徳の再抽選(リセマラ)

不思議乃九

徳の再抽選(リセマラ)

「はい、次の方。初期ボーナスポイントは『8』です。配分を選んでください」


真っ白な空間で、事務的な女神が告げた。

俺は迷わず、足元にある巨大な「リセットボタン」を思い切り踏みつけた。


「やり直しだ! 8ポインツで何ができるってんだよ。スライムにすら勝てねえわ!」


これが1,402回目の転生待機列。


前の奴は『5』で妥協して「農民として土に還るわ……」と消えていった。だが、俺は知っている。このシステムには必ず『30』というレジェンダリーな数値が存在することを。


「はい、次。ポイント『12』。平凡ですね」

「リセット!」

「はい、次。ポイント『3』。……あ、これ逆にレアですよ?」

「リセットだっつってんだろ!」


女神の目がどんどん死んでいく。周囲の転生待ちの連中からも「あいつ、まだ粘ってるよ……」「もう3日(現世時間で300年)はあそこにいるぞ」とヒソヒソ声が漏れる。


だが、ついにその時が来た。


「……っ! 次の方。ボーナスポイント……『30』。……出ちゃいましたね、おめでとうございます。さあ、早くチート能力を選んで消えてください」


女神の投げやりな祝福。俺の目の前には、最強の攻撃力、不老不死、魔法全振り、あらゆる選択肢が輝いている。

俺は勝ち誇った顔で、震える指を『全知全能』のスキルへと伸ばした。


その時だ。背後から冷ややかな声が響いた。


「ねえ、君。その30ポイント、『リセマラに費やした時間』で全部相殺(デバフ)されてるけど、気づいてる?」


振り向くと、そこには「運:99」という狂ったステータスを持つ、さっきの農民志望の男が立っていた。

俺のステータス欄を見ると、30ポイントの横に、深紅の文字でこう刻まれていた。


【固有称号:粘りすぎた魂】

効果:全ステータスが30になるが、あまりに長く待機しすぎたため、転生先の異世界は既に滅亡(サービス終了)しています。


「……え?」

俺が絶望の声を上げるより早く、足元の魔法陣が真っ黒に染まった。

俺が手に入れた最強の30ポイントは、誰もいない、空気すら凍りついた「無」の世界を永遠に彷徨うために使われることになった。


【了】

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徳の再抽選(リセマラ) 不思議乃九 @chill_mana

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