慈雨(じう) ※シチュエーションボイス台本
都桜ゆう
第1話
設定・演出
場所: 雨の日の室内。薄暗い窓際。
距離感の変化: 遠く(部屋の入り口)→ 中(彼女の横)→ 密着(背後から抱擁)
音(SE): 雨音、足音、衣擦れの音。
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【本編】
(窓を叩く、しとしとと静かな雨音) (パタパタと歩いてくる足音――少し離れた場所で止まる)
彼 「(少し遠くから)……あれ? こんなところにいたんだ。……ねぇ、そんな窓際にへばりついてどうしたの? 体育座りなんてして……足、痺れちゃうよ?」
(返事がない。少し近づく足音)
彼 「(中くらいの距離で)……おーい、生きてる? もしかして、雨の音聴きながら寝ちゃった? (少し笑って)電気も点けないで、こんなに暗いところで……。……ったく、風邪引いても知らないぞ?」
(さらに数歩近づき、彼女のすぐ横で止まる。しゃがみ込む衣擦れの音)
彼 「(近距離。驚いたように声を潜めて)……っ。……え、泣いてるの? ……あぁ、ごめん。変なこと言って、ふざけすぎたね。 間 ……何があったの。……嫌なこと、あったんだね。 間 ……うん、いいよ。今は何も言わなくて。話せるようになるまで、俺がずっと、ここで待ってるから」
(長い沈黙。雨音が部屋に響く。彼女の肩が小さく震える気配)
彼 「(優しくささやく)……一人で抱え込まなくていいんだよ。……ほら、ちょっとだけ……こっちおいで」
(衣擦れの音。彼女の隣に深く腰を下ろし、背後からゆっくりと、大切に包み込むように抱き寄せる。彼女の頭を自分の肩に預ける)
少しの間。
彼 「(耳元で)……よしよし。……こうしてれば、少しは安心できる? ……うん、いいよ。気が済むまで泣きな。俺の服、涙でビショビショにしてもいいからさ。……こうやって抱きしめてるとさ、君の鼓動が伝わってくる。……あんなに我慢して、こんなに震えるまで、一人で頑張ってたんだね」
(彼女の嗚咽。彼は彼女の腕をさすったり、髪をそっと撫でたりして慈しむ)
彼 「……辛かったね。……痛かったね。……大丈夫。今は俺しかいないから。全部、全部吐き出しちゃっていいんだよ」
(しばらくの間、二人の間に雨音だけが響く時間を置く)
彼 「(ふと、窓の外に意識を向けて)……聞こえる? 雨の音。……。……止まないね。……でも、不思議と嫌な音じゃない。静かで、優しくて。……なんだか、君の代わりに泣いてくれてるみたいだ」
彼 「(独り言のように、静かに)……ねぇ。知ってる? こうやって降り続く雨のことを、『慈雨(じう)』って呼んだりするんだって。……。……乾いた土を潤して、また新しい命が育つのを助ける……恵みの雨のこと」
(抱きしめる力を少し強め、彼女の髪に頬を寄せながら)
彼 「……今、君から溢れてるその涙もさ。俺には、その『慈雨』に見えるんだ。……。……悲しいだけじゃない。君の心を優しく洗って、明日また前を向くための……大事な栄養なんだよ。……だから、枯れるまで出しちゃおう。無理に止めなくていいんだよ」
彼 「泣けば泣くだけ、君はもっと優しくなれる。人の痛みがわかる、強い人になれるから。……今はまだ、弱虫のままでいい。俺がこうして、君の全部を支えてるから」
(深く、温かい溜息。甘く低い声で)
彼 「……止まない雨がないように。明けない夜がないように。……君のこの涙も、いつかは必ず止まって、また心から笑える日が来る。……俺は、そう信じてるよ」
彼 「……だから、その時は……。雨が上がった後の空を、君と一緒に見上げたいな。……。……君が泣き止むまでじゃなくて、その先、また笑えるようになるまで。……ううん、笑えるようになった後も。……ずっと、君の隣に居させて?」
彼 「(さらに優しく、祈るような響きで)……いい、かな? 間 ……さ、もう少しだけ、こうしていよう。……雨が、君の悲しみを全部洗い流してくれるまで」
(雨音に包まれながら、静かにフェードアウト)
(C),2019-2025 さくらゆう / 都桜ゆう(Yuu Sakura).
慈雨(じう) ※シチュエーションボイス台本 都桜ゆう @yuu-sakura
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