第五章 「空へと昇る涙」その5

 ——神域の朝は早い。

 日の出と共に目を覚ましたツミキは、二階の窓から既に活動を始めている人々の姿を見た。

 ツミキは隣でいびきをかいて眠る男を置いて、宿を出た。部屋を出る直前、カイザーはリスへと姿を変えた。人型サイズの布団に埋もれたリスが、モゾモゾと頭だけ出して再び眠る姿は、なんだかとても面白かった。

「あ、ハナコ!」

 宿を出てすぐ、ツミキは黒色のドレスに白いエプロンをまとったお団子ヘアの女性、ハナコに出会った。水を汲み来ていたらしいハナコは、こちらに目をやると、小さく笑った。

「早いな。だが貴様、鏡は見てきたか? 髪がはねているぞ」

「え? どこ? ハナコ、なおしてよ」

「いや、そのままでいい。その方がわかりやすいからな。ヒノデ様なら、きっとそうはならないだろう」

 そう言うと、ハナコはイタズラっぽく笑った。仕方なく、ツミキはハナコの横で手に水をつけ、自分でそれをなおす努力をする。

「……行くのか?」

 ふいに、ハナコがそう口にした。ツミキは、そちらを振り向くことなく、口を開く。

「うん……。だから、今日は色々見て回ろうと思って」

「そうか。ちょうどいいタイミングかもしれないな……」

 ツミキは寝癖がおさまったのを手で確かめて、東の空に目をやった。


 ——王都軍と神域タートルの戦士達による戦いから五日。

 結果から言えば、あの戦いは王都軍の勝ちということになった。本来の目的であるクリスタルの破壊を達成し、神域軍はそれを防げなかった。負けと言われても仕方がないだろう。

 あの戦いによって、多くの人々が命を落とした。一五〇人いた神域の戦士達のうち、八十人以上が負傷し、二十五人がその命を落とした。この数をどう捉えるかは難しいが、それでもの戦闘を避けようとするミゾレの懸命な努力によって、その数はかなり抑えられたとも思う。実際、死傷者の多くは、神域のベールが消えた後——クリスタルが破壊された後の白兵戦で生じたという記録もあった。

 それでも、かけがえのない命が失われたことに何ら変わりはなく、さらには守るべきクリスタルも破壊されたことで、神域の人々は深い悲しみに包まれることとなった。

 ——そんな暗闇に光を差したのが、戦いの三日後に行われた、ミゾレのスピーチだった。

 ミゾレは戦死者の葬儀が終わった後、その場に集まったすべての人の前で、言葉を放った。

 細かい内容までは覚えていないが、大切なことは覚えている。涙を拭い人々の前に立った彼女は、『神域が負った傷、そして人々が抱いている深い悲しみ』を言葉にした。多くの人々がそれに共感し、涙を流した。そんな時彼女は、突然『自分自身の話』を始めた。

 それは、かけがえのない存在だったヒノデ・ハリマを亡くした時の物語。絶望の中で、彼女はこの神域に出会った。そして、そこで生き続けた。亡き彼を想い、生き続けた。

 ミゾレは言った。

『——悲しみに沈んだっていい! 一歩も歩き出せない日があってもいい! 支えてくれる人が、ここにはいるから……。私は前を向く! 隣の誰かが前を向いて歩き始められるその日まで、じっと支え続ける。かつて、ここで出会った人々がそうしてくれたように……。この戦いで別れを迎えてしまった、大切な友人がそうしてくれたように……』

 ミゾレは言った。

『——だから、生き続けて欲しい! 悲しみの中にあっても、生き続けてほしい! もしあなたが立って歩けるなら、私と同じように、悲しんでいる人々の代わりに前を向いてほしい。今はどんなに辛かったっていい! 悲しんだっていい! 私たちは、待ち続けるから——

 ——日の出の時を、待ち続けるから!』

 深い悲しみを忘れることなく、それでも前を向いて生きていこうというミゾレの姿。神域の人々への愛情と感謝、思いやりに満ちたそのスピーチは、多くの人々の心に光を灯した。

 あれから二日。決して、何かが解決したわけではない。けれど、『心のあり方は自分たちで決められる』、そんな想いに突き動かされ、神域は着実に復興に向けて動き始めていた。

 幸いだったのは、王都軍がすぐに攻め込んでこなかったこと。詳しい理由は不明だが、想定以上の被害が発生したことも大きいだろう。

 ——それでも、彼らが再び神域を訪れるのは時間の問題で、神域での生活を守るためには、次の一手を打つ必要があった。


「そういえば、貴様に聞いてみたいことがあったんだ」

 水場での作業を終えたらしいハナコが、突然そんなことを言い出した。ツミキは警戒しつつ、次の言葉を待った。

「どうして貴様は、ツミキと呼ばれているんだ? それが貴様の名前なのか?」

 予想外の質問に、ツミキは肩透かしをくらった気がした。ツミキは少し考え、恥ずかしい気持ちを抑えながら答えた。

「……噛んだんだ」

「噛んだ……? どういう意味だ?」

「僕は昔、『秘密基地』と呼ばれていたことがあって、それを名前にしようと思ったんだ。だけど——」

 思い出す。カイザーと自己紹介しあった時のことを。揺れる馬車の中で、名前を尋ねられた『木』は「ヒミツキチ」と名乗ろうとしたのだ。

「——途中で噛んで、『ツミキ』っていう風に聞き間違えられちゃった……」

 ツミキが照れながらそう言うと、ハナコはまず呆れた顔を見せた。それから、「くだらない」と一蹴し、楽しげに笑った。

「ツミキ、か……。いいじゃないか。貴様のような罪深い木男には、ぴったりの名前だ」

「ハナコ……、もしかしたら僕、今イラっとしたのかもしれない」

 ハナコは笑うと、ジトッとした目を向けるツミキを見て、それから向こうの山を指差した。

「ミゾレ様を探しているんだろ? きっとあそこだ。行き方はわかるな?」

「っ、うん! ありがとう!」

 ツミキはそう言うと、ハナコに手を振り駆け出した。


     *


 駆け出したツミキは、その足で神域のあちらこちらを巡った。人々が生活している場所を順々に巡った。そして、そこにいる人たちに声をかけ、彼らとのコミュニケーションを楽しんだ。

 結果的に、ハナコが指差したその場所にたどり着いたのは、陽がすっかりのぼったお昼頃になってからだった。

 ——旧クリスタル跡地。神域の中央に位置する井戸型のその空間にたどり着くと、ツミキの視界に大きな甲羅の形をした石が飛び込んできた。元々あった赤いクリスタルはすっかり姿を消し、代わりに亀の石がその中央に鎮座している。

 地上で石となったこの神獣の亡骸は、昨日、ツミキと神域の人々によってここに運び込まれた。

 そしてその正面に、長い亜麻色の髪をおろした少女が立っていた。

「ミゾレ」

 ツミキが声をかけると、ミゾレは少し振り返ってこちらを見た。その二色の瞳が、何にも阻まれることなく輝いていた。

「ツミ——、……おはよう。どうしたの? こんなところまできて」

「ハナコに、ミゾレがここにいるって聞いて。……もしかして、朝からずっといるの?」

「まさか。さっき来たところだよ。だから、ちょうどよかったね」

 挨拶程度の会話をこなすと、ツミキはミゾレと並んで目の前の亀の石を見上げた。

「……ミゾレこそ、ここに何しに来たの?」

「ん〜、……なんとなく、かな。なぜか、今この石を見ておかなきゃって思ったんだ」

「……そっか」

 陽の光に照らされてキラキラと輝くその石は、元々高熱帯びていたためか、まだ苔の一つもついていない。それでもやがては、この石も苔むし風化していく。もしかしたら、ミゾレが言いたかったのはそういうことだったのかもしれない。

 亀の石を見上げる真剣なその横顔を見て、ツミキはなんとなくそんな風に思った。

「ミゾレ達は、これからどうするの?」

「……私、女王ハリマとちゃんと交渉してみることにしたの。ちゃんと話して、地下資源の採掘に協力しながらも、神域が神域としてあり続けられる道を探すつもり! 神域の人たちが、ここで生活し続けられる道を探すの。大丈夫、勝算はある……!」

 ミゾレはそう言うと、ツミキに向かって力強い笑みを見せた。それは迷いのない、自信にあふれた笑顔だった。

「そっか……。うん、ミゾレならきっとできるよ!」

 ツミキはそう言うと、亀の石に歩み寄り、両足から木の根を伸ばした。

 ツミキの行動を何も言わずに見守るミゾレ。その目の前で、ツミキは亀の石を自身の木の根で網のように包み込んだ。包んだ木の根の端を自身から切り離すと、根は自ら意思を持ったように大地に根をおろし、やがていくつかの葉をつけた。

「……これで、この根の感覚は僕に共有された。この石に何かあったら、僕にもすぐ伝わる。その時は、どこにいてもすぐ駆けつけるよ!」

 ツミキの言葉に、ミゾレは驚いた様子で目をパチクリさせた。彼女はその目で石に張り巡らされた木の根を見ると、歩み寄り、その根に手を触れ目を閉じた。

「……不思議。なんだか、懐かしい感じがする」

 ミゾレは、どこか嬉しそうにそうつぶやいた。

 その言葉に——まるで、『自分』に気づいてくれたかのようなその言葉に、ツミキはずっと伝えられずにいたことを、きちんと伝えておきたいと思った。

 目を開いたミゾレは、そんなツミキの神妙な面持ちに気づいて声をかけてくれた。

「どうしたの……?」

「……ごめんね。僕は、君の大好きなあの子じゃない」

 ツミキがそう言うと、ミゾレは少し驚いた顔をして、それから儚げに笑った。

「……うん、わかってる。きっと、最初からわかってた」

 そう言ってほほ笑むミゾレ。どこか寂しげなその表情に、ツミキは、もう一つどうしても伝えたかったことを思い出す。

「——っ! でも僕は、君を悲しませたかったんじゃないんだ! 僕は……、君に笑って欲しかった! 君たちに、笑顔でいて欲しかったんだよ!」

 ツミキの叫びに、ミゾレはどこか面食らったような顔をしていた。けれどやがて、どこか納得したような顔をして小さくうなずいた。

「そっか……。うん、わからないけど、なんかわかった……! あなたはきっと、私たちに会いに来てくれたんだね」

 ミゾレはそう言うと、口角をグッとあげ、目を細めると、これまでのどの瞬間よりも大きな笑顔で口を開いた。

「——ありがとう。私、あなたに会えてよかった‼︎」

 ミゾレの言葉に、気づけば木も笑っていた。

 どこか吹っ切れたような彼女の笑顔を見て、ツミキは「もう大丈夫だ」と思った。

「……僕、行こうと思う」

 だからツミキは、静かにその言葉を口にした。

「うん、行ってあげて……。きっとみんな、あなたを待ってる」

 ミゾレはそう言って、優しく笑ってくれた。


     *


 翌日。ツミキが神域タートルを出発する日の朝。

 出発場所である東側の平原に、ツミキとカイザーは立っていた。背中には食料などの餞別の品がたっぷり入ったバックパックを背負い、横には一頭の馬も連れている。

 その正面に立つのはミゾレ、ハナコを含む彼女の補佐官数名、共に戦った戦士達、そして、なぜだか神域に住むほとんどの人が集まっていた。

「おいおい、すげえな……」

「えっと……、なんでこんなに人が?」

 ツミキがつぶやくと、かつて入浴を共にしたおっさんの一人がニカッと笑った。

「王都軍との戦いを治めてくれた英雄の旅立ちだからな。当然だろ!」

「「「キャ〜、ツミキ様〜! またいらしてくださいね〜‼︎」」」

「「「「ツミキ様〜‼︎ ありがとう〜‼︎」」」」

 集まってくれた人の中には、かつてツミキに積極的に話しかけに来ていた神域の少女達や、ツミキが助けたさらわれた子供達も含まれているようで、彼女達もまた、ツミキの出立を悲しみながらも祝福してくれているようだった。

「……何を拗ねているんだ、貴様」

「べっつに〜? ツミキばっか人気でも〜? 命懸けで戦場駆け回った俺の名前がまったく聞こえてこなくても〜? まっったく拗ねていませんけどぉ〜?」

 ふと、完全に不貞腐れた様子のカイザーに、ハナコが声をかけているのが見えた。ハナコはそんな、箱の上で不貞寝するカイザーを見ると、そっとその前に片手を差し出した。

「世話になったな、カイザー。貴様がいてくれて助かった」

 ハナコの思わぬ言動に、カイザーは飛び起き目をパチクリさせる。

「な、なんだよ! そ、そんなわかりやすくご機嫌取ろうとしたって、そうはいかないぜ⁈」

「……まったく、貴様は性根から捻くれているな。……私はこれでも、貴様との別れが寂しいんだよ」

 そう言って笑うハナコ。その表情に、カイザーは驚いたような困ったような嬉しいような、ともかく目まぐるしく表情を変えた後で、フッと笑ってその手を握り返した。小さなその手で、握手した。

「……達者でな‼︎」

「貴様こそ!」

 ニッと笑うハナコとカイザー。その光景に、ツミキもなんだか胸があたたかくなった。

 ツミキは正面に向き直ると、目の前に立つミゾレを見て口を開いた。

「じゃあ……、行くね」

「うん……」

 ツミキの予想に反し、ミゾレは力のない返事で応えた。先程まで笑顔だっただけに、今のその、どこか迷っているような、何かを我慢しているような表情が、ツミキには不思議だった。

「どうしたの……?」

「え⁈ いやその……、えっとね! 私——」

 とその瞬間、ミゾレはハッとしたように動きを止め、チラリと自身の背後に目をやった。そこに立つ、神域の人々に目をやった。

「……ううん、やっぱりなんでもない!」

 そう言って、ミゾレはニコッと笑った。それは、何かを決めた時に見せる笑顔のそれで、ツミキはそれ以上口を挟むのはやめようと思った。

「そっか……。うん、じゃあ、行くね!」

 そう言って、ツミキは片手を上げ、手を振りながら踵を返した。

 その瞬間、ミゾレの表情が明確に曇ったのがわかった。傍目にはわからない、けれど確実に、その顔がどこか痛みを宿したのがわかった。

「——ちょっといいですか?」

 とその時、突然ハナコが口を開いた。この場の空気に水を差すようなその発言に、その場にいたすべての人が驚き、動きを止めた。

 ハナコはその視線を一身に浴びながら、ゆっくりとミゾレの方を振り向いた。その顔に笑みはなく、その目はどこか鋭さすら宿していた。

「ミゾレ様……。ミゾレ様はこの神域の偉大な守護者です。皆があなたを慕い、敬い、必要としている。あなたは私たちを導き支えてくれる、揺らぐことない大切な、なくてはならない指導者なのです」

 唐突なその言葉に、ミゾレはもちろん、その場にいた全員が困惑した表情を見せた。

「え、どうしたの急に……? ……うん、もちろんわかってるよ。私は——」

「——ですが、それと同時に、あなたはいたいけのない十代の少女だ。地に芽生え、心が開き、世界を駆け回りたい衝動に駆られる思春期の少女だ! 誰もそのエネルギーを止めることはできない。それは、あなた自身でさえも……」

 言葉を返そうとするミゾレに、ハナコはそう言い放った。その言葉に、困惑気味だった神域の人々の一部は、ニヤリとした笑みを浮かべ始める。

 一方で、ミゾレは未だ言いたいことがよくわからず困惑した表情を続ける。ツミキもまだ、理解が追いついていない。

 そんなミゾレの前で、ハナコはふっと笑って口を開いた。

「……そして、そんな子供の身勝手を支えるのが、我々大人のつとめなのです」

 ハナコの言葉に、神域の人々はニッと笑った。ハナコも笑っていた。他の補佐官や、戦士のおっちゃん達、お母さん達やおばあさん達、青年達や、キャピキャピした少女達まで、皆同じようにして笑っていた。

 そんな彼ら彼女らを見て、ミゾレは驚いた顔をしていた。

「ハナコ……、みんな……」

 ミゾレの言葉に、うなずきで応える人々。そんな彼ら彼女らのメッセージに、ミゾレは綻ぶように笑った。

「ありがとう……」

 そう言って、ミゾレは再びツミキの方へと向き直る。そうして彼女は、笑顔で口を開いた。

「——ねえツミキ。もし復興が終わったら、きっとあなたに会いに行く! だから、だからね! えっと……。忘れないでね! 私のこと!」

 彼女の笑顔が、輝いた。ツミキは、思わず口をつぐんでしまった。それだけ新鮮で、驚きに満ちたことだった。

 ——彼女が初めて、『木』の名前を呼んだ。

 ツミキはフッと笑うと、ミゾレの真っ直ぐ見て答えた。

「待ってるよ、何百年だって」

 そう言って、ツミキはミゾレと握手した。ミゾレはその手を素早く引くと、バランスを崩したツミキをそのままギュッと抱きしめた。

 周囲から歓声が湧き上がり、ツミキは目をパチクリさせた。

 ——そうして、ツミキはカイザーと共に神域タートルをあとにした。


     *     *     *


「そういえば、結局彼は何者だったんでしょうね……?」

 横に立つ、ハナコが言った。

「彼はツミキ。それで、十分だよ……」

 私の言葉に、ハナコもうなずいた。

「……あっ!」

「どうしました? ミゾレ様!」

 突然大きな声を出した私に、ハナコが心配した様子で声をかけてくる。私は少し照れるように、ゆっくりと首を横に振った。

「ううん、なんでもない……。そっか……。今度は私、ちゃんと見送れたんだ……」

 私のつぶやきに、ハナコは困った表情を浮かべていた。その表情がなんだか可笑しくて、私はからかうように歩き出した。


 ——ねえヒノデ、私は良い仲間に巡り会えたよ。あなたが遺した、この神域で……。


 見上げた空には、昼間の月が輝いていた。


     *     *     *


「どうしたよ、変な顔して」

 道なき平野を徒歩で進んでいると、馬の上に座るカイザーがそう言った。

 ツミキはどこか不思議な胸のうちを言葉にするように、ふわふわと口を開く。

「名前を呼ばれたの、初めてだ……」

 ツミキの言葉に、カイザーは楽しそうに笑った。

「なんだ? 変な感じかぁ?」

「うん。なんだか……、変な感じだ」

 ツミキが答えると、先程まで茶々を入れてきていたカイザーは、静かに笑った。

「……へっ! ちったぁ人間らしい顔できるようになったじゃねぇか」

 キョトンとするツミキ。そんなツミキを見てから、カイザーは馬の上でゴロンと横になり、空を仰いだ。

「あ〜! 次の神域は、若いお姉さんばっかりだと良いなぁ……。野郎はもうコリゴリだ!」

 突然叫び出すカイザーに、ツミキは思わず笑みを漏らした。

「……なんでお姉さんがいいの?」

「なんでって……。へっ! まだまだお子ちゃまだな!」

 そうして、二人は並んで進み続けた。青空の下、次の神域へ向かって歩き始めた。


 ——別れ際のミゾレの笑顔。名を呼んでくれた時のその顔を、永遠に覚えておこう。


 そう、ツミキは思った。

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