその手を制する。


「……すぐに検査が必要です」


 医師の声は、“おめでとう”を回収するように低く沈んでいた。


 それは医療記録なら「皮膚所見」で片付けられるはずの異常だったが、人々は所見ではなく”意味”を見たがる。

 メディアはセンセーショナルな映像と言葉で飾り立て、連日、視聴率のために「不吉」を量産した。


 原因は先天的――学界は慎重に、そう結論づけた。だが結論は、安心を供給するために消費される。世界各地で似た変異が確認されると、人々は理屈の前に恐怖で走り、病院へ押し寄せ、救急車のサイレンが街の音階になった。


 変異が起きなかった側は、変異した側を「呪われた人間」と呼び始める。

 通称――凶人(きょうじん)。

 呼称が生まれた瞬間から、差別は制度より速く拡散した。恐怖は迫害を生み、迫害は”正当化の言葉”を必要とする。言葉が整うと、暴力は日常に馴染む。


 やがて研究が、凶人の身体能力が人間を凌駕する可能性を示した。

 その瞬間、世界の権力者は恐怖を”脅威管理”へと置き換える。各国は凶人収容区を建設し、反抗を未然に抑止する対抗組織として「GIQ」を創設した。人道、治安、研究――名目はいくらでも用意できる。重要なのは、管理可能な枠へ押し込めることだった。


 こうして突然変異を起こした人々は収監され、コンクリートの壁の内側で、ひっそりと暮らしている――はずだった。


 ※ ※ ※


 ある凶人収容区。

 豪雨の夜、警報が街の骨にまで響くような音量で鳴り渡った。雨は地面を叩くのではなく、上から殴りつけるように降っていた。視界は薄い水膜を通して歪み、照明は滲んで伸びる。


「おい! 脱獄者が出たぞ! 直ちに見つけろ! こちらに危害を加えそうなら射殺して構わない!」


 管理長の号令は、職員たちの判断を”個人の責任”から解放する呪文だった。誰かが叫べば、誰かが銃を取り、誰かが安全の名の下に引き金へ指を置く。捜索は組織の手順として起動し、豪雨の中に人影が散っていく。


「いたぞ! あそこのコンクリートの壁を登ってる!」


 叫びと同時に、銃口が一斉に上を向いた。雨に濡れた壁をよじ登る影――小さすぎる。子どもの背中だ。滑りやすい壁に爪がかかり、腕が震え、靴底が空を蹴る。


「カイト! 逃げなさい! ここは母さんが時間を稼ぐから!」


 母の声は雨に削られても、芯だけは折れなかった。

 カイトは振り返る――濡れた髪が顔に張りつき、視界が滲む。母の姿が雨幕の向こうで揺れている。

 逃げなきゃいけない。分かってる。

 でも、足が動かない。

 母さんを置いていくなんて――


「行きなさい、カイト!」


 母は、振り返りを許さない目で頷き、壁の外へ行けと命じる。命令ではない。祈りに近い強制だ。

 カイトの喉が熱くなる。叫びたい言葉が喉に詰まって、代わりに呼吸が荒くなった。


「今すぐ子どもを下ろして伏せろ! さもないと撃つぞ!」


 職員の怒鳴り声は、濡れた空気を震わせた。銃口の黒い穴が、カイトの体温を吸い込むように見える。母は迷わなかった。距離を詰め、体当たりで職員の体勢を崩す。


「伏せろと言っただろうが!」


 金属と骨がぶつかる鈍い音。銃把が母の背中へ叩き込まれ、呼吸が一瞬止まる。


「ガハッ……!」


「母さん!」


 カイトが戻ろうとする。だが母は、痛みを噛み砕いて立ち上がった。雨が髪を張りつけ、顔の輪郭を際立たせる。濡れた瞳の光だけが、まだ生きている。


「……私は……カイトを守る! あの子は、凶人の希望だから!」


 その言葉が引き金を引かせた。

 乾いた発砲音が豪雨を切り裂く。弾丸が母の胸を貫き、体がわずかに浮く。次の瞬間、血が温度を持ったまま雨に溶け、赤い筋になって流れた。


「母さん!」


 カイトが駆け寄ろうとするのを、母は必死に制した。手を伸ばす。届かない距離のはずなのに、その眼差しは確かにカイトの肩を掴んでいた。


「カイト……来ちゃ……ダメ……安心して……だから……行きなさい……早……く……」


 命の速度が落ちていく。言葉が欠け、息が薄くなる。カイトは喉が焼けるほど叫びたいのに、声が出ない。


「こうしてテメェら化け物が生きてられるのも全部俺たち人間のお陰だ! それが分からねぇ凶人は、とっとと死んでろ!」


 職員の罵声は、母の体温を「異物」にするための手続きだった。二発目のために、指がまた引き金へ圧をかける。


「……凶化(きょうか)」


 母が掠れ声で呟いた瞬間、空気が変わった。

 熱が、皮膚の内側から噴き上がる。雨粒が触れた途端に蒸発し、白い湯気が渦を巻いた。


「……母さん?」


 カイトの声は、祈りだった。

 頼むから、そうじゃないって言ってくれ――


 だが、噴煙の奥から現れたのは、赤黒い体を持つ化け物だった。

 人の輪郭を残したまま、必要なものだけを捨てた形。背中が盛り上がり、骨の配置が変わったのが分かる。裂けた口から白い煙を吐き、目が”何か”を探すように左右へ揺れた。


 カイトの全身から、血の気が引く。

 あれは――母さんじゃない。

 でも、母さんだ。


「ま、まさか……! 疑神(ぎしん)になりやがった!」


 疑神は人間の言葉を理解しない。ただ、視界に入った存在を脅威として処理する。職員が後ずさり、銃口が震える。


「く、来るな……来るんじゃねぇ!」


 恐怖は判断を粗くする。職員は引き金を連打した。銃声が連なり、銃口から火花が飛ぶ。だが弾丸は、疑神の体へ触れた瞬間、吸い込まれるように取り込まれていく。肉が弾くのではない。“回収”される。


 次の瞬間。

 疑神は体内を巡らせた鉛玉を、逆に吐き出すように撃ち返した。吐息と同時に、硬いものが雨を裂いて飛ぶ音。


 発射された弾は職員の体を蜂の巣にし、男は雨の中へ崩れ落ちた。倒れるとき、膝が地面に触れる音だけが妙に生々しい。


「母さんも――早く!」


 壁を登り切ったカイトが叫ぶ。

 疑神はゆっくりとこちらへ振り向き、裂けた口をニヤリと歪めた。そこに母の意思が残っているのか、ただの反射なのか、判別できない不気味さがある。


「母……さん?」


 その呼びかけは、雨に飲まれた。

 疑神化で理性を失ったのか。周囲へ集まった職員たちを一掃した疑神は、そのままカイトへ襲いかかる。


 速度が違う。風圧で雨が散り、尻尾が鞭のようにしなり、カイトの体を壁の外側へ叩き飛ばした。


 数メートルの高さ。

 カイトは落下し、コンクリートへ頭を強く打つ。衝撃は音より先に視界をひっくり返す。世界が白く反転し、次いで暗転した。


 疑神は舞い降り、息子へ爪を振り下ろそうとする。

 その時――


 剣が疑神の胸部を貫いた。


 刃が入った感触が、雨に濁らず伝わるほど、動きは正確だった。次の瞬間、疑神の巨体は縦に真っ二つへ裂かれる。血と臓物が飛び散り、豪雨がそれを押し流す。疑神は、倒れるというより”解体されて地面へ落ちた”。


「キミィ、大丈夫?」


 黒服の軍服を着た女が、気絶したカイトの頬をチョンチョンと突く。能天気な所作に見えるのに、周囲への警戒だけは一切抜けていない。視線の動きが早い。


 刺激で意識が浮上し、カイトはゆっくりと目を開けた。天井ではない。雨の幕が、ぼやけた光を揺らしている。


「ここは……? あなたたちは……?」


「お、起きた! おはよ! 私たちはGIQ隊員だよ! 君、お父さんとかお母さんはいないの?」


 豪雨の中、女はカイトを傘へ入れる。傘の内側は小さな避難所みたいに静かで、雨音が少しだけ丸くなる。

 彼女の背後には、男と女が一人ずつ立っていた。どちらも濡れているのに、姿勢が崩れていない。訓練された”現場の人間”の立ち方だ。


「お父さん……? お母さん……? ……何も、思い出せない……」


 言葉にした瞬間、胸の奥が空洞になる。名前はカイト。それだけが硬い石のように残り、周囲は砂になって崩れていく。


「お、こりゃ、記憶喪失ってやつか?」


 男の声は軽い。しかし軽さは、現場で壊れないための装甲にもなる。


 隣の女がカイトへ近づき、容態を見て顔色を変えた。


「てか、それより――この子、頭から血出てるじゃん! 早く病院に連れていかないと!」


「ホンマや! イノリ、車出して! この子、GIQ病院に連れていくよ! 葛城もついて来て!」


「あいよー」


 短いやり取りで意思決定が終わる。救急対応のプロトコルが身体に染みている。カイトはそれを理解するより早く、担がれ、視界が揺れ、雨の匂いが遠のいていった。


 ※ ※ ※


 カイトはGIQが運営する病院へ運ばれ、応急処置と検査を受けた後、病室へ入れられた。

 消毒液の匂いは、雨の匂いよりも乾いている。白い壁、規則的な照明、機械の電子音。世界は”安全”の形に整えられていた。


「……」


 ベッドの上で、カイトは戸惑いの表情のまま天井を見つめていた。頭の奥が鈍く痛む。記憶を探ろうとすると、手を入れた瞬間に崩れる砂山みたいに、掴めるものがない。


 そこへ扉が開き、あの三人が入ってくる。

 先頭の女は、雪のように白い髪。病院の白よりもさらに白い。それが不自然なくらい似合っている。瞳は青い結晶みたいに澄んでいて、見つめられると、自分の内側まで検査されそうな錯覚がした。


「少年、君の名前は?」


「……カイト。それしか思い出せない」


 自分で言って、自分の名が”仮のラベル”みたいに浮く感覚がある。

 他には? 家族は? 住んでた場所は?

 何も出てこない。頭の奥が、空っぽの箱みたいに音を返す。


 ノアの青い瞳が、じっとカイトを見つめている。

 優しいのか、値踏みしてるのか――分からない。

 カイトは視線を逸らし、自分の手を見た。小さな傷がある。いつできたのか、思い出せない。


「そっか。私はノア。青山ノア! 後ろの二人は、女の子の方が神谷イノリちゃん。で、もう一人は――……誰だっけ?」


「隊長、ひっぱたきますよ」


 淡々とした声。温度が低いのではなく、揺れない。揺れない人間は怖い。


「あ、そうだったそうだった!」


「葛城(かつらぎ)です。次、間違えたら尻ひっぱたきますからね」


「……ごめんちゃい!」


 ノアの謝り方はふざけているのに、空気の芯だけは締まっている。葛城の露骨な苛立ちは、逆に”この場に安全な余裕がある”証明にも見えた。カイトは笑うでもなく、ただ、現実の輪郭を確かめるように瞬きをする。


「さて、自己紹介も終えたし――本題に移ろっかな!」


「本題?」


 カイトが首を傾げると、ノアはニシシと笑った。笑い方が子どもっぽい。なのに目だけは、組織の人間の目だ。


「簡単に言うね。GIQの権限で、君とご両親の身元照会をしたんだ。でも、君の戸籍情報が見つからなかった。……つまり、身寄りが確認できない」


 “確認できない”という言い方が、妙に冷たい。確認できないものは、制度の外に落ちる。


 ノアは言い切って、ドヤ顔でカイトを指さした。

 カイトは「はぁ……」と曖昧に頷くしかない。理解ではなく、受け入れのための相槌だ。


「そ・こ・で! 今日から君は、私の部隊預かり! パチパチパチ!」


「……部隊預かり?」


 言葉の意味が、喉に引っかかる。預かり――保護なのか、管理なのか、あるいはその両方なのか。


 カイトが困惑していると、イノリがすかさずノアへツッコミを入れた。


「ほらノア! いきなり言っても戸惑うだけでしょ! もうちょっと、ちゃんと説明してよ!」


「いいのいいの。長ったるい話しても、カイトが飽きるだけでしょ?」


「隊長がまた意味わかんないこと言ってる……。ねぇ葛城、なんとか言ってよ」


 イノリが助けを求めるが、葛城はそっぽを向いて無視した。その無視は”役割分担”に見えた。説明する者と、説明しない者。味方のフリをする者と、距離を置く者。組織は、こういうバランスで回る。


「ということで! 明日からリハビリがあると思うけど、頑張ってね! 終わったらまた会いに来るよ」


 ノアは笑顔で言い、イノリと葛城を連れて病室を出ていった。

 扉が閉まると、病室の静けさが濃くなる。機械音が耳につき、白い壁が”逃げ場のなさ”を強調した。


 一人になったカイトは、自分の手を見つめる。

 指先に小さな傷がある。いつできたものか分からない。分からないことばかりが増えていく。

 失った過去を掘り起こそうとするが、思考の奥は砂嵐みたいにざらついて、何ひとつ掴めない。


 ――何をしても無駄だ。

 そう悟った瞬間、涙が出そうになる。だが涙は、出るための理由すら見つけられず、喉の奥で止まった。


 カイトはふかふかのベッドと枕に身を沈め、そのまま眠りに落ちた。


 ※ ※ ※


 国会議事堂。

 空調の効いた廊下は、雨の夜とは別世界だ。声は反響し、足音は規則正しく整列する。秩序は音としても示される。


 ある男が動き出す。名は美咲(みさき)タシキ。国会議員だ。

 彼は演壇に立ち、議場の空気を読まない勇気を、意志として声に変えた。


「今やこの世界には絶え間ない差別が存在する! それは凶人への差別問題です! 私はこの差別を無くすため、『凶人保護法』を作りたいと思っている!」


 タシキの声は、議場に響いた。

 だが返ってきたのは、怒号だった。


「バカ言ってるんじゃねぇぞ!」

「そうだそうだ! 今の人間と凶人の均衡が、せっかく保たれてるのに! なぜそれを崩そうとする!」


 均衡――その言葉を聞くたび、タシキは胸が締め付けられる。

 あれは均衡なんかじゃない。ただの、一方的な支配だ。

 壁の向こうで、何が起きているか――誰も見ようとしない。


 タシキは拳を握った。爪が掌に食い込む。

 ――いつか必ず、この国を変える。


「たしかに、凶人は世間体から見たら化け物扱いです。ですが! 現実を見れば、凶人は我々より優れている。それを社会に生かすべきではありませんか!」


 タシキの言葉は、議場の雑音にかき消された。

 発言は論理としてではなく、立場として処理される。議員たちは一斉にタシキを非難し、そのまま国会は終わった。


 タシキは秘書が用意した車へ乗り込む。

 革張りのシートがきしみ、窓の外の景色が流れ始める。


「タシキ様、今後の日程ですが――」


 秘書が切り出す。

 タシキは聞き流しながら、窓の外――凶人収容区の壁を見ていた。

 数メートルはあろうコンクリートの壁が、異様にそびえ立っている。あの壁が、誰を守り、誰を閉じ込めているのか。答えは分かっているのに、議場はそれを言葉にしない。


「その日程、全部パスにする。その代わり――凶人収容区へ行くぞ」


「……そうですか。分かりました。日程を調整します」


 秘書の声は平静だが、眼だけが揺れた。政治家の行動は、いつも”安全”と引き換えに何かを選ぶ。


 ※ ※ ※


 凶人収容区の門。

 タシキは受付で顔認証を通し、収容区の内部へ入った。電子音の承認は、冷たく短い。人間を通すより、物品を通す手続きに近い。


 中で最初に目に飛び込んできたのは、強制労働の光景だった。

 幼い子どもが、子どもの体のまま大人の仕事をしている。泥だらけの大人が、痩せ細った背中で黙々と運び、積み、掘る。

 誰も声を上げない。声を上げた者がどうなるか、ここでは学習済みなのだ。


「ここが……凶人収容区の中か……。あ、手伝いますよ」


 タシキは袖をまくり、作業へ加わった。

 手に取った道具は重い。重さそのものより、“ここではこの重さが日常だ”という事実が、じわりと胸を圧迫する。


「おい見ろよ。立派な政治家さんが、害獣の手伝いしてるぜ」


「あいつ知ってる。美咲タシキってやつだ。やたら凶人に肩入れする人間らしいぜ」


「マジかよ。やべぇ奴じゃん」


 職員たちが囁く。

 その声には、嫌悪と同時に、羨望に近いものも混じっていた。安全な場所から正義を言える者への反発だ。


 それを聞いた秘書は顔を曇らせた。


「美咲さん……これ以上、凶人に関わるのはやめてください」


「なんでだ? この人たちは、こんなに苦しい思いをしてる。誰かが手を差し伸べないとダメだろ」


 タシキの言葉は真っ直ぐだ。真っ直ぐすぎて、折れやすい危うさもある。


「ですが……」


 秘書は言葉を失った。

 言葉の代わりに、ここで起きる”いつもの事故”の予感が、背筋を撫でた。


「いいじゃんいいじゃん、お姉さん。あそこにいるゴミみたいな人間のこと、気にしなくていいよ」


「あ、あなたは――」


 気配もなく、秘書の肩を掴んでいたのは黒フードの男だった。

 掴まれた瞬間、皮膚が冷える。温度ではない。存在の”質”が冷たい。


「俺も手伝いますよ」


 男はそう言うと、仕事をしているタシキのもとへ駆け寄った。

 動きは自然だ。自然すぎて、逆に不自然だった。まるで最初からここにいるべき人間みたいに馴染んでいる。


 ※ ※ ※


 凶人収容区から帰宅したタシキは、夕食の準備に取り掛かろうとする。

 家の中は静かで、外の世界のざらつきがいったん遠のく。だが静けさは、油断を誘う。


「お前が国会議員の美咲タシキか?」


 目の前に立っていたのは、黒いフードを被った謎の男。

 男の纏う気配は異質で、人間とは思えないほど冷たかった。空間の温度が下がったように錯覚する。タシキは息を吸うのを忘れ、喉が乾く。


 突然の来訪に、タシキは驚き、立ち尽くす。

 ――だが同時に思い出す。

 収容区で作業を手伝ってくれた、あの男だ。あのとき感じた”不自然な自然さ”。


 タシキの反応を見て、男は笑った。

 笑みは人懐こい形をしているのに、目が笑っていない。評価と選別の視線だ。


「そんなビクつくなよ。安心しろ――別に殺しに来たわけじゃない」


 男とタシキの間に沈黙が生まれると、男は不敵な笑みを浮かべた。


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 大昔に密かに書いていたダークファンタジーのリメイク版です!

 結構色んなものに影響されて書いてました笑

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