ギガンティックビースト&ウィザーズ・ジェネシス
佐間野隆紀@今はセフレでいいから発売中
邂逅
巨獣を相手に、女剣士が巨大な剣を振るっている。
重厚な鎧に身を包んだ、燃えるような赤い髪をした女性だ。
ポニーテールに結われたその赤毛が、躍動する彼女の動きに合わせて舞うように揺れている。
対する巨獣は、角の生えた獅子のような姿をしていた。
といっても、その体躯は人の三、四倍はあろうかというほど巨大で、四脚の足は鱗のようなもので覆われており、その爪も猛禽を思わせるような鋭利さを誇っている。
しかし、巨獣が振るうそれらの凶刃は、女剣士の体にかすりもしない。
「ハッ!」
女剣士は大剣を軽々と振るい、燐光を放つその刃で巨獣の鱗皮を斬り裂く。
傷口から赤黒い血が迸り、巨獣が苦悶の声を上げた。
しかし、驚いたことにその傷口は瞬く間に再生されていく。
巨獣は怒りの眼光で女性を睨みつけ、気勢を削がれた様子もなく高らかに咆哮した。
(な、なんなんだこれは……!)
眼前で繰り広げられる異常な光景を見つめながら、俺は岩壁を背に震え上がっていた。
女性が何者かは分からない。ただ、女性が対峙している巨獣のことは分かる。
獅子獣ライドネル――俺が愛してやまない狩りゲー『ギガンティックビースト&ウィザーズ・ジェネシス』シリーズに出てくるモンスターの一種だ。
初登場はシリーズ二作目で、その軽やかな身のこなしと獰猛さに、俺も最初はなかなか安定して討伐できなかった覚えがある。
といっても、すでに長いシリーズだし、今ではすっかり慣れ親しんだ相手でもある。
累計数で言えば、少なくとも百回以上は討伐してきたことだろう。
だが、それは『ゲーム内』での話だ。
今、俺の目の前には少なくとも実体としてライドネルが存在している。
先ほどまで死ぬほど追いかけられていたから間違いない。
この女剣士が現れなかったら、今ごろ俺はライドネルの腹の中だった可能性すらある。
現実だとは思えないが、背中に触れる岩壁の冷たさはやけにリアルだ。
先ほどから心臓もバクバクと痛いほどに跳ねている。
これがもし夢なら、興奮しすぎて目が覚めていてもおかしくない。
だが、今なお俺の目の前では女剣士とライドネルが激戦を繰り広げていた。
グルルルゥゥ……!
やがて、ライドネルが苦しむように呻きだす。
そのままよろけるようにバランスを崩し、その隙に女剣士が渾身の一刀を振り下ろす。
しかし、ライドネルは転げるようにその剣戟を避けると、そのままくるりと反転して逃走していった。
あっという間にその後ろ姿が見えなくなり、女剣士が大剣を下ろしながら嘆息する。
「大丈夫?」
女剣士がポニーテールを揺らしながら振り返って、俺に声をかけてきた。
よく見ると、めちゃくちゃ綺麗な女性だ。
歳のころは二十歳くらいだろうか。
髪の色と同じ燃えるような赤い瞳をしていて、長く先端の尖った耳をしている。
もしここが『ギガウィズ』の世界なのだとしたら、それは彼女がエルフ族であることを示していた。
まさかとは思うが、本当にゲームの世界に入り込んでしまったのだろうか。
信じられない。信じられないが……。
「あ、ちょっと……!」
視界が白んでいき、慌てたような女剣士の声が遠くに聞こえる。
疲労と混乱のせいで、俺の意識は少しずつ薄れていった。
どうせなら、次に目が覚めたときはいつもの八畳一間の我が家であってほしい。
何の愛着もなかったあのワンルームマンションの一室が、今はひどく懐かしいもののように感じられた。
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