第14話 お風呂がないと困るベリー

また操り人形さんは、ランナーに、

「偵察してこい」

 と言った。

 ランナーの姿をしばらく見ないと思ったら、すっごいスピードで戻ってきて言った。

「あっちに、あっちに」

 早口で伝えようとしてうまくランナーが話せないでいると、操り人形さんが、

「少し落ち着かんか。何があったんじゃ」

 ランナーは、弾む息を整え、言った。

「すっごいスタイルの良い美人が風呂に入ってます」

「なんじゃとー」

 と言って、ランナーの後を操り人形さんと司令官さんが大急ぎでついていった。

 ノーベンバーとあたしは、男って嫌ね~なんて言いながら笑っていた。

 しばらくすると、慌てた様子で操り人形さんがやってきて、あたしに言う。

「あんた、あんた、交渉じゃ」

「どうしたんですか?」

「風呂に入れるぞ」

 旅に出てから、操り人形さんの家や村でシャワーは浴びたが、あたたかいお風呂には入る機会はなかった。

 操り人形さんの後をついていくと、すっごい美人が水着で、薪割りをしていた。

 みんなで話し合い、あたしが最初に交渉しに行くことになった。

「そんな恰好でどうして薪割りしているんですか?」

「わたくしは、一日に一回一時間、必ずお風呂に入らないと太ってしまうのよ」

「なんか大変そうですね」

「大変?」

「そうです。お手伝いできることはありますか?」

「薪はサブスクで契約しているから、必要なものは、毎週届くの。そうね、人の助けが必要と言えば、そうね、そんなことは考えたことがなかったわね。全部自分でするものだと思ってきたから」

「お風呂のサブスクなんかあるんですか?」

「そうよ。場所さえわかれば、定額で届けてくれるのよ」

「しかし、抜群のスタイルですね」

「それはセクハラよ」

「ももも、申し訳ありません」

「まぁ、いいわ。言ってみただけよ。みんなスタイルのことしか言わないのよ」

「タダ、タダ、感動でした」

「わかっていたわ。誰かと話すのが久しぶりだったから。お風呂入る?」

「は、は、はい!」

 あたしは、お風呂に入りたかったのだ。

「ちょっと仲間に報告してきていいですか?」

「お仲間がいるの?」

「五人います」

「みんな入らせる気?」

「はい。あたしだけだと悪いので」

「案外あなた図々しいわね」

「はい!その代わり、全部お手伝いします」

「まぁ、それならいいわ。もちろん薪代も払ってくれるんでしょ」

「は?」

「そうじゃないとわたくしのメリットがないわ」

「みんなに交渉してきます」

 と言って、あたしは走って、仲間の元へ向かった。

「お風呂入れるって」

「ほんとうか?」

 と操り人形さんが言った。

「でも」

「でも?」

「薪代とお風呂を焚くのは、こちら側の負担になります」

「いいじゃろ。あの美人やろ?」

「そうです。そうです」

 司令官さんにも言うと、

「わかった」

 と言っただけだった。ランナーは、

「薪を運ぶのも楽しいな」

 となぜか嬉しそうだった。

 タイコタタキさんは、作業しやすいようにリズムを刻んだ。

 ノーベンバーは嬉しそうに、

「お風呂上がったら、おいしい料理が必要ね」

 と言って、ランナーに材料を買ってくるように指示をした。

 ランナーはまだテンションが高く、

「行ってきまーす」

 と言って、食糧を調達に向かった。あたしと操り人形さんは、懸命に薪を割った。

 その様子を見て、ベリーは、

「私、ずっと一人で風呂と向き合うだけだったの」

「結構大変でした?」

「そうね。大変だったかさえ考えてなかったわ。だってお風呂に入らないと、太ることだけが事実だったから」

 久しぶりのお風呂に仲間も気持ち良くなり、ノーベンバーの料理も相変わらずおいしかった。

 操り人形さんが、ベリーに言った。

「わしらと旅をせんか?」

「わたくしが?」

「そうじゃ。行く先は、願いが叶うという安堵山じゃ。わしらには、風呂に入れるというメリットが。サブスクの薪も天候によって届かないこともあるじゃろ。それもランナーに頼めば、ランナーが探してくるじゃろ。風呂釜は、わしらが運ぼう。それにこのノーベンバーの料理がついてくるのじゃ。まっ、少しは、食事代をいただくのじゃが」

「そうね。生活さえ不便なこの場所で、毎日お風呂に入らないといけなかったの。それがどれだけ大変なことだったか。旅なんかできるかしら」

「そりゃ、大変じゃったの。でも、今回わかったように、手伝うこともできるのじゃよ」

 ベリーは、神妙な顔をしたかと思ったら、

「一緒に行きますわ」

 と笑顔を浮かべながら言った。司令官さんとあたしとランナーが交代で風呂釜を運ぶ役になった。

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