恋する彼は、地に足を持たない。

雨雲サイダー

第1話

―存在―


また突如、彼が姿を消した。


今ここで、彼と話していたはずなのに。


付き合って2年の私たちは、記念日を共に過ごしていた。


時計の秒針がやけに響く彼の部屋。


前に1度、同じようなことがあった。

その時は、恐怖で腰が抜けたのを覚えている。


また、そこにいるかもしれない。

そう淡い期待を抱いた私は、彼の部屋を飛び出した。


――



私は、街並みから少し外れた高台にある神社に足を運んだ。


ここは、彼と出会った場所であり、消えてしまった彼を見つけた場所でもある。



神社を囲う木々の隙間からは、海沿いに広がる懐かしい街並みが途切れ途切れに映っている。



何故か足がすくんでいる。


彼を想わせる潮と孤独が混ざった匂いが、鼻をくすぐった。


それは、彼の喪失で傷ついた心に沁み、体中に動悸が響く。



高く唸る凍て風が吹き抜け、私の眼前は透き通る。



私の瞳には、古びて色褪せた鳥居の先に、佇む彼の姿が滲む。



瞬くたび、半透明な彼の輪郭がぼやける。


気づくと私の喉は、きつく狭まっていた。


彼の影は、どこか薄く


目を離せば、寂滅に沈む。

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恋する彼は、地に足を持たない。 雨雲サイダー @amagumo_soda

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