Stage.4 : 神様さえ知らない未来の果てまで
牙を剥く「本物」
ライブハウス『デッドヒート』の夜。
ナツミたちは、対バン相手であるプロ志向の社会人バンド「アイアン・ヴェイン」の演奏に、言葉を失っていた。
正確無比なリズム、心臓を直接掴まれるような重圧。自分たちの「熱さ」が、まるでお遊戯会のように思えるほど、そこには圧倒的な《実力》の差があった。
「熱意だけで勝てるほど、この世界は甘くないぜ、お嬢ちゃん」
終演後、オーナーに突きつけられた冷たい言葉が、ナツミの胸に深く刺さる。今の自分たちには、自分たちの魂を乗せるための「真実の言葉」が足りない。
孤独な天才、カノン
「今のあんたたちに足りないのは、技術じゃない。『言葉』だよ」
ユイが連れてきたのは、学校の旧校舎の隅でいつもノートを広げている少女、カノンだった。
彼女の書く詩は、痛いほどに鋭く、そして美しい。
ナツミは直感した。カノンの言葉があれば、自分たちは《未来の果てまで》行ける。しかし、カノンは冷めた瞳でナツミを見据えた。
「音楽なんて、ただの騒音でしょ。私の言葉を、あんな騒がしい音に混ぜないで。……帰って」
剥き出しの告白
それから数日、ナツミは放課後のたびにカノンのもとへ通った。無視され、拒絶されても、ナツミの瞳からは光が消えない。
「しつこい。何があなたをそこまでさせるの?」
カノンの問いに、ナツミは震える拳を握りしめ、叫ぶように答えた。
「私、プロの音を聴いて分かったの。今の私の歌は、ただの空っぽな叫びだって! 貴方の作った言葉で歌いたい! 貴方以外の言葉で私達が作っても意味がないの!」
カノンが目を見開く。ナツミの瞳には、かつての自分勝手な独裁者の影はなかった。あるのは、ただ純粋に「最高の音」を求める渇望。
「……貴方の詩は、毒にも薬にもなる。それを、私たちの不器用な音に乗せて、世界を無理やり変えてみたいの。お願い、力を貸して!」
わずかな綻び
沈黙が流れる。カノンは窓の外、オレンジ色に染まる校庭を眺めてから、溜息をついた。
「……一曲だけ。歌詞だけよ。私が納得いくまで書き直させるし、もしあなたの歌が私の詩を殺したら、その瞬間に縁を切るわ」
「!……ありがとう!」
「勘違いしないで。少しだけ、あなたのその無謀な『祈り』が、どこまで届くか見てみたくなっただけだから」
カノンが破り取ったノートの切れ端。そこには、まだタイトルさえ付いていない、けれど、これまでの誰の言葉よりも《渇いた心に駆け抜ける》強烈な一行が記されていた。
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