アヒル・スクリーム

蛸屋 匿

除け者とスクール(1)

 地球に隕石が降ってきて、人間の数が少なくなった世界。

 今は、欠片となって銀河を漂う地球。逃れられた数少ない人間は、広い宇宙で『惑星人』や『電脳人』といった存在に出会う。


「はじめまして、宇多田うただ なぎと言います」


 教壇の隣に立った私は、よどみなく言った。

 見回した教室の中は、まるで別世界のようだ。生徒の肌が青や黄色だったり、耳がとがっていたり、機械の体を持った生徒もいる。


 今日から、私は宇宙高等学校――通称スクールの生徒となる。銀河の中でも『絶滅寸前』と言われた人間として、宇宙のことを知るために。


 小さく息を吸うと、私は総勢二十四人のクラスメイトに笑いかけた。


   +++


 スクールでは、惑星人の子供や、人工知能を搭載した電脳人、動物の進化系である獣人などが宇宙社会について学んでいる。いずれも地球の人が『宇宙人』と呼んでいた存在だ。


 未知に包まれていた銀河系は、地球の崩壊と共に変わった。地球に遠慮していた惑星人たちが、地球の保護に乗り出たことで、躍進したんだ。


 例えば、インフラの整備。

 銀河鉄道や、星線せいせん高速道路。ミルキィ・パーキング。銀河タクシーは会社員の利用が多いと聞いている。

 現在の宇宙空間には様々な施設・道路があって、見違えたと言えるだろう。


「えー、これまで『系外惑星に生物が住んでいる』という事実は隠されており、その事実が明るみになることはありませんでした。しかし地球が滅びるのと同時に情勢は変わり――…」

「地球の歴史とかどうでもよくない?」

「もう終わったことじゃん」

「ね」

「退屈だわー」


 教師の話を食い入るように聞いていた私は、女子生徒の声で我に帰る。

 目に入ったのは、すごく退屈そうな生徒たち。

 声を上げた女子生徒、前の席を蹴る男子、他にも携帯ゲームをする青年、あくびをする女の子……を挟んでまた、携帯ゲームをする別の青年。

 とまあ、ちゃんと話を聞いている人はいなかった。これを見た教師は「銀河系の常識を話すのは終わりにする」と息を吐く。

 ゆるい返事をする生徒たちを尻目に、私は取っていたノートを閉じた。このクラスに馴染むのは、すごく難しそう。



 チャイムが鳴り、各々の生徒たちは教室を出ていった。私も「こ、校内でも回ろうかな~」とつぶやきながら席を立つ。その声は雑音にかき消されていき……案内役を見つけられなかった私は、一人で回ることにした。


「昼飯おごりかよ」

「お前が負けたんだろ」


 なんて、誰かの会話を聞きながら、廊下を歩く。

 三階建て、屋上ありきの建物。それから体育館があるぐらいで、他に見られる場所はなかった。

 いや、ひとつだけ。二階の閉鎖された廊下が気になったけど、何でも触るゲームの主人公じゃないんだから、と見なかったことにした。


 そうして、転校初日は何事もなく終わった。


 ……下校前、恐喝の現場を見たような気がしたが、それもスルーしたし。虐められていた少年と目が合って、思わず『加害者』をビンタした気が……まあ、しなくもないが。やっぱり何事もなかった。

 だから、そんな救世主を見るような目を向けられる筋合いはない。

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