青のひと

@onomam

花輪

「ふふ、似合っているわ」


彼女は花を摘み、いつの間にか花輪を作って、僕の頭にそっと載せた。

小さくうなずく彼女を見て、僕も自然に頷き返す。


青い、花。


「あなたの色が似合うだなんて、嬉しいです」


少し意外そうな表情を見せ、そして笑う。

花輪を押さえる指先が僕の額に触れる。


「不思議な言い方ね。色に、誰のものも何もないでしょう」

「そうでしょうか」


彼女の手首をそっと取り、慎重に花輪を外す。

枝は軽く、花は壊れやすそうで、丁寧に扱わなければならない気がした。


今度は花輪を彼女の頭に載せる。

細い枝が髪に絡み、花が輪郭を縁取る。青い光が花弁に反射して、彼女の輪郭を柔らかく包んだ。


「……でも、この花も」

言葉を探して、少し間が空く。


「この花も、あなたに似合っています」


彼女は目を伏せ、沈黙の後に微笑む。

「そう?」

「ええ。青は、貴女の色だ」


返事はない。ただ、ゆっくりとうなずいた。


風が吹き、枝が揺れるたび、青い花が視界いっぱいに揺蕩う。

どこを見ても、青く染まった世界だった。


「ねえ、敦くん」

呼ばれて振り返ると、彼女は花の中に立っていた。

青を纏った彼女が、その色に溶けて、境界を失っていく。



「私ね、ミモザが好きなの」

「ミモザ、ですか」

「ええ。黄色い花って、素敵でしょう」


胸の奥が少し温かくなる。

「素敵ですね」

そして僕は付け足すように言った。

「でも、この花も、とても、あなたらしい」


彼女は瞬きをし、言葉を探しかけてやめた。

静かに微笑む。

「……そう思ってくれるなら、嬉しいわ」


風が吹き、花が揺れ、光が細かく粒子のように踊る。

彼女の青いワンピースの裾が、揺れていた。

「また、この場所で会いましょう」

「いいですね、そうしましょう」


その約束だけが、胸の奥に静かに沈んでいった。

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