視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす
仙道
第1話:転移と女騎士
いつもの帰り道だった。 残業で終電間際の電車に揺られ、最寄り駅で降りて、コンビニで明日の朝食を買って、アパートへの角を曲がる。 そんな、何千回と繰り返したはずの動作の途中で、世界が反転した。
アスファルトの固い感触が、ふかふかとした土の感触に変わる。 街灯の人工的な明かりが消え、鬱蒼とした木々の隙間から差し込む、冷たい月明かりだけが周囲を照らしていた。
「……は?」
俺はコンビニ袋を提げたまま、呆然と立ち尽くした。 スーツの裾が、夜露に濡れた草に触れている。 空気の味が違った。排気ガスの混じった都会の空気ではなく、濃密で、どこか青臭い、土と緑の匂い。
状況を理解するよりも早く、背筋が凍りつくような悪寒が走った。 ガサリ、と目の前の茂みが大きく揺れる。
「グルルル……」
低い唸り声。 そこにいたのは、熊なんて生易しいものじゃなかった。 体高は俺の倍はある。全身が剛毛に覆われ、口からは長く鋭い牙が二本、剣のように突き出していた。 目は赤く充血し、俺という獲物を見つけた喜悦に歪んでいるように見えた。
魔物だ。 本能がそう告げていた。
「う、わ……」
足がすくむ。逃げなければならないのに、腰が抜けたように力が入らない。 魔物が大きく口を開け、咆哮と共に地面を蹴った。 死ぬ。 そう確信して、俺はぎゅっと目を閉じた。
キィン!
甲高い金属音が、森の静寂を切り裂いた。 肉が裂ける生々しい音と、魔物の断末魔が重なる。 いつまで経っても来ない衝撃に、俺は恐る恐る目を開けた。
目の前で、巨大な魔物がどうと倒れ伏している。 そして、その傍らには一人の騎士が立っていた。 月光を浴びて輝く、白銀の全身鎧。 手には身の丈ほどもある大剣が握られているが、その剣先には血の一滴すら付着していない。
「……助かった、のか?」
俺の声に反応して、騎士がゆっくりと振り返った。
「無事か、貴様」
冷徹で、威厳のある声だった。 騎士は俺の方へ歩み寄ってくると、鬱陶しそうに兜を脱ぎ捨てた。 さらりと、月光のような銀髪が夜風になびく。
現れたのは、息を飲むような美女だった。 意志の強さを感じさせる切れ長の瞳。通った鼻筋。 激しい戦闘の後なのだろう、白い肌には玉のような汗が滲み、幾筋かの髪が頬に張り付いている。 鎧越しでもわかる、鍛え上げられたしなやかな肢体のライン。 荒い息遣いと共に上下する胸元。
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。 恐怖による動悸ではない。 俺は、目の前の圧倒的な「美」と「強さ」に、強烈に惹きつけられていた。 助けられたという安堵感以上に、この美しい生き物を手に入れたいという、根源的な欲求が突き上げてくる。
騎士――彼女は、俺のスーツ姿を不審そうに睨みつけた。
「見慣れぬ格好だな。このような森の奥深くに丸腰で入り込むなど、自殺志願者か? 答えろ」
鋭い眼光。 俺に向けられたそれは、明確な警戒と、弱者に対する侮蔑を含んでいた。 だが、俺は彼女から目を逸らせなかった。 逸らしたくなかった。
彼女の瞳を、真っ直ぐに見つめる。
その瞬間、俺の脳内でカチリと何かが噛み合う音がした。 熱くなった俺の視線と、彼女の冷たい視線が交差する。 不可視の波動が、俺から彼女へと伝播していく感覚。
――スキル『魅了』が発動しました。
誰の声でもない、確かな情報が俺の脳裏に浮かんだ。
「……貴様、名は?」
彼女の口調は変わらない。 だが、その瞳に宿っていた鋭い光が、みるみるうちに溶けていく。 氷が熱湯に触れたように、警戒の色が消え失せ、代わりに潤んだような熱っぽい色が満ちていく。 睨みつけていたはずの視線が、まるで恋い焦がれるものを見るような、甘いものへと変質していた。
「俺は、佐々木健太だ」
「ケンタ……」
彼女は俺の名前を、大切な宝物のように口の中で転がした。 頬が微かに紅潮している。 さっきまで俺を不審者として見ていたはずの彼女は、今や俺の姿を瞳に映すだけで、恍惚とした表情を浮かべていた。
「私は、セシリア。この国の騎士団で副団長を務めている」
セシリアは、大剣を地面に突き刺すと、籠手(こて)を外した素手で自身の胸を押さえた。 早鐘を打っているであろうその鼓動が、俺には聞こえるようだった。
「セシリア。助けてくれてありがとう」
俺が礼を言うと、セシリアは破顔した。 先ほどまでの冷徹な騎士の仮面が嘘のように、花が咲いたような笑顔だった。
「礼など……当然のことをしたまでだ。だが、ケンタが無事で本当によかった」
彼女は一歩、俺に近づいた。 漂ってくる汗の匂いと、微かな香油の香りが、俺の鼻腔をくすぐる。 彼女は俺のスーツの袖を、遠慮がちに、しかし離したくないと言わんばかりに強く掴んだ。
「ここは危険だ。街までは距離があるが……私が案内しよう」
「悪いな。俺はここら辺の地理に疎くて」
「気にするな。貴方を守るのは、私の役目だ」
セシリアは俺を見上げ、潤んだ瞳で訴えかけてくる。
「貴方を、一人にはさせない。……絶対に」
その言葉には、ただの護衛対象に向ける以上の、重く、熱い感情が込められていた。 俺は確信する。 彼女はもう、俺のものだ。
たった一度、視線が合っただけ。 それだけで、最強の女騎士が俺に堕ちた。
「頼りにしてるよ、セシリア」
俺が微笑みかけると、セシリアは顔を真っ赤にして、嬉しそうに頷いた。
「ああ、任せてくれ。私の剣は、貴方のためのものだ」
俺たちは月明かりの下、森を歩き出した。 不気味だった森の空気は、今はもう心地よいものに変わっていた。 隣には、俺に絶対の好意を向ける最強の騎士がいる。 この理不尽な世界で生き抜くための、最初の、そして最強のカードを手に入れたのだ。
俺はセシリアの背中を見つめながら、これから始まる生活に思いを馳せた。 元の世界に未練はない。 この力があれば、俺はここで、誰よりも楽に、誰よりも自由に生きていける。
「ケンタ、足元に気をつけろ」
セシリアが心配そうに手を差し出してくる。 俺はその手を迷わず握り返した。 騎士の剣ダコのある硬い掌が、俺の手を優しく包み込んだ。
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