わたし達の結婚

なかむら恵美

第1話



結婚して、5年。

旦那は婿養子である。改姓(かいせい)。結婚して、姓字(みよじ)が変わる感覚を、我が家の場合、わたしではなく旦那が味わった。

「嫁ぐって感じが、ヒシヒシとした」

「実家とは他人。戸籍上は他人になるのよ」

嫁入りし、今の姓になった友人達が口を揃える。

「そういう感覚だったの?忠明(ただあき)さんも」

ある日、わたしは聞いてみた。

「何で?同じ<かとう>じゃんか。余りなかったね、俺は」

済ましたものだ。

「加藤」どこにでもある。しかし、「加糖」となるとそういまい。


「へぇ~っ、加糖っていうんだ」

「そっ、加糖。加藤さんは、フツーの加藤でしょ。ウチは違うの。加える糖の<加糖>」

高校1年。旦那に出会った。

クラスが一緒になったのである。初めて口を利いたのは、6月辺り。

席替えで隣になったのだ。

加糖の割には、中肉中脂。勉強はまぁまぁ。面白く、思いやりのある子だった。

(ひょっとして、未来の旦那?旦那候補?)

思う所があった。

友人に良く夢を見る人があり、2、3日前、言って来たのである。

「ねぇ、ねぇ。わたし、あなたの未来の旦那の夢、見ちゃった!」

「え~っ。どういう人?」

「あなたと同じく<カトー>くん。漢字が違うかな?でも、あなたの<加藤>になるわよ」

「どういう事?」

「婿養子になるのよ、その人は」

「はぁっ?」

男が婿に?確かにわたしは一人っ子だけど、嫁にゆくんだい!

婿養子に対して、かなりの偏見。

財産狙いか、余程の事情があるんだろうと思っていたわたしは、顔で同調。

心でせせら笑っていた。


にも拘らず、こうなった。

それとなくわたしが、友人からされた話をしたのかも知れない。

「あっ、そうなの?だったら俺、婿に入るわ。次男なんだし、いいんじゃね?」

「えっ?そうなの?」

受け入れるのにも、驚いた。

「会社は兄貴が継ぐし。親は海外移住しちゃったし」

加糖砂糖店。<加糖の砂糖、砂糖の加糖>

冗談みたいであるけども、地域でかなり有名な、砂糖会社が旦那の家である。

「あっ、兄貴?俺なんだけどさぁ」

出張先の兄にまずは、電話。簡単に承諾されていた。

「あっ、もしもし。俺だけど。そっ、ター坊」

国際電話を通じて、両親にも説明。理解を得た。

「俺達で全て決めていいって。大まかを決めたら連絡しろってさ。早速、君の両親と相談しよう」


かくして「加糖」から「加藤」へ。

「加糖忠明(かとうただあき)」から、「加藤忠明(かとうただあき)」へと旦那は

なった。


のんびりとした午後が流れる。

「コーヒーでも飲みにゆく?」

「うん。あの、ゴメンな」こんな時、旦那が言う。謝る。

「何が?」

「その、子供が出来なくて」

ざっと身支度を整える。お互い髪も服もとんでもない。

「それを言っちゃあ、お終いだわよ、忠明さん。わたしだって、、、」

「そうだったな」

旦那もわたしも、そういう身体なのである。


外へ出る。車のドアへ旦那がカギを差し込む。

「新しい茶店が出来たの、知ってる?」

「もしかして<カトー>。美味いらしいよ、会社でも既に常連になった奴もいるし」

「一寸、遠いけど行ってみない?」

「うん。珈琲には、砂糖を沢山、加糖してね」

我々にしか分からない笑いを、旦那が提供してくれた。

                                  <了>


                                             

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