卵が先か鶏が先か ―円環の物語―

ましろとおすみ

プロローグ 円の始まり

 卓上で、ひとつ卵が回っている。


 指先で弾かれたそれは、心許ない軸を揺らしながら、滑らかな弧を描き続けている。


​「卵が先か、鶏が先か。」


​ 誰が始めたのかも知れないその問いは、今や手垢のついた格言に過ぎない。


 だが、もしその円環がどこかで歪み、綻びていたとしたらどうだろう。

 

 原因があるから、結果がある。

 過去があるから、未来がある。


 そんな「当たり前」の順番が、例えば影のようにふたつに分かれたり、あるいは鏡合わせのように逆転してしまったとしたら。


​ 窓の外では、夜が静かに更けていく。


 カーテンの隙間から差し込む月明かりは、今夜に限っては少しばかり饒舌すぎるように見えた。その光に照らされた影が、わずかに震える。


​ いつまで経っても止まる気配のない卵。まるで時そのものが円の上を空転しているかのようだ。


 どちらが先で、どちらが後か。

 そんなことは、実はどうでもいいことなのかもしれない。

 

 ただ、ひとつ確かなことは……。


 あなたが今、この物語を読み始めたということ。


 それが「始まり」なのか、それとも「終わりへの一歩」なのか、それを知る術はまだどこにもない。

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