メタモルフォーゼ
余白
第1話 メタモルフォーゼ
※注意
本作は、無自覚の支配や境界侵害を扱います。
読むタイミングにはご配慮ください。
───「普通」より、ほんの少しだけ変わった人間なだけ。
生まれた時から、感受性が強かった。
ただそれだけだったはずなのに、世界は無情にも僕を拒み続けた。
父と母、兄と僕。
どこにでもいる、どこにでもある「普通」の家庭。
少なくとも幼い頃の僕は、そう信じて疑わなかった。
最初に世界が僕を拒んだのは、幼稚園の頃だった。
同級生たちと、僕はうまく馴染めなかった。
理由は分からない。ただ、空気の流れが違った。
先生は僕を叱り、「ダメな子」というレッテルを貼った。
それは紙に貼られた名前のように、簡単で、剥がれにくいものだった。
日本という国では、
みんなが同じ「普通」であることを求められる。
「普通」からほんの少しだけはみ出した僕は、
その瞬間に「ダメな子」になった。
それでも、僕には友達がいた。
同じように「ダメな子」のレッテルを貼られた子だった。
その子と一緒にいる時だけ、呼吸が楽だった。
世界が少しだけ、僕を許してくれている気がした。
体は弱く、よく風邪をひいた。
幼い子どもなら珍しいことではない。
父と母は必死に看病し、
やがて僕から移った風邪で寝込む兄の世話もした。
いい親だと思った。
愛されていると、思いたかった。
小学校に上がると、世界はさらに露骨に僕を拒んだ。
決まった時間に登校し、
決められた席に座り、
合図とともに、みんなで右を向く。
なぜ右を向かなければならないのか。
そんな疑問を持つことは、許されなかった。
疑問を持つ僕は、
教師にとって「扱いにくい存在」だった。
そして二度目の「ダメな子」のレッテルが、僕に貼られた。
僕は、小学校に通うことを諦めた。
家にいる僕は、
両親にとって「安心」ではなく、「問題」だった。
なぜ僕だけが、世界に溶け込めないのか。
兄はうまくやれているのに、
なぜ僕だけが拒絶されるのか。
両親は悩み続けた。
そして、転校という形で僕を守ろうとした。
───それが、三度目の拒絶の始まりだとも知らずに。
新しい学校。
新しい教室。
新しい「普通」。
場所が変われば、
世界も変わると信じたかった。
けれど、
僕自身が「普通」ではない以上、
世界の形は変わらなかった。
人は言う。
「努力が足りない」
「慣れればできる」
「みんな我慢している」
その言葉が、
僕の中で何かを少しずつ壊していった。
感受性は、祝福ではなかった。
それは、世界を過剰に感じ取ってしまう呪いだった。
音が刺さり、
視線が重く、
沈黙が痛かった。
僕は次第に、
「感じる」ことをやめようとした。
───ここから、変化が始まる。
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