転生したらナレーションだった件 ~効果音は口でやってます~

niHONno

序章:あなたの脳内にお邪魔しています

「……どうも、こんにちは。ナレーションです」


え、誰だって? いやだから、ナレーションですってば。 気づいてないかもしれませんが、今あなたが頭の中で再生しているこの声。これ、僕です。僕が担当してます。はじめまして。


普通、転生したら勇者とか、悪役令嬢とか、スライムとかになるじゃないですか。僕も期待しましたよ。チート能力とかハーレムとか。 でも気づいたら、誰かの頭上数メートル、あるいは脳内の片隅に浮遊する『声』になっていました。


ちなみに今、目の前でゴブリンが棍棒を振り上げてますけど、大丈夫ですか? あ、危ない! ……って言っても、これ「状況説明」だからなぁ。僕が喋り終わるまで時間は止まらないし、そもそも君、僕の声聞こえてる?


……あー、やっぱり聞こえてないか。主人公、吹っ飛ばされちゃったよ。 ま、物語は進んでるみたいなんで、とりあえず放置しておきましょうか。


いやね、正直に言うと、もう飽きてるんですよ。 今回のこの手の物語、僕が担当するのこれでもう100回目なんです。 勇者がいて、魔王がいて、やれやれ系で……って、もう展開が全部読める。


他にも仕事あるんですよ? 恋愛モノのポエムみたいな独白とか、ミステリーの解決編の解説とか。 そっちのシフトも入ってるのに、またこの異世界案件でしょ? 結構こたえますよ、ほんと。意外と理想の声がおおすぎて……


で、さっきから気になってたんですけど。 今、あなたの頭の中で響いてる僕の声……どんな声してます?


「もっと重厚感を出してくれ」とか「深夜ラジオのテンションで」とか、皆さん脳内リクエストが多いんですよね。 どうですか? 今のこのトーン。 いわゆる「イケボ」ってやつになってますか? ええ声してますか?


……よし。反応がないってことは、完璧ってことですね。 それじゃ、この「イケボ(自称)」設定でいってみます。


そろそろ主人公が起き上がるみたいなんで、仕事に戻りますね。 あー、めんどくさ。 ゴホン。では、行きますよ。3、2、1……キュー!


『――激しい衝撃と共に、カイトは意識を取り戻した。』


(……ふぅ。ちゃんと起きたか。)


(い、や、あ、よかった~(^▽^)/)


(……はい、今の「よかった」に感情がこもってないとか言わない。 あくまで仕事上の安否確認ですから。彼がここで死ぬと、僕の出番も終わって無職になっちゃうんでね。 あくまで、僕の生活のための「よかった」です。)


『カイトはゆっくりと体を起こし、自分の手足を確認するように見つめた。』


(うんうん、五体満足ですね。顔についてるそのマヌケな泥汚れ以外は。)

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