その直後
その直後、風の音が少しだけ遅れて届いた。
ざわ、と聞こえたはずの音が、半拍ずれて、もう一度耳の奥で弾ける。
枝が擦れ合う。
同じ音が、同時に二度、重なって聞こえた。
青い花が揺れる。
――いや、揺れた“あと”の像が、まだそこに残っている。
視界の端に、細かな粒が浮かぶ。
光の粉のようで、砂嵐にも似ていた。瞬きをしても消えない。むしろ、瞬きをするたびに増えていく。
彼女の輪郭が、ところどころ欠ける。
肩の線が途切れ、髪の一部が背景と混ざる。けれど、顔だけは不自然なほど鮮明だ。
「……」
彼女の唇が動いた。
けれど、音が来ない。
少し遅れて、まったく別の位置から、声の断片だけが落ちてくる。
――……も……
――……し……
意味になる前に、ほどける。
風の音に、微かなノイズが混じりはじめる。
葉擦れの間に、じじ、という不規則な音が挟まる。
青い花の色が、わずかに滲む。
輪郭から、青がにじみ出し、背景に流れ込む。
「ミモザ、が……」
彼女の声が聞こえた気がして、顔を見る。
だが、その口の動きと、耳に届く音が合っていない。ずれている。数拍分、食い違っている。
足元の地面が、静かに揺れる。
近いはずの彼女が、突然、遠くに見える。
また、ノイズが走った。
視界全体に、細かな白と青の粒子が走る。砂嵐のように、世界の表面を削っていく。
彼女の目が、ふっと伏せられる。
その動きだけが、何度も繰り返される。同じ仕草が、少しずつずれたタイミングで、重なって再生される。
風の音が、裏返る。
高く、低く、同時に鳴る。どちらが正しいのかわからない。
青い花が、一斉に揺れた――はずだった。
けれど、揺れは途中で止まり、次の瞬間、すでに揺れ終わった後の静止画だけが残る。
音が、途切れる。
「音があったはずの空白」だけが、耳に張りつく。
彼女の姿が、ゆっくりと背景に溶けていく。
青に溶け込んでいく、ワンピース。彼女が、笑って......
待って。
待って、まって。
まって、駄目。だめです。だって、消えちゃう。
だめ、まだ、いかなーー........視 界が、青で満たされる。ーーー......いで-----...ちが===花も、空も、彼 女も、境 界を 失い、ただ色の===層だ けが----う-----重なっていく。ーーーい、や====ぼーーく==---最。。。後に 残 った の は、
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風の音の名残と、
意味になる前で止まった声の破片だった。
そしてそれらも、ノイズに削られて、静かに消えた。
――青だけが、そこに残った。
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