解決篇――猫にもなれば虎にもなる
𓃠 𓃠 𓃠 𓃠 𓃠 𓃠
新聞紙やニュース番組では「ついに殺人に手を染めた怪盗アンノウン」と題して、何度も特集が組まれている。
よくこんなにも飽きないものだなぁ、とバステトは思う。
「……どこ行くの? バステト」
フィデリスが尋ねてきた。分かっていながら、あえて
「ん、ちょっと
普段通りのおちゃらけた態度で応じるバステト。
「……そう」
𓃠 𓃠 𓃠 𓃠 𓃠 𓃠
外に出ると、冷気が全身にまとわりつく。
自分は犯罪者だ、と思い出す。
しばらく街の中をぶらついてから、バステトはスーパーマーケットに足を踏み入れた。
そこで、一人の女性を捉える。
ベビーカーを押している五十代くらいの彼女は、一見、ごく一般的な母親のようだ。
だが、その正体が冷酷な暗殺者であることを、バステトは知っている。
「ふうん、
暗殺者が
「え……? えっと、私に言ってます?」
一般人を装い、動揺した
「お前に言ってるんだよ、人殺し」
バステトは容赦なく続ける。
「
「意味が分かりません。わけの分からないことを言わないでください!」
暗殺者の抗議を無視して、バステトは一方的に語る。
「
「…………」
暗殺者はバステトを
ベビーカーの上の赤ん坊だけは、何も知らずにすやすやと眠っている。
「
物体が文や絵と異なる最も大きな特徴は、三次元の形状を有しているということ。
「単に妊娠してるってだけじゃなくて、一目で妊婦だって分かるくらい、犯人のお腹は大きかったんだ。だから
一般的に妊婦のピクトグラムは『髪の長い頭』と『腹部の出た胴体』という二つの特徴によって表現される。
だが、薄れゆく意識の
「そんなことを私に話して、どうするつもりですか?
暗殺者は
「へえ。ボクの通り名を知ってくれてるんだ。光栄だね」
「別に話してあげたことに深い意味はないよ。次からは気をつけてね、って思ったくらいかな。頭の良い人なら、これくらいすぐに推理しちゃうんだからさ」
「親切心のつもりにしては、ずいぶん殺気を感じますよ」
「あはは、そりゃそうだ。怒ってるもん、ボク。でも、さっきのも嘘じゃないよ。せっかく
バステトは目の前の暗殺者を殺したくて仕方がない衝動を、抑えながら言った。
「仕事の現場がかち合った件は謝罪します。ですが、我々の間ではよくあることだと思いませんか? こちらには、怪盗アンノウンを罠に嵌めようという意図はありませんでした。むしろ、アンノウンが進んで濡れ衣を
「あー、ボクはそんなことを怒ってるんじゃないよ。その点はお前が言った通り、
溜め息を
「お前、
「…………」
暗殺者は黙って頷く。
「ボクはさ、
「
「心外だなぁ。さっきのはほんとに、親切で説明してあげただけだってばぁ」
バステトはくすくすと
「
「…………」
「できれば、日本から出ていってくれないかなぁ? うっかりまた出会ったら、その子まで巻き込んじゃうかも。そんなの、お互いに嫌でしょ?」
そう告げて、バステトは暗殺者の返事を待たずに歩き出す。
「じゃ、そーゆーことだから。お願いね。もう二度と会わないことを祈ってるよ」
――――『ハンプティ・ダンプティ氏のシンプルな遺言』了
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